- 著者
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岡野 八代
- 出版者
- 東京大学社会科学研究所
- 雑誌
- 社会科学研究 (ISSN:03873307)
- 巻号頁・発行日
- vol.58, no.2, pp.161-182, 2007
本稿では, 「希望格差」社会の弊害が危惧される現代の日本社会における「希望」の在処を考えるために, 西洋の政治思想史の知見を援用する.第1章では, リベラリズムの歴史を「希望の党派」と「記憶の党派」という二つの系譜の中で読み返し, 「記憶の党派」の中に民主的な変革の可能性を見いだしたジュディス・シュクラーの議論を参照する.彼女の議論を詳しく紹介することによって, 希望は明るい未来にこそ宿り, 記憶は過去に関わるといった単純な議論を批判する.第2章, 第3章では, 上述のシュクラーの思想にも多大な影響を与えたハンナ・アーレントの政治思想を再読することによって, 現代の危機の在処を明らかにしたうえで, 過去の「想起」と物語る能力のなかに, その危機を克服する契機が宿っていることを明らかにする.第4章では, 筆者が実際に出会った日本軍従軍<慰安婦>にされた女性たちの証言について考察することによって, アーレントの物語論の現代的意味を「証言の政治」という観点から考える.そして, 未来を展望するための希望の力は, 現在において閉ざされている過去を新たに拓き, そのことによって現在を変革することから生まれてくることを指摘する.