著者
久保田 尚之 松本 淳 三上 岳彦 財城 真寿美
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

<b>1.はじめに</b><br>台風の長期変動を明らかにするには、台風経路や強度に関するデータが欠かせない。西部北太平洋地域では現在、気象庁、アメリカ海軍統合センター(JTWC)、香港気象局、上海台風研究所が台風の位置や強度に関する情報を1945年以降提供している。<br><br>過去の気象データを復元する「データレスキュー」の取り組みで、それぞれの気象局が1945年以前についても台風の位置や被害に関する記録を残していた(Kubota 2012)。過去の台風に関する情報を復元することで、100年スケールの台風の長期変動の解明に向けた研究を報告する。<br><br><b>2. 台風経路データの整備</b><br><br>現在台風は最大風速から定義されている。台風の正確な位置や強度を特定するには、航空機の直接観測や気象衛星からの推定が必要である。このため現在と同精度で利用可能な台風データは1945年以降に限られている。一方でデータレスキューにより、各気象局から台風情報を入手し、これまで台風の位置情報をデジタル化してきた(Kubota 2012)。香港気象局と徐家匯(上海)気象局の資料は1884年まで遡ることができる(Gao and Zeng 1957, Chin 1958)。ただし、当時は台風の定義がなく、船舶や地上の気象台のデータから台風の位置を推定しており、精度の面で現在の台風データと同等に扱うのが難しいという点があった。<br> 台風の最大風速と中心気圧には関係がある(Atkinson and Holiday 1977)ことを用いて、台風の中心気圧を用いて台風を再定義する品質検証を行った(Kubota and Chan 2009)。気圧データは陸上に観測点が多く入手が容易なため、日本に上陸した台風に着目し、解析を進めた。北海道、本州、四国、九州に上陸した台風を対象とする。現在の台風の定義である最大風速35ktは中心気圧1000hPaに対応しており、陸上で1000hPa以下を観測した場合を台風上陸と定義し、全期間統一した定義を適応して台風データを復元した(熊澤他 2016)。気圧値だけでなく、上陸時両側の観測点の風向変化が逆になる力学的特徴も考慮した。<br>日本の気象台は1872年に函館ではじまり、全国に展開し、1907年には100地点を超えた。ただ、19世紀は地点数が少なく、地域的な均質性に問題があった。一方で、日本には1869年以降灯台が建設され、気象観測も行われるようになった(財城他 2018)。1880年には全国で35か所の灯台で気象観測が行われ、1877-1886年の灯台の気象データが収集できており、台風データの復元に利用した。<br><br><b>3. 結果</b><br>図に日本に上陸した1881-2018年の年間台風数を示す。年間平均3個上陸し、1950年は10個、2004年は9個上陸した。1970年代から2000年代は上陸数が少なく、上陸数なしの年も見られた。それに対して、1880年代から1960年代は上陸数が多い傾向が見られ、19世紀においても毎年2個以上の台風が上陸した。19世紀の台風データの復元には1883年から気象庁の前身の天気図が、1884年から台風経路データが利用できたが、それ以前は利用できる気象資料が少ない。最近、江戸時代末期からの外国船が気象測器を搭載しながら日本近海を往来した資料が見つかっている。より長期の台風データの復元には、外国船の航海日誌に記録された気象データの活用が期待される。

言及状況

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こんな論文どうですか? 日本に上陸した台風の長期変動に関する研究(1881年-2018年)(久保田 尚之ほか),2019 https://t.co/S0iQnx1Mg3

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