著者
マルティネス 真喜子 畑下 博世 鈴木 ひとみ Denise M. Saint Arnault 西出 りつ子 谷村 晋 石本 恭子
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.69-81, 2017-06-20 (Released:2017-07-14)
参考文献数
27

本研究では、ブラジル人妊産褥婦がデカセギ移民として生活する中で、どのような心身の健康状態を体験しているのか、それに相互に影響を及ぼす社会文化的要因を明らかにすることを目的とした。研究対象は、ブラジル人人口が多い2県に在住するブラジル人妊産褥婦18名であった。日本人研究者と、ポルトガル語通訳者が2人1組となり、対象者の自宅で、半構成的インタビューを行った。研究期間は2013年~2014年であった。インタビューは「ヘルプシーキングの文化的要因理論」を用いて実施した。データのコーディングとテーマ抽出は分析的エスノグラフィーを用い、コア・テーマを抽出した。  その結果、心身の症状は、「心配」と「背・肩の痛み」が最も多く、続いて「頭痛」、「いらいらする・怒りっぽい」、「不眠症・眠れない」、「不安」が多かった。それらの原因の説明として、妊娠・子育てによるもの、仕事や収入の不安、外国人であるがゆえのわずらわしさ、頼れる人がいないということを挙げていた。それらに影響を及ぼす社会文化的要因として、【対等で深く結びつく家族の存在】、【労働力でありつづける逞しさ】、【条件の良さを選んで定住】、【保健医療制度への低い満足度】、【宗教によりもたらされる恵み】の5つのコアカテゴリーが抽出された。  日本で生活するブラジル人妊産褥婦は様々な心身症状を体験しており、日本とは異なる家族のあり方や宗教が大きく影響していると考えられた。これらのことが健康に影響するということを理解し、ブラジル人妊産褥婦の適切な保健行動に導けるよう介入しなければならない。
著者
マルティネス 真喜子 畑下 博世 河田 志帆 金城 八津子 植村 直子
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.97-106, 2012

目的:A県に在住する労働目的で来日した在日ペルー人女性が,異なる文化,制度を背景にもち,外国人労働者としての境遇の下で行う日本での生活および育児とはどのようなものであるかを明らかにすることを目的とする.方法:A県在住の乳幼児をもつ在日ペルー人女性7人を研究対象に8か月間のフィールドワークを行い,フィールドノートに記録したデータをもとに民族誌を記述した.フィールドワークは自宅訪問を中心に,医療機関,保健センター,スーパーなどの生活の場で行い,インフィーマルインタビューはすべてスペイン語で行った.結果:7の大カテゴリー,25の中カテゴリー,73の小カテゴリーにまとめられた.在日ペルー人女性は,『波乱に満ちたデカセギ労働独身時代』を経て,『豊かで安全だが労働に縛られた環境』『殻に閉じこもっての在日生活』を『国境や距離を超えてつながる家族の結束力』をもって乗り越えながら,『ペルーの母親役割遂行と葛藤』『日本の母子保健制度利用への戸惑い』といった課題を抱えつつ『日本の要素を取り入れたペルー文化中心の育児』を行っていた.結論:在日ペルー人女性の育児環境は,デカセギ労働者という境遇文化・制度の相違による戸惑いがあり,それを家族の結束で乗り越えていた.地域の一住民として,文化を越えて人間としての結びつきを重要視した看護職のかかわり,外国人母子に関する調査研究を発展させていく重要性が示唆された.
著者
植村 直子 マルティネス 真喜子 畑下 博世
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.762-770, 2012-10-15

<b>目的</b> 在日ブラジル人妊婦が,妊娠から出産までの日常生活をどのように過ごしているのか,日本の保健医療システムの中で,どのような点に戸惑いや困難を感じているのかを調査し,在日ブラジル人妊産婦の保健医療ニーズを考察した。<br/><b>方法</b> 対象者は A 県在住で,日本語理解が不十分で,日本での出産が初めてであるブラジル人妊婦10人とした。2007年 8 月から2009年 7 月に,研究者と通訳者が対象者の妊婦健診への同行,および家庭訪問によるフィールドワークを実施した。分析は,フィールドノートより各対象者の妊娠•出産についての思いや考え,日常生活の様子,保健医療の場面での戸惑いや困りごとに関する記述からラベルを作成し,意味の共通するものをグループ化する作業を繰り返しカテゴリー化した。<br/><b>結果</b> 対象者の年齢は20歳代が 8 人,30歳代が 2 人で,在日期間は 3 年未満が 8 人,10年未満が 2 人であった。出産経験は「なし」が 8 人,「あり」が 2 人であった。労働状況は10人とも妊娠後期までに退職し,経済状況は夫の収入のみでは生活は厳しい状況であった。同居家族は「夫」が 6 人,「夫,子ども」が 2 人,「夫,親」が 2 人であった。家族の支援状況は,実際に身近に手伝ってくれる者がいるのは 6 人で,友人等の交流状況は,退職後は10人とも「なし」であった。<br/>  日常生活の様子や保健医療場面での困難では,4 つの大カテゴリー:I. 身内との支えあいは強いが,友人や近所との日常的なつきあいはあまりない,II. 過酷な仕事により,不規則な生活を送らざるを得ず,体に負担がかかっている,III. 日本での出産に関する情報が十分得られておらず,理解できていないことによる不安がある,IV. 母国と違うシステム,習慣に戸惑う,に整理された。<br/><b>結論</b> 在日ブラジル人妊婦の日常生活は孤立しがちで,不規則な生活状況であった。保健医療の場面では,日本での妊娠•出産に関する情報を十分に得られておらず,体重増加など日本とブラジルの基準の違いに戸惑っていた。こうした在日ブラジル人妊婦の生活状況を理解し,産後孤立させないことを見越した妊娠期からの関係の形成や,ブラジルの情報を踏まえた対応が求められる。また,市町村や保健所,産科•小児科医療施設,国際協会や民間支援団体,雇用者(企業)などが協力し,通訳の配置,対訳表•異文化理解のためのマニュアル普及やセミナー実施,相談日を実施するなどの支援体制づくりが望まれる。