著者
水島 治郎
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.1_40-1_61, 2021 (Released:2022-06-15)
参考文献数
14

オランダでは、1917年の憲法改正から現在に至るまで1世紀以上にわたり、各政党に1議席まで議席を配分する、いわば 「完全比例代表制」 が採られてきた。2017年下院選では、実に13の政党が議席を獲得している。本稿ではこの完全比例代表制の成立した歴史的背景を探り、「政党優位」 と 「議員の自律性」 をめぐるせめぎあいを振り返ったうえで、比例代表制導入後も政党にとらわれない 「優れた人物」 を議会に送ろうという動きが生じたものの、事実上挫折に終わったことを明らかにする。そして20世紀、完全比例代表制のもとであっても、必ずしも小党分立と連立政権成立の困難が生じてきたわけではないこと、その背景として、「柱」 社会の存在があり、主要勢力 (特にキリスト教民主主義勢力、社会民主主義勢力) が安定的に支持を確保し、連立政権の組み合わせも限定的であったことなどを示す。しかし 「柱」 社会が解体し、さまざまな新党が登場した21世紀においては、もはや既成政党の優位は自明とはいえなくなっており、小党分立などの完全比例代表制の負の側面が表面化する可能性が高いこと、他方、政党組織にとらわれない個性的政治家の台頭といった、制度導入時の意図が 「実現」 している面もあることを指摘した。

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