著者
松下 孝昭
出版者
史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
雑誌
史林 = The Journal of history (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.103, no.2, pp.304-333, 2020-03

平時における軍隊の立地と遊廓との関係性を解明するため、日露戦後期に愛知県豊橋市で起きた遊廓移転問題を研究対象とする。豊橋市では、大口喜六市長が師団の誘致に成功すると、市街地中心部にあった遊廓を、市費を投じて東郊に移転させる計画を立て、貸座敷業者や反市長系会派の反対を制して実施に移した。次いで市長は、師団と共存しうる都市に改造するための道路整備事業を推進するが、これは、停車場・兵営・新遊廓の三点を結ぶことが目的となっていた。新遊廓では、貸座敷業態の比率が高かった地区から移転してきた業者らが中心となって組合を組織し、他市から移転してきた業者らを組み込みながら、廓内の秩序を形成していった。以上の豊橋市の事例は、平時の軍隊と遊廓との関係性を論じるにあたり、軍隊と共存して地域振興を図ろうとする地元首長や議員らの動向を重視する必要性があることを示している。

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