著者
岡 浩太郎 チッテリオ ダニエル 舟橋 啓
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

細胞内のエネルギー代謝を制御する新規なセカンドメッセンジャー候補としてMgイオンに注目した研究を進めて来ている。本年度は特にエネルギー代謝の変動を把握する系の確立を目的とし、神経細胞ミトコンドリアの挙動とその集積・移動の解析を、ミトコンドリア膜電位とミトコンドリア内ATP濃度の蛍光イメージングを併用して調べた。従来ミトコンドリア活性を評価するためにミトコンドリア膜電位のイメージングが行われてきたが、我々の研究から、ミトコンドリア膜電位とミトコンドリア内ATP濃度は必ずしも強い正の相関を持つわけでないことが判明した。またこれらの2つのパラメータをミトコンドリアの融合と分裂時にも追跡することに初めて成功した。この成果は古くなったミトコンドリア機能がどのようにリフレッシュされるのかを考える上でも大いに貢献するものとである。また細胞内でのMgイオンの役割の生理的な意味について、本年度は特に細胞分裂の際に一過的に細胞内でのMgイオン濃度が上昇するという知見を得ることに成功した。細胞が分裂する際、ヒトでは全長2メートルにもおよぶゲノムDNAからコンパクトに凝縮した染色体が作られ、2つの細胞に正確に分配される。半世紀以上前、細胞に大量に存在するMgイオンがゲノムDNA凝縮の鍵となりうることが提唱されたことがあったが、当時は細胞内Mgイオン濃度を測定する手段が無かったため証明されぬまま忘れられてた。本年度は細胞分裂の際にMgイオン濃度が一過的に上昇することを示すとともに、Mgイオンが負の電気を帯びているDNA同士の反発を弱め、染色体の凝縮を促進していることを明らかにできた。本研究によって、実際にMgイオンが細胞のなかで染色体の凝縮にかかわっていることが初めて証明できた。
著者
菊地 進一 関山 和秀 松原 嘉哉 山岡 淳子 竹居 光太郎 岡 浩太郎 冨田 勝
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.107-112, 2005-06-05 (Released:2011-03-28)
参考文献数
32

従来の神経細胞のモデリング研究は電気生理学的アプローチであった.我々は分子生物学的なシグナル伝達のシステムを解析している.本稿では,バイオインフォマティクスやシグナル伝達のモデリング研究の動向について概説する.また,近年発表した海馬の長期増強(Long term potentiation,LTP)のモデル論文を紹介し,モデルで提唱された仮説の実証実験に関する近況を報告する.