著者
泉 北斗 根岸 淳二郎 三浦 一輝 伊藤 大雪 PONGSIVAPAI Pongpet
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.1-20, 2020-09-28 (Released:2020-11-30)
参考文献数
56
被引用文献数
1 2

本研究は,自然再生計画の具体化に向けて生態系保全のための情報蓄積が急務である石狩川の氾濫原水域を対象に,イシガイ目二枚貝の生息の現状と水域管理上の課題を明らかにすることを目的とした.複数種の現状について,生息水域タイプの選好性,繁殖時期の特定とともに採取個体数に対する妊卵の割合,近年の新規加入(再生産)の程度,そして再生産に重要である魚類への寄生状況の 4 項目を調べた.30 水域を人工短絡湖沼,自然短絡湖沼,後背湿地の 3 タイプに分類した.そのうち 27 水域においてベルトトランセクト法および方形区法を用いてヌマガイ,イシガイ,フネドブガイの生息数を推定した.また,12 水域を対象に,採取した個体の外鰓の観察により成熟・妊卵状況を確認した.さらに,自然短絡湖沼 4 水域で,採取した魚類から切除した鰭と鰓の観察により,グロキディウム幼生の寄生数を計数した.フネドブガイの採取個体数が最も多く,その他 2 種が少なかった後背湿地で CPUE の値が高かった.フネドブガイでは,未成熟個体の占める推定割合は低く,多くの水域で全体個体数の 3%程度以下であった.他 2 種も 1-2 水域以外では未成熟個体が確認されなかった.ヌマガイとイシガイは 7 月と 8 月に 15 .52%の個体で妊卵し,フネドブガイは 9 月から 11 月にかけて 3 .43%の個体が妊卵していた.魚類相は水域間でその構成に大きな差は見られなかったが,タイリクバラタナゴが各水域の魚類総個体数の 26 .0%から 70 .2%を占め共通して優占した.一方で,イシガイ類の幼生に寄生された個体は見つからなかった. 管理上の方策として成立要因・物理水文特性に基づく水域タイプを認識し,タイプの多様性を維持するように水域を管理していくことがイシガイ目の保全に重要であることが示唆された.また,イシガイ目の個体群の再生産が 2 年程度は停滞しており,その原因として水質の劣化と外来種が優占する魚類相が考えられた.したがって,管理上の課題として長期的な観点からイシガイ目の健全な個体群の維持に有効な対策を検討することが必要である.
著者
五味 高志 戸田 浩人 木村 園子ドロテア 渡邊 裕純 浅野 友子 水垣 滋 布川 雅典 根岸 淳二郎
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-05-31

森林-渓流生態系の構成物質では、林床落葉の放射性セシウム濃度が最も高く、福島原発事故によって放出された放射性物質の多くは、陸域に現存していた。流域のCs-137空間分布は、林相、微地形、立地などに影響されていた。森林土壌では、農地土壌と比べて有機物に吸着したCs-137が多かった。森林から渓流に供給されたリターは、溶脱によって放射性セシウムが流出し、CS-137濃度は林床の25%程度であった。これに応じて、同じ栄養段階の生物では、林床に生息するものより渓流に生息する動物でCs-137濃度が高くなっていた。本研究結果から、有機物に付着したCs-137の長期的な観測の重要性を示唆できた。
著者
三浦 一輝 石山 信雄 川尻 啓太 渥美 圭佑 長坂 有 折戸 聖 町田 善康 臼井 平 Gao Yiyang 能瀬 晴菜 根岸 淳二郎 中村 太士
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.39-48, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
38

北海道における希少淡水二枚貝カワシンジュガイ属2種(カワシンジュガイMargaritifera laevis、コガタカワシンジュガイM. togakushiensis)が同河川区間(<100 m区間内)に生息する潜在性の高い地域を広く示すために、北海道内の計31水系53河川から本属を採集し、mtDNAの16S rRNA領域におけるPCR増幅断片長を比較する手法を用いて種同定を行った。種同定結果を元に10 × 10 kmメッシュ地図に地図化した。結果、カワシンジュガイが23水系39河川、コガタカワシンジュガイが25水系40河川から確認された。全調査河川のうち、49%の17水系26河川から2種が同河川区間から確認され、各地域の全調査河川に対する確認調査河川の割合が道東地域で68%と最も高かった。また、全38調査メッシュのうち、50%の19メッシュから2種が同河川区間から確認された。地域別に見ると、各地域の全調査メッシュに対する確認調査メッシュの割合が道東地域で67%と最も高かった。本研究では、カワシンジュガイ属2種の遺伝分析を行い、本属2種が同河川区間に生息する河川およびその潜在性が高い地域を示すことができた。本結果は、今後、北海道に生息するカワシンジュガイ属の調査や保全策立案に重要な情報を提供できると考えられる。
著者
根岸 淳二郎 萱場 祐一 塚原 幸治 三輪 芳明
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.37-50, 2008
参考文献数
139
被引用文献数
4

軟体動物門に属するイシガイ類二枚貝(イシガイ目:Unionoida)は世界各地の河川や湖沼に広く生息し国内では18種が報告されている。特に流水生の種は土地利用の変化や河川改修の影響で国内外種ともにその生息範囲の縮小および種多様性の低下が懸念されている。これまで国内でイシガイ類に関する様々な優れた知見が蓄積されているが、その多くが基礎生態の観点から行われたものである。特に北米地域では高いイシガイ類の種多様性(約280種)を背景にして、基礎から応用にいたる様々な有用な研究事例が報告されており、イシガイ類の分布に影響を与える環境条件として、洪水時における生息場所の水理条件や、宿主魚類の分布が重要であることが明らかにされつつある。また、その生態的機能も評価され、底生動物群集や水質に大きな影響を持つ可能性も指摘されている。既往のイシガイ類二枚貝に関する生態学的研究の整理から、国内では、稚貝の生態や餌資源等に関する基礎的研究、さらに好適生息場所環境条件や生態的機能等に関する応用的側面からの研究が不十分であることが明らかになった。イシガイ類を介して成立する陸水生態系全体の保全のためこれらの分野における研究の進展が必要であることを示した。
著者
根岸 淳二郎 萱場 祐一 塚原 幸治 三輪 芳明
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 = Ecology and civil engineering (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.195-211, 2008-12-30
参考文献数
113
被引用文献数
8 27

イシガイ目二枚貝 (Unionoida,イシガイ類) は世界各地の河川・湖沼に生息し世界では合計約1000種,国内では18種が報告されている.特定魚類が産卵母貝として必要とすること,またイシガイ類も特定魚類に寄生することが必要であることなどから生息環境の状態を示す有効な指標種として機能する.国内外種ともにその生息範囲の縮小および種多様性の低下が懸念され,約290種が報告されている北米ではその約70%程度の生息環境の劣化が危惧されている.わが国では,数種の地域個体群がすでに絶滅し,13種までが絶滅危惧種の指定を受けている.イシガイ類の生息環境劣化には直接的要因(個体採取)と間接的要因(河川改修など)の両者が考えられる.近年は外来種の侵入による悪影響が心配されている.これまでの国内外の研究から,国外で報告される主な生息環境が比較的規模の大きな河川であるのに対し,国内では農業用排水路のような強度に人為的影響を受けた環境がイシガイ類にとって重要な生息環境であることが分かる.このことは,わが国独自の生息環境に基づいた研究知見を蓄積する必要性を示している.岐阜県関市で観察された農業用排水路の改修前後で見られた環境の変化は,主に横断・縦断方向の両方向の環境多様性の著しい低下,およびイシガイ類の生息密度の明らかな低下であった.これらを改善するために,側方構造物および堰板の設置行われたが,水路の環境を改修以前のものに近づけるには効果的であった.効率的な生息場所保全や再生事業が行われるためには,過去の事業の工程および結果がその成功・失敗にかかわらず積極的に公開されるべきである.地域レベルでの活動の事例や成果等が広く共有されることが国土全体を視野にいれた生息場所保全に重要である.
著者
根岸 淳二郎 萱場 祐一 塚原 幸治 三輪 芳明
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.195-211, 2008 (Released:2009-03-13)
参考文献数
113
被引用文献数
38 27

イシガイ目二枚貝 (Unionoida,イシガイ類) は世界各地の河川・湖沼に生息し世界では合計約1000種,国内では18種が報告されている.特定魚類が産卵母貝として必要とすること,またイシガイ類も特定魚類に寄生することが必要であることなどから生息環境の状態を示す有効な指標種として機能する.国内外種ともにその生息範囲の縮小および種多様性の低下が懸念され,約290種が報告されている北米ではその約70%程度の生息環境の劣化が危惧されている.わが国では,数種の地域個体群がすでに絶滅し,13種までが絶滅危惧種の指定を受けている.イシガイ類の生息環境劣化には直接的要因(個体採取)と間接的要因(河川改修など)の両者が考えられる.近年は外来種の侵入による悪影響が心配されている.これまでの国内外の研究から,国外で報告される主な生息環境が比較的規模の大きな河川であるのに対し,国内では農業用排水路のような強度に人為的影響を受けた環境がイシガイ類にとって重要な生息環境であることが分かる.このことは,わが国独自の生息環境に基づいた研究知見を蓄積する必要性を示している.岐阜県関市で観察された農業用排水路の改修前後で見られた環境の変化は,主に横断・縦断方向の両方向の環境多様性の著しい低下,およびイシガイ類の生息密度の明らかな低下であった.これらを改善するために,側方構造物および堰板の設置行われたが,水路の環境を改修以前のものに近づけるには効果的であった.効率的な生息場所保全や再生事業が行われるためには,過去の事業の工程および結果がその成功・失敗にかかわらず積極的に公開されるべきである.地域レベルでの活動の事例や成果等が広く共有されることが国土全体を視野にいれた生息場所保全に重要である.
著者
根岸 淳二郎 萱場 祐一 塚原 幸治 三輪 芳明
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.37-50, 2008-03-30 (Released:2016-09-16)
参考文献数
139
被引用文献数
7

軟体動物門に属するイシガイ類二枚貝(イシガイ目:Unionoida)は世界各地の河川や湖沼に広く生息し国内では18種が報告されている。特に流水生の種は土地利用の変化や河川改修の影響で国内外種ともにその生息範囲の縮小および種多様性の低下が懸念されている。これまで国内でイシガイ類に関する様々な優れた知見が蓄積されているが、その多くが基礎生態の観点から行われたものである。特に北米地域では高いイシガイ類の種多様性(約280種)を背景にして、基礎から応用にいたる様々な有用な研究事例が報告されており、イシガイ類の分布に影響を与える環境条件として、洪水時における生息場所の水理条件や、宿主魚類の分布が重要であることが明らかにされつつある。また、その生態的機能も評価され、底生動物群集や水質に大きな影響を持つ可能性も指摘されている。既往のイシガイ類二枚貝に関する生態学的研究の整理から、国内では、稚貝の生態や餌資源等に関する基礎的研究、さらに好適生息場所環境条件や生態的機能等に関する応用的側面からの研究が不十分であることが明らかになった。イシガイ類を介して成立する陸水生態系全体の保全のためこれらの分野における研究の進展が必要であることを示した。
著者
根岸 淳二郎
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

第一に、絶滅危惧種であるイシガイ類二枚貝は下流河川との連続性が高い農業用水路に高い確率で生息し、同所的に豊かな魚類相の生息が確認された。また、そのような生息地は、開発地割合の低い景観構造を有する地域に存在した。第二に、河跡湖における水草種数は水草繁茂面積と正の相関を持ち、生息地の質は、人工的にショートカットされた水域で最も低かった。第三に、湧水河川には特徴的な水生昆虫相が確認され、流域スケールでの分類群多様性に貢献していた。これらより、地形や湧水に着目して景観スケールで流水環境をタイプ分けすることで効率的な水生生物多様性保全が行える可能性が示唆された。