53 0 0 0 OA 北海道の豪雨

著者
松本 淳
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.94, no.3, pp.181-193, 1985-06-25 (Released:2010-12-22)
参考文献数
24
被引用文献数
2 3

The climatological characteristics of heavy rainfalls in Hokkaido Island are investigated on the basis of areal frequency distribution of heavy rainfalls (the amount of daily precipitation above 100mm) and geographical distribution of the maximum daily precipitation. The causes of heavy rainfalls and the maximum daily precipitation are investigated on the daily synoptic weather charts, and their geographical distributions are also investigated. Relation between the regional characteristics of heavy rainfalls and the location of the Polar front is discussed. The statistical period is 25 years, from 1973 to 1977 and the data of 256 stations are analysed.As a result, Hokkaido Island is divided into two climatic regions, the one is ‘high frequency heavy rainfall region (HR)’ and the other is ‘low frequency heavy rainfall region (LR)’. The bordering line of these two regions runs approximately from ENE to WSW, from Shiretoko peninsula, via Shiranuka Hills, Ishikari Mountains, Hidaka Mountains, Iburi Mountains to the southern part of Oshima Peninsula.To the south of this line is the HR in which local extremly high frequency heavy rainfall regions are located on the eastern to southern slopes of the mountain ranges. In this region the frequency of heavy rainfalls is more than once per year, and the maximum daily precipatation exceeds 300mm. The main causes of heavy rainfalls here are extratropical cyclones passing to the south of Hokkaido Island from Japan Sea or from Pacific Ocean, most often in August and September. This types of heavy rainfalls are mainly caused by the moist air flow from these cyclones and the effect of orographic rifting strengthens the rainfalls. In these cases the Polar front is usually located to the south of Hokkaido Island.On the other hand to the north of the line, the frequency of heavy rainfalls decreases drastically to less than once per five years. Here the main causes of heavy rianfalls are fronts and tropical cyclones, mainly in July and August. This time the Polar front lies in the northern part of Hokkaido Island and this location corresponds to its mean northernmost position. The region in which the main cause of heavy rainfalls is such northernmost Polar front is classified into ‘frontal heavy rainfall region’. In addition, extremly low frequency heavy rainfall rigion in which no heavy rainfalls were recorded through whole investigated period are discerned.
著者
藤部 文昭 松本 淳 鈴木 秀人
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.66, no.8, pp.513-527, 2019 (Released:2019-09-30)
参考文献数
26
被引用文献数
1

1999~2016年の人口動態統計の個票データを使って,低温死亡率の空間・時間変動と気温との関係を統計的に調べた.空間分布においては,気温の低い都道府県ほど低温死亡率の高い傾向があり,冬季(12~3月)の平均気温1℃当たりの死亡率の変化は約12%である.年々変動においては,冬季(12~3月)の平均気温が1℃低い年は死亡率が20%程度高い.季節変化においては,12~3月の死亡数が年間の78%を占める.また日々変動においては,日平均気温1℃当たり死亡率は15%程度変動する.以上の事実は低温死亡率が気温の地域的・時間的な変動に影響されることを示しているが,熱中症に比べると気温変動に対する低温死亡率の変化率は小さい.また,冬の前半に比べて後半は低温死亡率が低いなど,低温馴化を示唆する事実がある一方で,低温馴化に否定的な事実もあり,馴化の影響は熱中症の場合ほどには明瞭でない.

10 0 0 0 IR 資格の経済学

著者
中島 隆信 中野 論 河本 好美 松本 淳平
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.1-16, 2000-10-25

職業に対する資格はサービスの担い手と受け手の間での内容に関する情報の非対称性が高い場合において設定されることが多い。しかし,資格を得る際にクリアーしなければならないハードルについては必ずしもサービスの内容を反映しているとは脹らない。なぜなら,ハードルの存在はサービスヘの参入を制限することから非競争的供給によるレントが発生し,そのレントが資格獲得のインセンテイブになっているからである。ハードルが高くなると非競争状態が強まり,レントが上昇し,留保賃金の高い人材を集めることができると同時に,資格取得後のモラルハザードを防ぐことができる。一方,社会経済的には競争を制限することからサービス価格が高止まりすることになる。その意味において,資格取得のハードルは社会的見地から最適レベルに設定されることが望ましいといえる。
著者
河野 修一 江崎 次夫 原 浩之 村上 博光 木原 辰之 中山 累 寺本 行芳 金 錫宇 全 槿雨 松本 淳一 土居 幹治 村上 尚哉
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.119-122, 2020-08-31 (Released:2020-12-25)
参考文献数
4

集中豪雨で山腹斜面が崩壊した跡地に施工された筋工の平坦部に3年生のヒノキを植栽する際に,活着率の向上とその後の旺盛な成長を期待して,植え穴に「くらげチップ」約100 gを施した。10年後の施用区の樹高は722 cm,根元直径は112.2 mmあった。これに対し,無施用区のそれらは,それぞれ547 cm,84.8 mmであった。施用区と無施用区との間に枯損率,樹高および根元直径共に,0.1%レベルの有意差が認められた。このような相違が認められたのは,土壌改良材の持つ水分保持能力と分解後の栄養分が効果的に作用したことによるものと判断された。しかし,樹高と根元直径の伸長率は10年目で,ほぼ0に近い値となり,その効果の持続期間は10年程度と考えられた。
著者
久保田 尚之 塚原 東吾 平野 淳平 松本 淳 財城 真寿美 三上 岳彦 ALLAN Rob WILKINSON Clive WILKINSON Sally DE JONG Alice
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.412-422, 2023-11-21 (Released:2023-11-25)
参考文献数
23
被引用文献数
1

日本で気象台が開設される以前の江戸時代末期に,外国船が日本近海に気象測器を搭載して往来していたことに着目し,気象観測記録が掲載された航海日誌を収集し,気象データを復元した.18世紀末には探検航海する外国船が日本近海に現れ,19世紀に入ると米国海軍の軍艦等が日本に開国を求めるために日本近海を航行するようになった.これらの航海日誌に記録された日本近海の気象データの概要を示し,江戸時代末期に外国船が日本近海で遭遇した台風事例について,経路等の解析を行った.1853年7月21~25日にペリー艦隊6隻が観測した東シナ海を通過した台風の解析事例,1856年9月23~24日に蘭国海軍メデューサ号が観測した安政江戸台風の解析事例,1863年8月15~16日の薩英戦争中に英国海軍11隻が観測した東シナ海における台風の解析事例について報告する.
著者
大和田 春樹 大森 博雄 松本 淳
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.8, pp.534-541, 2005-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
14

黄土高原の降水は夏季集中型であり,7~8月に降水量が最大となる.5~9月の水蒸気輸送場解析によると,5月は低緯度側からの水蒸気輸送が黄土高原に達していないが,6月になると水蒸気輸送量が漸増し,7月に最大となる.8月には,中国南部からの水蒸気輸送は弱まり,東シナ海を経て南東方向から黄土高原東部に水蒸気が流入する.9月になると低緯度から黄土高原へ向かう水蒸気輸送量は減少する.この水蒸気輸送場の季節変化には,太平洋高気圧が関わっており,太平洋高気圧の西への張り出しが強まる7月は,華南~華北における東西方向の気圧傾度が増大し,ベンガル湾からの南西気流がより強く北方まで流入する.太平洋高気圧が北上する8月には,華南~華北における東西方向の気圧傾度が小さくなり,南西気流が中国大陸に流入しにくくなるが,北上した太平洋高気圧からの南東気流が黄土高原に流入する.黄土高原の降水量は,低緯度側からの水蒸気輸送量の増減に対応して季節変化するが,降水が極大となる7月と8月とでは水蒸気輸送場が大きく異なっている.
著者
高橋 洋 浅田 寛太 赤坂 郁美 松本 淳
出版者
一般社団法人 日本風工学会
雑誌
風工学シンポジウム論文集
巻号頁・発行日
vol.22, pp.115-120, 2012

本研究では、台風が日本付近に存在する場合に、台風の位置による強風の発生しやすい地域分布について、発生頻度を調べることにより、明らかにした。特に、防災の観点から、比較的警戒度が低いと考えられる北東進する台風の西側(台風の通過後の地域)や、台風から数百キロメートル以上離れた地域に注目し、強風の発生を調査した。その結果、強風は、いわゆる危険半円以外の地域でも多く観測されていることが分かった。また、その位置は、地形との関係が明瞭な場合が多く、比較的沿岸域に多い。一方で、G12の場合の九州地方全土での強風や、K6における関東の内陸部での強風など、気象学的にあまり知られていない結果も得られた。これらについては、今後さらに結果を精査し、強風による災害を未然に防ぐための警戒情報に活用できる可能性がある。
著者
寺尾 徹 村田 文絵 山根 悠介 木口 雅司 福島 あずさ 田上 雅浩 林 泰一 松本 淳
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2017年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100300, 2017 (Released:2017-05-03)

1. はじめにインド亜大陸北東部は,陸上における世界的な豪雨域である。とりわけメガラヤ山脈南斜面には年降水量10000mmを大きく超える地域が広がり,世界の年間雨量極値(Cherrapunjee, 26,461mm, 1860年8月~1861年7月)を持つ(木口と沖, 2010)。この領域の降水は、アジアモンスーン循環を駆動する熱源であり、当該地域に住む人々の生活に本質的な影響を与えている。われわれの研究グループは、現地の観測網の充実による降水過程の解明、過去のデータを取得、活用することによる経験的な知見の集積を進めてきた。災害や農業、公衆衛生をはじめとしたさまざまな人間活動との関係を研究してきた。 2. 観測ネットワークわれわれの研究グループは、2004年以降,当該地域に雨量計ネットワークの展開を開始しており、2007年頃までに雨量計は40台に達し、現在まで維持管理している(図1)。自動気象観測装置も活用してきた。現地気象局等との協力関係を発展させ、過去の各気象局の持つデータの収集を進めてきた。 3. データレスキューインド亜大陸北東部のうち、英領インド東ベンガルおよびアッサムの一部は、1947年にパキスタン領となり、その後バングラデシュとして独立した。そのため、現インド気象局では降水量データのデジタル化がなされていない。バングラデシュ気象局もパキスタン独立以前のデータの管理をしていない。そのため、デジタルデータは1940年代以前が空白となっている。 英領インド気象局の観測は充実しており、バングラデシュでもっとも雨の多いSylhet域の降水観測点は、現バングラデシュ気象局の観測点の数倍ある。バングラデシュ最多雨地点とされるLalakhalには現気象局の観測地点がなく、旧いデータも保管されていない。 われわれの、データレスキューで得られた1891-1942年のSylhetとLalakhalの雨量データから、この二地点の当時の降水量の差を解析した結果、Lalakhalの方が30%近く月降水量が多いことが確かめられている。 当日は、われわれの研究成果を概観し、データレスキューの現状と、われわれの雨量計の観測データやリモートセンシングデータなどを活用した、初期的な解析結果をお示しする。 図1インド亜大陸北東部に設置した雨量計観測網。雨量計は○印で表されている。参考文献木口雅司・沖大幹 2010. 世界・日本における雨量極地記録. 水文・水資源学会誌 23: 231-247.
著者
藤部 文昭 松本 淳
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.319-325, 2022 (Released:2022-07-31)
参考文献数
9

新聞4紙の記事検索サイトを使い,気象や気象災害に関連する45語について,1990~2020年の記事数の長期変化を調べた.その結果,近年は極端気象や災害に関わる用語の記事が増える傾向にあることが見出された.しかし,変化傾向は用語によって違い,“豪雨” の記事数は大幅に増えたのに対して “集中豪雨” の記事数は減っている.また,災害に直結しない一般的・日常的な気象用語の記事数は,横ばいあるいは減る傾向にある.
著者
倉林 利行 吉村 優 切貫 弘之 丹野 治門 富田 裕也 松本 淳之介 まつ本 真佑 肥後 芳樹 楠本 真二
雑誌
ソフトウェアエンジニアリングシンポジウム2020論文集
巻号頁・発行日
vol.2020, pp.143-152, 2020-09-03

本論文ではソフトウェア開発における実装の自動化に向けたファーストステップとして,プログラミングコンテスト AtCoder の正解プログラムを自動生成する技術の開発を目指す.自動プログラミングの既存研究としては,生成したいプログラムの入出力例からプログラム部品を合成する手法などが存在するが,プログラム部品の組み合わせ爆発により入出力例を満たすプログラムが生成できない,また生成できたとしても入出力例は満たすが正しいプログラムではないというオーバーフィッティングしたプログラムが生成されてしまうという課題が存在した.本論文では深層学習を用いて過去の問題情報から問題文と正解プログラムの関係性を学習することで上記の問題を解決する.具体的には学習済みモデルを用いて過去の問題情報から解きたい問題と類似した問題を検索して取得し,その正解プログラムを雛形としてプログラムを複数個合成し,再び学習済みモデルを用いて生成されたプログラムから最も問題文との関係性が近いプログラムを判定して出力する手法を提案した.提案手法は AtCoder の配点が 100 点の問題 92 問に対して評価を行い,24 問の正解プログラムの自動生成を確認した.

2 0 0 0 OA 用語を正しく

著者
松本 淳
出版者
Japanese Society for Joint Diseases
雑誌
日本リウマチ・関節外科学会雑誌 (ISSN:02873214)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.509-510, 1989-03-05 (Released:2010-10-07)
参考文献数
2
著者
松本 淳 林 泰一 山根 悠介 小林 茂 寺尾 徹 山本 晴彦 釜堀 弘隆 久保田 尚之 赤坂 郁美 福島 あずさ 村田 文絵 藤波 初木 加藤 内藏進
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2014-05-30

国内で実施中のデータレスキュー研究活動をまとめ、国際的活動と連携するACRE-Japanを、本研究を中核として組織し、アイルランドと北京で開催された国際会議報告を国際共著論文にまとめた。またMAHASRIプロジェクトの後継となるアジアモンスーンに関する国際共同研究の立案を開始し、国内・国際ワークショップを主宰した。南アジアについては、旧英領インドの現ミャンマー・バングラデシュ領内の日降水量データの原本照合・品質チェックが完了し、過去120年スケールの長期変化傾向についての解析を進めた。インド北東部チェラプンジの104年間の日降水量データから、インド北東部のモンスーン活発期の発生機構を明らかにした。バングラデシュの1955年~1980年後半、インドアッサム州の1930年~1950年代後半までのシビアローカルストームデータベースを構築し、発生日の長期変動について解析した。スリランカの1860年代以降の日降水量データ収集した。東南アジアについては、フィリピンの過去115年間のモンスーン開始期および20世紀後半以降における降水の季節変化パターンの長期変動を解明した。日本とフィリピンの過去120年間の台風活動を調べ、近年の大きな被害を出した台風と類似の台風が過去にも上陸していたことを示した。中国については、日降水量データ(Zi-ka-wei)1890年代~1930年代のデジタル化を完了した。樺太、朝鮮、北支那における気象データの統合と検証を行い、東北部黒龍江省における温暖化解析と水稲冷害のリスク解析、東北部・内蒙古自治区の乾燥地帯における雨季の変動解析を行った。帝国日本の気象観測ネットワークに関する2冊の書籍を刊行した。東アジアの多彩な季節サイクルの長期変動解明を行なった。日本については、東海・四国地方の明治・大正期の日降水量データをデジタル化し、大雨発生の長期変化等を解析した。
著者
稲本 亮平 田中 健一 竹波 信宏 松本 淳一 土居 幹治 藤島 哲郎 河野 修一 江崎 次夫 全 槿雨
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.162-165, 2013 (Released:2014-04-02)
参考文献数
4
被引用文献数
1 3

エチゼンクラゲや食用クラゲなどのクラゲ類を脱塩・乾燥しチップ化したクラゲチップは,自重の約 8 倍の水を吸収するという保水性に優れ,保水機能の低下後は微生物などによって分解され,化学肥料並みの窒素含有量を含むなど肥料効果が認められる。さらに製材の際にでるオガクズも分解のやや遅い有機質の保水材として着目し,この両者の保水性と遅効性の肥料効果を活かして種子吹付工の資材に組み込んだ有機緑化資材を開発した。林道切取りのり面での半年間の実験の結果,植生の発芽や生育状況が無施用区に対して,有意な差を示し,その有効性が確認された。今後,周辺環境に対する負荷の少ない有機質のり面緑化用資材としての活用が期待できる。
著者
松本 淳 多田 隆治 茅根 創 春山 成子 小口 高 横山 祐典 阿部 彩子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

本研究では,アジアモンスーン地域における過去の気候資料と,日本のさまざまな緯度帯から取得される地質試料(サンゴ年輪やボーリングコア等)の解析によって,過去数10年〜数千年の時間スケールでアジアモンスーン域の降水量変動および各流域洪水の洪水史をまとめ,モンスーンにともなう降水量変動と洪水の歴史の関係を長期的に復元し,地表環境の変化との関係を考察することを目的として研究を行なった。千年規模での変動として,日本海南部隠岐堆の海底コア三重県雲出川流域のボーリングコアを解析した。後氷期には約1700,4200,6200年前に揚子江流域で夏季モンスーン性降雨が強まり,雲出川流域において約6000年前には堆積速度が大変に速く,この時代には広域的に洪水が頻発していた可能性が判明した。また,琉球列島南端の石垣島で採集されたサンゴ年輪コアの酸素同位体比と蛍光強度の分析によって,過去の塩分変動を定量的に復元できることがわかった。20世紀後半の変動としては,近年洪水が頻発するバングラデシュにおいて,GISとリモートセンシングデータによってブラマプトラ川の河道変遷と洪水との関係を検討し,河道が約10年周期で河川の平衡状態への接近と乖離とを繰り返したことがわかった。また大洪水が雨季には稲作に大きな被害をもたらすものの,引き続く乾季には大幅な収量増加がみられることを見出した。流入河川上流域のネパールでの降水特性を検討し,ネパールで豪雨が頻発した年とバングラデシュにおける洪水年とが対応していないことがわかった。さらに日本においては,冬の終了や梅雨入り・梅雨明けが近年遅くなっていることを明らかにした。気候変動研究に多用されているNCEP/NCARの長期再解析データには,中国大陸上で観測記録と一致しない変動がみられることを見出し,アジアモンスーンの長期変動解析にこのデータを使用するのは不適切であることを示した。
著者
松本 淳
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.66, 2018 (Released:2018-12-01)

1 アジアのモンスーン気候気象学・気候学では,モンスーン(季節風)気候とは,季節によって卓越風向が反対になる現象のことである。Ramage (1971)では,1月と7月を夏と冬の代表月として,1) 地表風の卓越風向が120度以上変化, 2) 卓越風の出現頻度の平均が40%以上,3) 卓越風の平均風速が3 m/s以上,4) 経緯度5度以内での高低気圧中心の出現が2年に1回以下,との4条件によって,世界のモンスーン気候の分布を示した。この図によると,日本や韓国・中国を含む東アジアは,上記の4)の条件によってのみ,モンスーン気候ではない,とされた。このような地域は世界の他の中緯度から亜熱帯地域には存在しない。1990年代になると,気象衛星観測の充実により,モンスーン気候のもう一つの側面である夏雨気候が注目され,モンスーン地域の定義を雲活動や降水量から行う研究が主流となってきている。例えばWang and Ding (2008) では,1) 北半球の夏(5~9月)と冬(11~3月)の降水量の差を年降水量で除したモンスーン降水指標(MPI)が0.5以上,2) 夏と冬の降水量の差が300 mm以上の地域をモンスーン気候域とすることを提案している。この定義によると,アジアからアフリカにかけての伝統的なモンスーン地域以外に,世界の全大陸とその周辺域にモンスーン気候が存在することとなり,グローバル・モンスーンとも呼ばれる。しかし,この定義においても,緯度30度より極側にモンスーン気候がみられるのは,アジアだけであり,亜熱帯から中緯度にかけて広がるモンスーンアジアの気候の特異性は,依然として明白である。2 大陸東西での大きな乾湿コントラスト グローバル・モンスーン気候論の一つの主眼点は,多雨の夏雨モンスーン気候と,その西側のやや極側に隣接する乾燥域とが,対で存在することである。この乾燥域が大陸上に広く東西に広がっている大陸は,ユーラシア大陸だけである。換言すると地中海性気候が広大な面積を占めている大陸は,ユーラシア大陸だけである。 ジャレド・ダイヤモンド(2000)は,東西に長いユーラシア大陸が,農耕の発展に有利であったとし,また,藤本(1994)や佐藤(2016)などは,ユーラシア大陸東部の夏雨地域と,西部の冬雨地域の違いを論じている。ユーラシア大陸東西の気候コントラストが人類史に果たしてきた役割はきわめて大きかったといえる。3 モンスーンと稲作 ユーラシア大陸東部のモンスーンの降雨による夏雨地域には,水田が広がっている。篠田他(2009)によれば,この水田から蒸発した水蒸気が,中国大陸上の梅雨前線帯における対流活動を活発化させているという。水田という人間活動が作り出した陸面状態が,モンスーンアジアに特有の大気陸面相互作用をもたらしている可能性がある。浅田と松本(2012)は,ガンジス川・ブラマプトラ川の下流域において,近年洪水が頻発する一方,バングラデシュでは乾季作が拡大し,1998年の大洪水以降は,乾季米が雨季後期米の生産量を上回るようになったことを示した。洪水を契機とした灌漑の普及が,モンスーンアジアの稲作を大きく変貌させている。4 大陸東西での気候の将来変化IPCC(2013)などによる地球温暖化に伴う気候の将来予測においては,熱帯アジアモンスーン域では降水が増加し,地中海性気候域では,乾燥が強まる可能性があることが指摘されている。現在でも大きいユーラシア大陸の東西の乾湿気候コントラストがより強まる方向に向かうことになる可能性が高い。
著者
松本 淳 石崎 直人 苗村 健治 山村 義治 矢野 忠
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.56-67, 2005-02-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
33
被引用文献数
1

【目的】過敏性腸症候群 (IBS) を始めとする便通異常は、有病率が高い。また、心理的異常を伴うことが多く、従来の治療に抵抗するものも多い。今回、IBS患者に対し鍼灸治療を行い、反転法により臨床効果を検討した。【対象及び方法】罹病期間4年以上で半年以上の投薬によっても症状が十分に改善しなかったIBS患者4例に対し、中医学的な弁証に従い鍼灸治療を行った。治療期間 (B期間) は10回ないし20回を1クールとし、無治療期間 (A期間) と交互に繰り返した。便通異常の評価は、排便日誌をもとに、腹痛・腹部膨満感の程度、排便回数、便性状を記録した。また心理状態、quality of life (QOL) についても評価した。【結果及び考察】4例中3例において腹痛、腹部膨満感、QOLがB期間中は軽減し、2例で服薬量が減少した。心理状態には一定の傾向は見られなかった。今回の治療及び無治療期間の経過から、鍼灸治療がIBS患者の腹痛等の症状およびQOL改善に有効な治療となる可能性が示唆された。