- 著者
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杉浦 芳夫
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 地理学評論 (ISSN:00167444)
- 巻号頁・発行日
- vol.50, no.4, pp.201-215, 1977
- 被引用文献数
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大正期に世界的規模での流行をみたスペインかぜのわが国における流行過程は,これまで不鮮明であるとされていた.本稿は,その拡散経路を推定しつつ,この点の再検討を行なうことを目的としている.日本帝国死因統計を資料として, 1916年7月~1926年6月の10か年の各月ごとの府県別インフルエンザ死亡率を因子分析にかけた結果, 3つの流行地域が抽出された.それによると,第1因子は西日本地域,第2因子は都市地域,第3因子は東日本地域を識別していることがわかった.そして,因子得点間のクロス相関から3つの流行地域の時間的前後関係を検討してみると,スペインかぜは,西日本の主要港湾ならびに横浜港から侵入した可能性のあることが示唆され,その拡散過程において近接効果と階層効果が働いていたことも明らかとなった.以上の分析結果は,従来の通説とは異なり,わが国におけるスペインかぜの流行過程に,一の空間的秩序のあったことを意味するものである.