- 著者
-
渥美 圭佑
- 出版者
- 一般社団法人 日本生態学会
- 雑誌
- 日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
- 巻号頁・発行日
- vol.70, no.1, pp.33-44, 2020 (Released:2020-05-21)
- 参考文献数
- 69
- 被引用文献数
-
2
動物の個性研究は、従来の行動生態学でノイズとして扱われる傾向にあった動物行動の個体差に焦点を当て、その個体差がどのように形成され、繁殖や移動分散をはじめとした個体の生活史とどのような関係を持つのかを明らかにしてきた。従来の行動生態学が動物は常に最適に振舞うと仮定してきたのに対し、個性研究では動物の行動の可塑性には限界があると捉える。つまり、行動には時間的に一貫した個体差があり(動物の個性)、異なる行動形質の間に相関がある(行動シンドローム)としている。そして、行動可塑性の制限が生じる究極・至近要因や、その生態学的帰結を明らかにしようとしている。本稿ではまず、個性研究を特徴づける2つの概念である「動物の個性」と「行動シンドローム」を説明し、両者を定量的に評価する統計手法を紹介する。次に、個性が個体の生活史(繁殖・空間分布・意思決定・社会的関係)としばしば強い関係をもつが、相関の正負や強さは分類群・個性形質に応じて大きく異なることを、近年急速に増えてきた事例研究やメタ解析をもとに紹介する。そして、個性が個体群・群集スケールのプロセスにまで波及的に影響することを示した事例研究を紹介する。さらに、集団内に個性の多様性があることが個体群と群集にどのような波及効果をもたらしうるのか、想定されるシナリオを紹介する。最後に、個性研究の功績・問題点を指摘したうえで、個性研究が今後どのような発展を遂げうるのか、そして進化学・生態学の発展にどのように貢献しうるのかについて議論する。