著者
佐々木 那津 川上 憲人
出版者
公益財団法人 産業医学振興財団
雑誌
産業医学レビュー (ISSN:13436805)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.17-50, 2021 (Released:2021-05-13)

新型コロナウイルス感染症流行下(コロナ禍)における労働者の精神健康の状況と関連要因、対策に関して系統的レビューおよび個別論文、国内外の対策ガイドを検索し整理した。労働者におけるコロナ禍の精神健康の関連要因と組織および個人レベルでの対策が明らかになった。医療従事者は特に精神健康が悪化しやすい集団であった。課題として研究の絶対数が少ないこと、研究の質が高くないこと、介入研究がないことがあげられた。
著者
小林 由佳 井上 彰臣 津野 香奈美 櫻谷 あすか 大塚 泰正 江口 尚 渡辺 和広
出版者
公益財団法人 産業医学振興財団
雑誌
産業医学レビュー (ISSN:13436805)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.225-250, 2021 (Released:2021-01-01)
被引用文献数
1

多様化する産業保健上のニーズに応える能力として、産業保健専門職のリーダーシップが注目されている。本稿では産業保健専門職がリーダーシップをさらに向上させ、活動を展開していくための指針となる考え方を提案することを目的とし、リーダーシップ研究の文献レビューから産業保健専門職のリーダーシップにふさわしい概念を検討し、活動事例による例示を行なった。文献レビューでは、これまでの変遷から、近年提唱された「権限によらないリーダーシップ」に着目し、適応型および共有型リーダーシップの産業保健専門職への適用の有用性を掘り下げた。さらに事例検討から、両リーダーシップは産業保健専門職が日常的に発揮できるものであり、課題解決に有効となり得ることが示された。
著者
森 晃爾 石丸 知宏 小林 祐一 森 貴大 永田 智久
出版者
公益財団法人 産業医学振興財団
雑誌
産業医学レビュー (ISSN:13436805)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.179-198, 2022 (Released:2022-01-13)

感染症、特にヒト-ヒト感染を伴う感染症では、ワクチンによる集団免疫の獲得が、感染症制御のために極めて有効な手段である。しかし、ワクチンに強い反感を持っている一部のグループだけでなく、ワクチンに対する不安やその他の要因でワクチン接種を躊躇する層の動向によって、十分なワクチン接種率が得られないといった、Vaccine Hesitancy(ワクチン躊躇)の問題が存在する。本稿では、ワクチン接種行動に影響を及ぼす要因のうち、社会人口学的要因や心理社会的要因について紹介するとともに、ワクチン接種意思に与える職場要因および職域でのワクチン接種プログラムに関する知見についても検討する。
著者
島津 太一 小田原 幸 梶 有貴 深井 航太 今村 晴彦 齋藤 順子 湯脇 恵一 立道 昌幸
出版者
公益財団法人 産業医学振興財団
雑誌
産業医学レビュー (ISSN:13436805)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.117-153, 2022 (Released:2021-09-08)

実装科学とは、エビデンスに基づく介入を「どのように」すれば実装できるのか、という問いに対する知識体系を構築する学問領域といえる。本稿では、事業場における健康づくりの仮想的な事例をもとに、実装科学が実践にどのように役立つのかを解説する。つぎに、保健医療の分野で用いられる実装研究の要素について解説する。最後に、産業保健の領域で健康増進対策実施を促進するための、実装研究、あるいはその要素を持つ介入研究の紹介を行う。
著者
岡﨑 龍史
出版者
公益財団法人 産業医学振興財団
雑誌
産業医学レビュー (ISSN:13436805)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.1, 2023 (Released:2023-05-30)

19世紀後半、X線や放射能が発見され、同時に放射線障害の歴史が始まった。1987年に放射線防護の学会や委員会が設立され、のちに国際放射線防護委員会(ICRP)となり、その勧告は世界中の放射線関連法令の基本となっている。2007年の ICRP 勧告では眼の水晶体の防護基準が100mSv/5年かつ50mSv/1年とされ、日本の法令も改正された。放射線は測定可能で管理しやすいが、医療現場では診断治療の優先、防護の不備により多くの医療従事者の障害の歴史がある。
著者
太田 充彦 蟹江 太朗 松永 眞章
出版者
公益財団法人 産業医学振興財団
雑誌
産業医学レビュー (ISSN:13436805)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.1-12, 2022 (Released:2022-05-01)

がん患者の生存率は増加傾向にあり、復職できるがんサバイバーは増えている。日本におけるがんサバイバーの復職率を明らかにした先行研究は乏しく、バイアスにより過大評価されている可能性もある。がんサバイバーの抑うつ状態が就労によって改善するかについて、先行研究の結果は一定していない。がんサバイバー労働者は、主観的健康感や身体的機能の低下を訴える割合が高いことが報告されている。がんサバイバー労働者を対象とした、がん関連疲労に関しても研究がさらに行われるべきである。
著者
武藤 孝司
出版者
公益財団法人 産業医学振興財団
雑誌
産業医学レビュー (ISSN:13436805)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.25, 2020 (Released:2020-05-08)

プレゼンティーイズムの研究は2000年頃から主に北欧と米国で行われるようになった。その定義には健康問題を持ちながら出勤している状態で労働生産性損失を含むものと含まないものとがある。これまでの研究のテーマは、プレゼンティーイズムとなる理由、健康や仕事への影響、測定方法の開発、各種疾患との関係やそれへの対応策などであった。今後の課題としては、プレゼンティーイズムに関する理論構築や労働生産性損失測定の方法論確立が挙げられる。
著者
山口 直人
出版者
公益財団法人 産業医学振興財団
雑誌
産業医学レビュー (ISSN:13436805)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.1, 2023 (Released:2023-01-01)

紙巻きタバコ、加熱式タバコの使用者が吸入する発がん化学物質の量を推計して、吸入ユニットリスクによって生涯の過剰発がん率を推計した研究を評価した結果、加熱式タバコによる過剰な発がんリスクは紙巻きタバコの3%程度であることが示された。喫煙がリスクとなる循環器疾患等の比較も進めて、完全禁煙が困難な紙巻きタバコ喫煙者が次善の策として加熱式タバコへ変換することの是非について検討を進める必要がある。
著者
三柴 丈典
出版者
公益財団法人 産業医学振興財団
雑誌
産業医学レビュー (ISSN:13436805)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.83, 2020 (Released:2020-09-01)

産業保健法学は、産業保健に関する問題の未然防止と事後解決に貢献する法律論のあり方と運用法を探究する新しい学際的な研究領域である。その必要性を象徴する好例として、近年生じた神奈川SR経営労務センター事件が挙げられる。おそらく、個性的に当該組織との相性が合わない労働者との間で軋轢が生じ、ハラスメントや適応障害などの問題に発展し、弁護士や精神科臨床に携わる産業医が関与してなお、4次にわたる訴訟に至っている。 こうした問題の未然防止や解決を図るには、既存の単独の専門分野の方法論では限界がある。法律論における事後的な紛争解決の蓄積や、再発防止策としての制定法(予防法)の立法技術などを素材としつつも、関係分野の知見を結集し、実効的な問題解決策を検討し、それを法に反映させる必要がある。ここでいう法には、国が策定する法令から、裁判例、個々の事業場で作成される規定、個別の労使関係における約束までを含む。また、産業保健の対象は、個人と組織という個性を持つ動態なので、法の策定と運用に際しても、母性的(支持的)なアプローチと父性的(秩序的)なアプローチなど、多角的なアプローチを継続的、手続的に図る視点が求められる。昨今、現場で生じている産業保健問題の多くは、最終的には、個人と組織の納得感の最大化や調整の問題に帰することが多いことによる。その意味でも、事業場ごとに策定される産業保健に関する規定は、一定の合理性を備え、個々の事業場の個性を踏まえていれば、産業保健問題の解決に貢献する可能性が高い。産業保健の領域で問題となり易い、労働者の健康情報等の取扱いに際しても、事業場ごとに、教条的でないルールを設け、適任な人物による人的管理体制を構築し、情報の保護と健康管理の両立を図る必要がある。
著者
森 晃爾 永田 智久 永田 昌子 岡原 伸太郎 小田上 公法 森 貴大 髙橋 宏典
出版者
公益財団法人 産業医学振興財団
雑誌
産業医学レビュー (ISSN:13436805)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.165, 2020 (Released:2020-09-01)

同じように健康増進プログラムを提供しても、成果が上がる組織と上がらない組織が存在する。その背景として、経営トップのリーダーシップ等の組織要因の重要性が指摘されている。そのような組織要因が整えられると、健康増進プログラムの継続によって、健康風土・文化が醸成されることになり、さらなる健康投資がより高い成果に結びつく。そのような組織では、人間中心的な経営理念のもと組織運営が行われているはずである。
著者
大野 裕
出版者
公益財団法人 産業医学振興財団
雑誌
産業医学レビュー (ISSN:13436805)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.93-116, 2022 (Released:2021-09-08)

認知行動療法は、こころの情報処理プロセスである認知に焦点を当てた精神療法であり、その考え方に基づくアプローチは近年、医療場面以外でも広く使われるようになっている。そこで本稿では、認知行動療法の基本的な考え方を紹介した上で、職域におけるメンタルヘルスケアの4つのケアに生かす認知行動変容アプローチについて検討した。今後はこうしたアプローチを活用した職域での勤労者支援のプラットフォーム作りが重要になると考えられる。
著者
櫻谷 あすか 今村 幸太郎 川上 憲人
出版者
公益財団法人 産業医学振興財団
雑誌
産業医学レビュー (ISSN:13436805)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.188-212, 2024-01-01 (Released:2024-01-01)

労働者を対象としたデジタル技術を用いた精神健康の測定、予測、介入に関する研究およびサービスの質保証について文献レビューにより現状と課題を整理した。デジタルメンタルヘルスに関する研究は増えており、デジタル技術による介入の精神健康への効果が明らかになっていた。一方、精神健康の予測および介入の実装に関する研究は不足していた。またサービスの情報開示や質保証の枠組みを整えることが必要と考えられた。
著者
川波 祥子
出版者
公益財団法人 産業医学振興財団
雑誌
産業医学レビュー (ISSN:13436805)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.91, 2022 (Released:2022-09-06)

日本の職場における2021年の熱中症の死亡災害件数は20件で、COVID-19による件数を除き業務上疾病による死亡災害で最多を占めた。労作性熱中症がほとんどで、建設業、製造業等の高温多湿な職場で発生し、暑熱未順化者が多かった。夏の労働環境が厳しくなる中で熱中症による死亡災害を無くすには、熱中症発症の危険因子を理解し、環境・作業・衣服のリスクを評価した上で効果的なリスク低減対策を実践することが重要である。