著者
石井 政憲 城戸 滉太 太田 力 柴田 寛之 山田 健太郎 鈴木 孝治 チッテリオ ダニエル
出版者
一般社団法人 日本画像学会
雑誌
日本画像学会誌 (ISSN:13444425)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.94-105, 2016-02-10 (Released:2016-02-13)
参考文献数
29

患者のすぐそばで行える医療診断 (その場診断) が重要であるという考えが,臨床現場において普及しつつある.近年,マイクロ流路を紙の上に設けることで,コストやユーザーの負担を抑えながら,実用に即した分析ができる検査チップを開発する研究が世界的に盛んである.2007年,Whitesidesらにより提唱されて以来注目を集め,現在ではmicrofluidic paper-based analytical devices (μPADs) の呼称が定着している.マイクロ流路と身近な素材である紙の組み合わせにより,複雑な操作を伴う分析や多重項目測定を,比色法や蛍光法,電気化学的手法などを用いて,低コストかつ簡便に行えるμPADsが数多く開発されている.μPADsは基材が紙であることから,主に印刷による作製技術が進歩を見せている.中でも,様々なデバイス生産で工業的にも活躍しているインクジェット技術が,μPADsの大量生産や機能性付与が可能なアプローチとして着目されている.本稿では,将来の実用化に期待の集まるμPADsの製作技術や応用例の現状について,特に汎用性の高いインクジェット技術に焦点を当てながら解説する.
著者
岡 浩太郎 チッテリオ ダニエル 舟橋 啓
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

細胞内のエネルギー代謝を制御する新規なセカンドメッセンジャー候補としてMgイオンに注目した研究を進めて来ている。本年度は特にエネルギー代謝の変動を把握する系の確立を目的とし、神経細胞ミトコンドリアの挙動とその集積・移動の解析を、ミトコンドリア膜電位とミトコンドリア内ATP濃度の蛍光イメージングを併用して調べた。従来ミトコンドリア活性を評価するためにミトコンドリア膜電位のイメージングが行われてきたが、我々の研究から、ミトコンドリア膜電位とミトコンドリア内ATP濃度は必ずしも強い正の相関を持つわけでないことが判明した。またこれらの2つのパラメータをミトコンドリアの融合と分裂時にも追跡することに初めて成功した。この成果は古くなったミトコンドリア機能がどのようにリフレッシュされるのかを考える上でも大いに貢献するものとである。また細胞内でのMgイオンの役割の生理的な意味について、本年度は特に細胞分裂の際に一過的に細胞内でのMgイオン濃度が上昇するという知見を得ることに成功した。細胞が分裂する際、ヒトでは全長2メートルにもおよぶゲノムDNAからコンパクトに凝縮した染色体が作られ、2つの細胞に正確に分配される。半世紀以上前、細胞に大量に存在するMgイオンがゲノムDNA凝縮の鍵となりうることが提唱されたことがあったが、当時は細胞内Mgイオン濃度を測定する手段が無かったため証明されぬまま忘れられてた。本年度は細胞分裂の際にMgイオン濃度が一過的に上昇することを示すとともに、Mgイオンが負の電気を帯びているDNA同士の反発を弱め、染色体の凝縮を促進していることを明らかにできた。本研究によって、実際にMgイオンが細胞のなかで染色体の凝縮にかかわっていることが初めて証明できた。