著者
ファン ル 松本 邦彦 澤木 昌典
出版者
The City Planning Institute of Japan
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.866-871, 2015

2008年5月に中華人民共和国四川省汶川県でマグニチュード8.0の四川地震が発生した。水磨鎮は震源地から5kmの距離に位置する甚大な被害を受けた被災地の一つである。地震の前は農業や工業が主な産業であったが、地震の後は町の持続的発展を目的とした観光開発による復興が計画され、2008年から2010年にかけて建物の再建、新たな商業街区の整備、被災者の移転・入居などの様々な事業が実施された。その結果、水磨鎮は人気の高い観光地となったが、2012年以降は観光業がやや不振に陥り、店舗の経営状況の悪化、新設住宅での居住環境上の問題などが見られる。 そのため本研究では、水磨鎮における震災復興の背景やプロセスを調べた上で、新規に観光を導入した地域復興の状況を把握する。その上で、店舗経営者及び住民の居住環境に対する満足度、観光開発に対する意見・評価を把握し、居住上・経営上の問題を明らかにすることを目的とする。そして、現存する問題の解決策を検討し、今後の観光産業の振興に基づく被災地復興計画に参考となる知見を得る。
著者
カスティジョ ファン ルフィノ 杉本 俊多
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.67, no.559, pp.291-298, 2002

本論文はミース・ファン・デル・ローエのフッベ邸(1935年)の設計過程において残されたスケッチを分析することにより、その設計過程の特質を明らかにしようとするものである。設計過程は大きく二段階に分けることができた。第一段階は平面図スケッチを通してのデザインコンセプトの決定過程であり、第二段階は透視図スケッチを通しての空間特性の詳細な決定過程である。平面図スケッチにおいては各空間のレイアウトが検討されており、計6段階に整理できた。そこでは空間構成の大きな変化が認められるが、開放的なレイアウトが次第に外壁の矩形の輪郭に収められていく過程が見出された。また東側面の開口部の配置に着目することにより、東方向への視野がデザイン上、重視されたことが推定された。その東方向の眺望をCAD透視図でシミュレーションすることにより、居間の開放性とプライベートな閉鎖空間が、眺望の微妙なコントロールによって調整されたことが明らかとなった。壁面位置の微妙な調整などの詳細な空間デザインは、ラフな透視図スケッチをいくつか描くことによって、三次元的に、また眺望の検討によって決定されていたことが、試行錯誤を示すスケッチの詳細な分析から確認された。最終段階の透視図スケッチの詳細な分析から、空間構成の枠組みが決定された後、設計助手が定規を用いた線的な透視図を描き、ミースが壁面の素材、家具、庭木や彫刻、また遠景をフリーハンドで描き込み、次第に厳密に決定されていくというプロセスを辿ったことが明らかになった。
著者
カスティジョ ファン ルフィノ 杉本 俊多
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.67, no.557, pp.361-366, 2002

本論文はミース・ファン・デル・ローエが1930年代に行った住宅建築の設計案についてその設計過程を分析し、ミースの設計手法における特性を明らかにしようとする一連の研究のうち、ゲリッケ邸(1932年)の設計過程におけるスケッチを、CADを用いて三次元復元する新しい分析方法を試みつつ、設計方法と設計内容を解明しようとするものである。スケッチは鳥瞰図とアイレベル透視図に分類でき、CADを用いて軸測投象図と透視図として出力し、原透視図と比較した。設計過程は6段階に分類整理することができた。そこでは玄関、居間、庭の間の領域処理を通しての内外空間の融合といったミース独特の手法が的確に確認できた。また4つの透視図の分析を通して、水平に広がる広角の眺望を好んだこと、深い奥行方向の見通しを強調して表現すること、理想的な眺望を阻害する空間要素を省略して表現すること、視点位置を自由に設定して現実にはない眺望も描いていたこと、といった特徴を見出すことができた。以上のような特徴はこれまであまり扱われなかったミースの独特の設計手法を明らかにするものであり、またCADによる三次元データ化、透視図作成を通しての多様な画像作成と原透視図の詳細な比較分析を通して初めて明確化することができるものであって、本研究の研究方法上での成果である。