著者
寺床 幸雄
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.443-461, 2016 (Released:2018-01-31)
参考文献数
103
被引用文献数
2 2

本稿では,農業・農村研究との関わりにおいて社会関係資本の概念について再検討し,農村地理学の研究においてその概念に注目する意義と今後の研究の方向性を展望することを目的とする。さらに,英語圏での農村地理学,農村社会学で展開されるネオ内発的発展論の問題意識をふまえ,農村における農業の社会的側面を議論することが日本の農村,農業の持続可能性を考える際に重要であることを指摘する。社会関係資本の議論は1980年代以降に活発化し,パットナムの論考によって1990年代以降広く社会科学全体で行われるようになった。地理学分野でも,パットナムへの批判の後に議論が活発化し,その空間性や地域における影響をめぐって検討が進められた。さらに,地理学において関係論的視点が重視されるようになったことで,経済地理学を中心に社会関係への注目が高まり,社会的ネットワークとともに社会関係資本の重要性が指摘されるようになった。日本の農業・農村地理学においても社会関係資本に対する注目が高まっているが,それらは主に旧来の共同体的な結束型社会関係資本を中心に議論を進めている。橋渡し型社会関係資本との相互作用や,旧来の社会関係からの変化との関わりに注目する必要がある。さらに,社会関係資本に関する研究は量的研究が主流となっているが,構造的社会関係資本だけでなく,相互の信頼関係や共有される規範意識といった認知的社会関係資本についても注目して,質的研究を深化させることが重要である。

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