著者
三柴 丈典
出版者
公益財団法人 産業医学振興財団
雑誌
産業医学レビュー (ISSN:13436805)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.83, 2020 (Released:2020-09-01)

産業保健法学は、産業保健に関する問題の未然防止と事後解決に貢献する法律論のあり方と運用法を探究する新しい学際的な研究領域である。その必要性を象徴する好例として、近年生じた神奈川SR経営労務センター事件が挙げられる。おそらく、個性的に当該組織との相性が合わない労働者との間で軋轢が生じ、ハラスメントや適応障害などの問題に発展し、弁護士や精神科臨床に携わる産業医が関与してなお、4次にわたる訴訟に至っている。 こうした問題の未然防止や解決を図るには、既存の単独の専門分野の方法論では限界がある。法律論における事後的な紛争解決の蓄積や、再発防止策としての制定法(予防法)の立法技術などを素材としつつも、関係分野の知見を結集し、実効的な問題解決策を検討し、それを法に反映させる必要がある。ここでいう法には、国が策定する法令から、裁判例、個々の事業場で作成される規定、個別の労使関係における約束までを含む。また、産業保健の対象は、個人と組織という個性を持つ動態なので、法の策定と運用に際しても、母性的(支持的)なアプローチと父性的(秩序的)なアプローチなど、多角的なアプローチを継続的、手続的に図る視点が求められる。昨今、現場で生じている産業保健問題の多くは、最終的には、個人と組織の納得感の最大化や調整の問題に帰することが多いことによる。その意味でも、事業場ごとに策定される産業保健に関する規定は、一定の合理性を備え、個々の事業場の個性を踏まえていれば、産業保健問題の解決に貢献する可能性が高い。産業保健の領域で問題となり易い、労働者の健康情報等の取扱いに際しても、事業場ごとに、教条的でないルールを設け、適任な人物による人的管理体制を構築し、情報の保護と健康管理の両立を図る必要がある。

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