- 著者
-
千葉 徳爾
- 出版者
- The Association of Japanese Geographers
- 雑誌
- 地理学評論 (ISSN:00167444)
- 巻号頁・発行日
- vol.45, no.7, pp.461-474, 1972-07-01 (Released:2008-12-24)
- 参考文献数
- 4
- 被引用文献数
-
3
2
1) 八重山諸島のマラリアは3日熱のほか,わが国に稀な熱帯熱マラリアを含む.著者はその歴史的消長過程を手がかりとして,風土病についての地域の諸構成要素の連関を分析し,やや詳しい記述を試みた. 2) この地域では,日光の照射を必要とするnopheles minimusが,熱帯熱マラリアの強力な媒介者として山麓の渓流・湧泉に棲息し,近世の開墾の進展と津波災害にもとつく森林の減少にともなって,日光を忌む比較的弱い媒介者, Anopheles ohamaiと交代した.近世中期以後にマラリアによる廃村化が急速に進行した1因は,かような生態的作用系列によると推測される. 3) 八重山諸島のマラリアのEndemicareaに,あえて住民を立入らせ,Pandemicな流行を出現させた作用は,近世から明治中期までは人頭税,太平洋戦中の軍による疎開命令,その後には人口過剰による移民促進という,地域外から及んだ社会的作用系列に属する. Endemicareaの地域的構造は,薬品によるマラリア原虫駆除の完了によっても,なお厳存していて,将来何かの原因でマラリア原虫が導入されれば, Pandemyが再現される可能性がある.