著者
森 照貴 川口 究 早坂 裕幸 樋村 正雄 中島 淳 中村 圭吾 萱場 祐一
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
pp.21-00020, (Released:2022-03-17)
参考文献数
63
被引用文献数
2

生物多様性の現状把握と保全への取組みに対する社会的要求が高まる一方,河川を含む淡水域の生物多様性は急激に減少している可能性がある.生態系の復元や修復を実施する際,目標を設定することの重要性が指摘されており,過去の生息範囲や分布情報をもとにすることは有効な方法の一つである.そこで,本研究では 1978 年に実施された自然環境保全基礎調査(緑の国勢調査)と 1990 年から継続されている河川水辺の国勢調査を整理し,1978 年の時点では記録があるにも関わらず,1990 年以降,一度も採取されていない淡水魚類を「失われた種リスト」として特定することを目的とした.109 ある一級水系のうち,102 の水系で二つの調査結果を比較することができ,緑の国勢調査で記録されている一方,河川水辺の国勢調査での採取されていない在来魚は,全国のデータをまとめるとヒナモロコとムサシトミヨの2種であった.比較を行った 102 水系のうち,39 の水系では緑の国勢調査で記載があった全ての在来種が河川水辺の国勢調査で採取されていた.一方,63 の水系については,1 から 10 の種・種群が採取されていないことが明らかとなった.リストに挙がった種は水系によって様々であったが,環境省のレッドリストに掲載されていない種も多く,純淡水魚だけでなく回遊魚や周縁性淡水魚も多くみられた.水系単位での局所絶滅に至る前に「失われた種リスト」の魚種を発見し保全策を講じる必要があるだろう.そして,河川生態系の復元や修復を実施する際には,これら魚種の生息環境や生活史に関する情報をもとにすることで,明確な目標を立てることが可能であろう.
著者
片桐 浩司 大寄 真弓 萱場 祐一
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.181-196, 2015-11-30 (Released:2017-10-01)
参考文献数
51

流域や集水域などをふくめた広域的な分布情報の把握は、種の分布箇所の保全を考えるうえで重要である。水生植物を扱ったこれまでの湖沼研究では、湖内のみを対象にした例がほとんどで、周辺域の分布・生育状況は調べられた例は少ない。本研究では、霞ケ浦とその流域に残存する水生植物を保全するための基礎情報を得ることを目的として、水生植物が残存していると想定される堤脚水路において、水生植物の分布の変遷と、分布を規定する環境条件に関する調査をおこなった。堤脚水路には、エビモをはじめとする在来の沈水植物が残存していた。すでに在来の沈水植物は湖本体から消失しているため、堤脚水路はこれらの数少ない生育地のひとつとして機能していた。一方で堤脚水路は、オオフサモ、ミズヒマワリなど侵略的な外来種の生育環境になっており、これらの供給源となりうることも示された。環境条件との対応から、在来沈水植物であるエビモは、水田周辺で灌漑期の水深が深く流速が速く、低窒素で特徴づけられた。最近4年間でエビモの生育区間数は大幅に減少しており、生育地が富栄養、還元的な環境へと変化した可能性がある。トチカガミ、Azolla spp.、ウキクサ類といった浮遊植物は、ハス田周辺で、高T-P・PO_4-Pによって特徴づけられた。アマゾントチカガミ、コカナダモなどの外来種とヒシは、高いNO_3-N、少ない泥厚と、民家、公園などが周辺にある土地利用条件によって特徴づけられた。これらの結果から、生育地周辺の水田、ハス田、民家などの土地利用が水生植物の分布に影響を及ぼしていることが示唆された。本研究から、堤脚水路における水生植物の保全にあたっては、環境条件だけでなく周辺の土地利用に着目することの重要性が示唆された。今後の湖沼の水生植物研究においては、広域的な視点から種や群落の保全方針を検討していくことが必要である。
著者
佐川 志朗 萱場 祐一 皆川 朋子 河口 洋一
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 = Ecology and civil engineering (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.193-199, 2006-01-30
参考文献数
21
被引用文献数
2 4

本研究は,水面幅約3mの直線河道を呈する実験河川において,24調査区における努力量を統一させた魚類捕獲調査を行い,エレクトリックショッカーの捕獲効率を算出し,各種に対するショッカーの効用および効果的な魚類捕獲の方法について考察することを目的とした.調査の結果,底生魚および遊泳魚ともに捕獲効率が高い種および低い種が存在し,前者としては,アユ,ドジョウおよびシマドジョウ属が,後者としては,オイカワ,タモロコおよびヨシノボリ属が該当した.オイカワおよびタモロコの捕獲効率が低かった原因としては,第1年級群である40mm以下の小型個体の発見率が小さかったことが示唆された.また,ヨシノボリ属については,微生息場所である河床間隙中で感電した個体が発見できなかったために,第1,第2年級群を含めた全サイズ区分にわたって捕獲効率が低かったことが考えられた.ヨシノボリ属やコイ科魚類の稚仔魚が分布する河川でショッカーを用いて捕獲を行う際には,たも網を用いて感電個体をすくい捕るのと併せて,あらかじめ通電する箇所の下流に目の細かいさで網を設置しておき,すくい捕りのすぐ後に,足で石を退かせながら水をさで網に押し入れるような捕獲方法を併用することが望ましい.今後は,本邦産魚類の各種に対して,様々な水質条件,ショッカー設定下での捕獲効率を明らかにするとともに,各魚類の成長段階ごとにショッカーの影響程度を把握し,効果的で魚類個体群への影響を最小限とする魚類捕獲手法の検討を行う必要がある.
著者
原田 守啓 高岡 広樹 大石 哲也 萱場 祐一
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
河川技術論文集 (ISSN:24366714)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.253-258, 2015 (Released:2022-04-01)
参考文献数
12
被引用文献数
1

This paper aims at examination of the effectiveness in Japan of the “Local River Widening” method mainly tried in Europe. About the example site of the small and medium-sized rivers which flows through the Kiso-river fan, the follow-up survey was conducted to consider the geographical feature change process. A point-bar was formed through two flood term after construction in the site. In order to generalize the knowledge acquired from the case study, the virtual river channels of alluvial fans were set up, numerical analysis were performed on varying plane conditions. The pattern of geographical feature change was arranged by four types, and the formation factors of each type were considered by the results of analysis. The considerations with the development domain of bed forms were performed. It was suggested that the fall of average shear stress of the widening section caused formation of bar-like geographical feature.
著者
森 照貴 川口 究 早坂 裕幸 樋村 正雄 中島 淳 中村 圭吾 萱場 祐一
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.173-190, 2022-03-17 (Released:2022-04-20)
参考文献数
63
被引用文献数
2

生物多様性の現状把握と保全への取組みに対する社会的要求が高まる一方,河川を含む淡水域の生物多様性は急激に減少している可能性がある.生態系の復元や修復を実施する際,目標を設定することの重要性が指摘されており,過去の生息範囲や分布情報をもとにすることは有効な方法の一つである.そこで,本研究では 1978 年に実施された自然環境保全基礎調査(緑の国勢調査)と 1990 年から継続されている河川水辺の国勢調査を整理し,1978 年の時点では記録があるにも関わらず,1990 年以降,一度も採取されていない淡水魚類を「失われた種リスト」として特定することを目的とした.109 ある一級水系のうち,102 の水系で二つの調査結果を比較することができ,緑の国勢調査で記録されている一方,河川水辺の国勢調査での採取されていない在来魚は,全国のデータをまとめるとヒナモロコとムサシトミヨの2種であった.比較を行った 102 水系のうち,39 の水系では緑の国勢調査で記載があった全ての在来種が河川水辺の国勢調査で採取されていた.一方,63 の水系については,1 から 10 の種・種群が採取されていないことが明らかとなった.リストに挙がった種は水系によって様々であったが,環境省のレッドリストに掲載されていない種も多く,純淡水魚だけでなく回遊魚や周縁性淡水魚も多くみられた.水系単位での局所絶滅に至る前に「失われた種リスト」の魚種を発見し保全策を講じる必要があるだろう.そして,河川生態系の復元や修復を実施する際には,これら魚種の生息環境や生活史に関する情報をもとにすることで,明確な目標を立てることが可能であろう.
著者
渡辺 友美 吉冨 友恭 萱場 祐一
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.73-85, 2017-09-28 (Released:2018-01-15)
参考文献数
23
被引用文献数
4 3

自然再生事業や生物多様性保全の取り組みでは,市民や行政に自然環境の現状や課題を的確に伝える技術が必要とされている.映像は見えにくい河川生態を分かりやすく伝えるツールとして環境教育や展示の場で活用され,効果が報告されてきた.しかしながら,河川生態の映像化そのものに関する研究は多くなく,映像開発の参考となる知見が不足している.そこで本稿では,著者が制作に関わった水環境の映像展示事例から制作上の留意点と技術を抽出し,河川生態の映像化について体系的な整理を試みた.
著者
根岸 淳二郎 萱場 祐一 塚原 幸治 三輪 芳明
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.37-50, 2008
参考文献数
139
被引用文献数
4

軟体動物門に属するイシガイ類二枚貝(イシガイ目:Unionoida)は世界各地の河川や湖沼に広く生息し国内では18種が報告されている。特に流水生の種は土地利用の変化や河川改修の影響で国内外種ともにその生息範囲の縮小および種多様性の低下が懸念されている。これまで国内でイシガイ類に関する様々な優れた知見が蓄積されているが、その多くが基礎生態の観点から行われたものである。特に北米地域では高いイシガイ類の種多様性(約280種)を背景にして、基礎から応用にいたる様々な有用な研究事例が報告されており、イシガイ類の分布に影響を与える環境条件として、洪水時における生息場所の水理条件や、宿主魚類の分布が重要であることが明らかにされつつある。また、その生態的機能も評価され、底生動物群集や水質に大きな影響を持つ可能性も指摘されている。既往のイシガイ類二枚貝に関する生態学的研究の整理から、国内では、稚貝の生態や餌資源等に関する基礎的研究、さらに好適生息場所環境条件や生態的機能等に関する応用的側面からの研究が不十分であることが明らかになった。イシガイ類を介して成立する陸水生態系全体の保全のためこれらの分野における研究の進展が必要であることを示した。
著者
根岸 淳二郎 萱場 祐一 塚原 幸治 三輪 芳明
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 = Ecology and civil engineering (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.195-211, 2008-12-30
参考文献数
113
被引用文献数
8 27

イシガイ目二枚貝 (Unionoida,イシガイ類) は世界各地の河川・湖沼に生息し世界では合計約1000種,国内では18種が報告されている.特定魚類が産卵母貝として必要とすること,またイシガイ類も特定魚類に寄生することが必要であることなどから生息環境の状態を示す有効な指標種として機能する.国内外種ともにその生息範囲の縮小および種多様性の低下が懸念され,約290種が報告されている北米ではその約70%程度の生息環境の劣化が危惧されている.わが国では,数種の地域個体群がすでに絶滅し,13種までが絶滅危惧種の指定を受けている.イシガイ類の生息環境劣化には直接的要因(個体採取)と間接的要因(河川改修など)の両者が考えられる.近年は外来種の侵入による悪影響が心配されている.これまでの国内外の研究から,国外で報告される主な生息環境が比較的規模の大きな河川であるのに対し,国内では農業用排水路のような強度に人為的影響を受けた環境がイシガイ類にとって重要な生息環境であることが分かる.このことは,わが国独自の生息環境に基づいた研究知見を蓄積する必要性を示している.岐阜県関市で観察された農業用排水路の改修前後で見られた環境の変化は,主に横断・縦断方向の両方向の環境多様性の著しい低下,およびイシガイ類の生息密度の明らかな低下であった.これらを改善するために,側方構造物および堰板の設置行われたが,水路の環境を改修以前のものに近づけるには効果的であった.効率的な生息場所保全や再生事業が行われるためには,過去の事業の工程および結果がその成功・失敗にかかわらず積極的に公開されるべきである.地域レベルでの活動の事例や成果等が広く共有されることが国土全体を視野にいれた生息場所保全に重要である.
著者
根岸 淳二郎 萱場 祐一 塚原 幸治 三輪 芳明
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.195-211, 2008 (Released:2009-03-13)
参考文献数
113
被引用文献数
38 27

イシガイ目二枚貝 (Unionoida,イシガイ類) は世界各地の河川・湖沼に生息し世界では合計約1000種,国内では18種が報告されている.特定魚類が産卵母貝として必要とすること,またイシガイ類も特定魚類に寄生することが必要であることなどから生息環境の状態を示す有効な指標種として機能する.国内外種ともにその生息範囲の縮小および種多様性の低下が懸念され,約290種が報告されている北米ではその約70%程度の生息環境の劣化が危惧されている.わが国では,数種の地域個体群がすでに絶滅し,13種までが絶滅危惧種の指定を受けている.イシガイ類の生息環境劣化には直接的要因(個体採取)と間接的要因(河川改修など)の両者が考えられる.近年は外来種の侵入による悪影響が心配されている.これまでの国内外の研究から,国外で報告される主な生息環境が比較的規模の大きな河川であるのに対し,国内では農業用排水路のような強度に人為的影響を受けた環境がイシガイ類にとって重要な生息環境であることが分かる.このことは,わが国独自の生息環境に基づいた研究知見を蓄積する必要性を示している.岐阜県関市で観察された農業用排水路の改修前後で見られた環境の変化は,主に横断・縦断方向の両方向の環境多様性の著しい低下,およびイシガイ類の生息密度の明らかな低下であった.これらを改善するために,側方構造物および堰板の設置行われたが,水路の環境を改修以前のものに近づけるには効果的であった.効率的な生息場所保全や再生事業が行われるためには,過去の事業の工程および結果がその成功・失敗にかかわらず積極的に公開されるべきである.地域レベルでの活動の事例や成果等が広く共有されることが国土全体を視野にいれた生息場所保全に重要である.
著者
根岸 淳二郎 萱場 祐一 塚原 幸治 三輪 芳明
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.37-50, 2008-03-30 (Released:2016-09-16)
参考文献数
139
被引用文献数
7

軟体動物門に属するイシガイ類二枚貝(イシガイ目:Unionoida)は世界各地の河川や湖沼に広く生息し国内では18種が報告されている。特に流水生の種は土地利用の変化や河川改修の影響で国内外種ともにその生息範囲の縮小および種多様性の低下が懸念されている。これまで国内でイシガイ類に関する様々な優れた知見が蓄積されているが、その多くが基礎生態の観点から行われたものである。特に北米地域では高いイシガイ類の種多様性(約280種)を背景にして、基礎から応用にいたる様々な有用な研究事例が報告されており、イシガイ類の分布に影響を与える環境条件として、洪水時における生息場所の水理条件や、宿主魚類の分布が重要であることが明らかにされつつある。また、その生態的機能も評価され、底生動物群集や水質に大きな影響を持つ可能性も指摘されている。既往のイシガイ類二枚貝に関する生態学的研究の整理から、国内では、稚貝の生態や餌資源等に関する基礎的研究、さらに好適生息場所環境条件や生態的機能等に関する応用的側面からの研究が不十分であることが明らかになった。イシガイ類を介して成立する陸水生態系全体の保全のためこれらの分野における研究の進展が必要であることを示した。