著者
下司 晶
出版者
教育思想史学会
雑誌
近代教育フォーラム (ISSN:09196560)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.181-197, 2003-09-27 (Released:2017-08-10)

PTSD論が喚起した外傷記憶の<現実性/幻想性>をめぐる問題は、1950年代の<誘惑理論の放棄>解釈図式の再燃といえる。クリスらの精神分析家たちは、『フリース宛書簡』から<誘惑理論の放棄>というフロイトの理論修正-<現実>から<幻想>への外傷報告の性質の移行-を発見し、それを精神分析の起源ととらえた。それに対し、マッソンらの心的外傷(PTSD)論者たちは、1980年代にこの図式を逆転させ、フロイトが外傷報告の<現実性>を棄却したことを、自らの批判的立脚点とした。これらの<誘惑理論の放棄>解釈は、ともに<現実/幻想>としての個体経験の重視という心理学的観点、自説の論拠としてのフロイトの生涯という枠組みを共有している。20世紀中葉、精神分析は、フロイトの多様なテクストを個体経験に収敏可能な範囲内に切りつめ、心理学理論として自らを整備し、その誕生を創始者の心理生活史に基礎づけることによって、自存的な言説として自律した。その契機こそ<誘惑理論の放棄>の発見だった。今日に至る、フロイトを心理学者たらしめるこの循環回路を超えて、彼を異化する必要があるのではないか。

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