著者
阪上 由美 小西 かおる
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.20-28, 2017 (Released:2018-08-20)
参考文献数
20
被引用文献数
2

目的:本研究の目的は,慢性期在宅療養者が潜在的ニーズを自覚するまでの訪問看護実践のプロセスを明らかにすることである.方法:修正版グラウンデッドセオリー(M-GTA)により,訪問看護師11人の半構造化面接データを分析した.結果・考察:結果として,24の概念,4サブカテゴリー,4カテゴリーが生成された.訪問看護師は【専門性を生かした基本的ニーズの充足】を行いながら,限られた時間のなかで〔「語り」の時空を創る〕実践を行っていた.そして,【在宅療養者の意向を重視して添う】かかわりや在宅療養者の【「生きる活力」の充填への実践】を行うといった≪在宅療養者の「生きる活力」を支える訪問看護実践≫を為すことで,次に〈今後の見通しを立てる〉〈背中を押す〉といった【潜在的ニーズを自覚させる実践】を行っていた.そして,訪問看護師による看護実践が,パターナリズムになっていないか,絶えず〈訪問看護実践のリフレクション〉を行っていた.結論:慢性期在宅療養者が潜在的ニーズを自覚するまでの訪問看護実践のプロセスは,≪在宅療養者の「生きる活力」を支える訪問看護実践≫を行いながら,在宅療養者が潜在的ニーズを自覚することができるよう,エンパワメント支援する実践であった.
著者
松永 妃都美
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.14-21, 2018 (Released:2019-08-20)
参考文献数
18
被引用文献数
2

目的:乳幼児を養育していた母親が福島第一原子力発電所事故の放射線被ばく回避を目的とした自主避難を実行するまでのプロセスを明らかにする.方法:福島第一の事故当時に乳幼児を養育し,A地域での自主避難を継続していた母親21人を対象とした半構造化面接を行い,複線経路等至性アプロ―チを用いて分析を行った.結果:研究協力者は,福島第一の事故に関するネガティブな情報を〔インターネット(SNS)を活用した情報収集〕で獲得し,〔SNS情報と現実がスッとつながる感覚〕を経験していた.このことが【避難元の生活で放射線被ばく健康影響が起こると考える】起点となり,{選択的情報収集}や〔放射線被ばく回避行動〕の契機になっていた.また研究協力者は,〔子どもを被ばくさせた罪悪感〕や〔放射線被ばく防護の限界〕を痛感するなかで{自主避難という選択肢の台頭}をしていた.しかし同時にこのことは,夫と築いた〔家族についての熟考〕をすることでもあった.このような熟考と〔避難への交渉と駆け引き〕を行うなかで研究協力者は〔母としての自己役割を優先〕する.そして【築き上げた生活や人間関係を捨てる覚悟】を行ったのち,≪放射線被ばく回避を目的とした自主避難の実行≫をしていた.考察:自主避難を継続する母親への支援には,放射線被ばくへの不安や恐怖を和らげること,また避難を実行するまでの苦難や葛藤を理解した対応が重要であることが示唆された.
著者
水田 明子 巽 あさみ
出版者
日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.92-100, 2012-03-31

目的:深刻なこころの健康問題を抱えた学生は増加しており,保健室担当者はその対応に困難を抱いている.そこで本研究は,小規模私立大学の保健室担当者がこころの健康問題を抱える大学生に対して行う健康相談の内容から,課題を明らかにすることを目的とした.方法:小・中.高等学校の養護教諭勤務経験(経験歴3年以上)をもつ,小規模私立大学の保健室担当者(非常勤)5人に平均69分の半構造化面接を実施した.研究方法は,舟島なをみによる看護概念創出法を用いてデータ分析を行った.結果:197の「大学生のこころの健康問題に対する相談-困難経験コード」が抽出され,6コアカテゴリが形成された.大学生に対する健康相談において,保健室担当者が抱える3つの困難を表す概念は,【学生のこころの健康問題の深刻化】【教職員に健康相談について理解と協力を得る困難】【こころの健康問題を抱える学生への対応の困難さ】であり,3つの課題を表す概念は,【青年期の精神的自立支援】【関係者との連携】【健康相談の組織的取り組み】であった.結論:学生のこころの健康問題は深刻化しており,保健室担当者は健康相談の対応に困難を抱えている現状が明らかになった.大学の保健室担当者に,青年期の精神的自立支援を行う役割があることを示唆している.健康相談を進める過程で,関係者と連携を図り組織的に取り組むことが重要である.
著者
白川 あゆみ
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.102-109, 2015-08-31 (Released:2017-04-20)

本研究の目的は,わが国において男性が配偶者を亡くしたあとの心理社会的影響を明らかにし,看護の支援課題と研究課題を導くことである.1983〜2013年までの,30年間に公表された,配偶者を亡くした男性の,心理社会的影響について研究された文献9件について検討を行った.心理社会的影響の内容,影響をもたらす要因,および影響の緩和要因の3点から検討し,その結果,配偶者を亡くした男性は孤独感や悲嘆が生じ,近所づきあいが減少し,親戚づきあいもなくなることがうかがわれた.死別後も新たな人間関係が構築できる支援が必要である.また配偶者を亡くした未成年の子どもを育てる男性は孤立無縁な状況におかれるとの思いをもっていた.看護者は.配偶者を亡くした未成年の子どもを育てる男性と意図的にかかわり,育児等,必要な情報の提供や同じ立場の人々の出会いの場をつくり,子育てについての相談の機会等を提供していくこと,必要に応じて施策の見直しや立ち上げの必要があることが考察された.今後の研究課題として先行研究の少ない未成年の子どもを育てる配偶者を亡くした男性の研究を積み重ね,基礎資料をつくること必要であると考えられた.
著者
松村 ちづか 川越 博美
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.19-25, 2001-03-01 (Released:2017-04-20)

本研究の目的は,在宅療養者の自己決定と家族の意向が不一致な状況において,熟練訪問看護者がその不一致を解決し,療養者の自己決定を実現するためにどのような意思決定をしているのか,構成要素および構造を明確にし,療養者の自己決定を支えるための訪問看護者の意思決定のあり方の示唆を得ることである.対象は5名の熟練訪問看護者で,継続的な家庭訪問での参加観察とインタビューを用いた質的記述研究を行った.その結果,熟練訪問看護者が認識した療養者の自己決定と家族の意向が不一致である内容としては,療養者の日常のケア,治療,生き方に関するものがあった.また,不一致の根底にある療養者と家族の関係性として,家族が療養者を大切に思うがゆえに不一致が生じているものと過去からの関係性の困難さから不一致が生じているものがあった.熟練訪問看護者の意思決定の構成要素として,訪問看護者としてのあり方を意味する2コアカテゴリー【訪問看護者としての生き方】【個人としての生き方】,意思決定のプロセスを意味する10コアカテゴリー【役割認識をもつこと】【了解すること】【自己関与させること】【自己と対話すること】【支援目標をもつこと】【見通すこと】【決断すること】【働きかけのタイミングを掴むこと】【働きかけ方の選定をすること】【支援について省みること】が抽出された.これらのコアカテゴリーを各熟練訪問看護者の意思決定の経時的プロセスに当てはめてみた結果,熟練訪問看護者の意思決定の全体を構造化することができた.以上の結果から,訪問看護者が在宅療養者の自己決定と家族の意向が不一致な状況を解決し療養者の自己決定を支えるためには,療養者と家族が共に納得できるような方向性の家族ケアを提供する必要性が示唆された.そして,訪問看護者の意思決定のあり方として,療養者の自己決定する権利を認識し,療養者の心身の利益の優先という倫理的,かつ自己のあり方を問う自律的な意思決定をしていく重要性が示唆された.
著者
野村 美千江 豊田 ゆかり 中平 洋子 柴 珠実 宮内 清子
出版者
日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.53-59, 2007-03-30

目的:認知症者の自動車運転は,公共安全の問題であると同時に病者の自立性に関わる問題である.本研究は,初期認知症者が自動車運転を中止する過程とその関連要因を記述することを目的とする.方法:対象は大学病院を受診し車の運転中止を勧告された初期認知症者13名とその介護者.平成15年10月〜17年12月の間,病者と介護者に半構造化面接と継続的な家族相談を実施した.カルテ・面接の逐語録・相談記録から病状経過,運転行動,中止要請への反応,介護者の認識と対応,生活環境等のデータを収集し,運転中止の過程と運転中止を困難にする要因を質的に分析した.結果:研究終了時点において,8名は運転を中止し5名は運転を継続していた.中止した8名は全員が自動車事故を起こし,診断から運転を断念するまでに5年を要した事例もあった.運転中止を困難にする要因は,同居家族の無免許や生活上の必要性,代替交通確保の難しさ,家族介護者の負担の増大などで,若年発症や身体能力が高い場合は中止がより困難であった.運転中止の過程において介護者は,病者の説得に苦労し,家族内の対立や近隣との軋轢など種々のストレスを体験していた.車のない生活への適応には家族の対応が影響していた.結論:認知症ドライバーを早期に発見し,病態や家族の問題解決力に見合った介護者相談や外出援助の資源開発等を行うことによって,運転中止後の生活適応を助ける必要がある.
著者
佐野 雪子 巽 あさみ
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.15-24, 2019 (Released:2020-04-20)
参考文献数
27

目的:アルコール依存症者が断酒と就業を両立するプロセスを明らにし,支援方法を検討する.方法:A県断酒会員に所属し就労しているアルコール依存症者9人に,半構造化面接にて断酒と就業継続に関する質問を行い,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチによって分析した.結果:【酒に操られている自分】が【崖っぷちの決断】で入院治療を決意し【孤独を溶かす断酒会】につながり【職場復帰時の困苦】を感じつつも【復職あと押し職場】で【再飲酒ストップの自己起動】を稼働させながら【生まれ変わった自分】となり,【大事にしたい家族】のために【自分らしい働き方】をするプロセスであった.また,【再飲酒ストップの自己起動】はプロセスの中心となるカテゴリーであった.考察:アルコール依存症者は,職場・家族・断酒会との社会的相互作用から【再飲酒ストップの自己起動】の稼働や【自分らしい働き方】が可能となり,断酒と就業を両立していることが明らかになった.支援においては,<魔法の薬>としてアルコールを使用していた背景や心理を十分に理解すること,<再飲酒への不安>軽減のため安定期後も継続して関わることの重要性が示唆された.
著者
片川 久美子 小林 淳子
出版者
日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.5-12, 2005-09-15
被引用文献数
1

本研究の目的は,Donabedianによる質の評価とサービス・マネジメント論の枠組みに基づいて乳幼児健診に対する母親の満足感に関連する要因を検討することである.対象は,Y県内7市で乳幼児健診を利用した母親1,812名で,質問紙調査を実施した.調査項目は,基本属性,健診結果の評価(総合的な満足感,健診への期待に対する満足感と期待の差(S-E),健診への推薦度),健診過程の評価(肯定的な関わり,否定的な関わり),健診構造の評価(全体的な会場の環境,診察・相談の環境,健診の設定)である.「健診結果の評価」を従属変数としてパス解析を行った結果,母親の「総合的な満足感」が高まる要因は,母親の体調が良いこと,「健診結果の評価」に含まれる「S-E」得点が高いこと,「健診構造の評価」に含まれる「健診の設定」,「診察・相談の環境」の評価が良いこと,「健診過程の評価」に含まれる「肯定的な関わり」があること,「否定的な関わり」がないことであった.「S-E」得点が高まる要因は,第2子以降の健診であることや「全体的な会場の環境」の評価が良いこと,「否定的な関わり」がないことであった.「健診への推薦度」に影響する要因は,「総合的な満足感」であり,「S-E」は影響していなかった.「総合的な満足感」を軸として,母親それぞれの健診への目的が達成されたかどうかということや,健診構造,健診過程の側面から評価していくことが,健診利用後の満足感を評価する指標となる可能性が示唆された.
著者
馬場 みちえ 西田 和子 藤丸 知子 兒玉 尚子 伊藤 直子 今村 桃子 津山 佳子
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.63-71, 2008-03-25 (Released:2017-04-20)

看護師の喫煙率は高いといわれ,看護学生時代に喫煙開始する人が多いと報告されており,看護学生時代の禁煙支援は重要なことである.本研究では,女子看護学生の喫煙習慣と性格特性の関連について検討を行った.性格特性の測定にはMPI性格調査票を用い,喫煙者と禁煙者は,非喫煙者と比較すると外向的であった.喫煙者は,神経質傾向がみられ,精神的健康度を測定するGHQ28ではストレスが高くなっていた.しかし禁煙者では神経質傾向がなくストレスは低かった.また禁煙ステージ別にみると,喫煙者の関心期,準備期と禁煙者の性格特性は類似していた.看護学生時代の禁煙支援あるいは喫煙防止教育には,性格特性を踏まえて行う必要があることが示唆された.禁煙教育は喫煙者にはもちろんであるが,禁煙者が再度喫煙者へ移行しないよう,禁煙者も含めて支援することが重要である.
著者
岡本 優子 樋口 まち子
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.6-14, 2018 (Released:2019-12-20)
参考文献数
31

目的:在日フィリピン人女性の肥満に関連する食事・運動・睡眠・ストレス対処の行動とその認識について明らかにする.方法:滞日年数5年以上で40歳以上の在日フィリピン人女性10人に半構造化面接を実施し,帰納的記述的に分析した.結果:在日フィリピン人女性は,日々の生活で【肥満関連疾患予防や健康維持のために食習慣が変容】し,【肥満関連疾患予防とともに健康維持のための運動習慣の獲得】をし,【健康であるための良眠の確保】や【日々のストレスをやり過ごす工夫】による肥満予防のための行動を認識していた.一方で,在日フィリピン人女性は,【回避できない肥満になりやすい食習慣】や【生活に運動を取り入れることが困難である要因】により運動できないこと,【肥満をもたらす睡眠行動】や,【ストレス対処としての食事】の摂取による肥満予防に反する行動も認識していた.考察:在日フィリピン人女性の肥満予防に関する相反する行動と認識は,彼女たちがフィリピンで培った行動と来日を契機に変容した行動を織り交ぜつつ,試行錯誤を繰り返しながら,日本での生活を遂行するなかでもたらされたと考えられる.結論:在日フィリピン人女性の食事・運動・睡眠・ストレス対処における肥満予防に関する行動と認識が相反するのは,フィリピンで培った行動と来日を契機に変容した行動を織り交ぜて生活していることによるものであると理解したうえで肥満予防対策を構築する必要性が示唆された.
著者
呉 珠響 斉藤 恵美子 河原 加代子
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.74-79, 2009-03-31 (Released:2017-04-20)

目的:本研究は,都市部の一地域に暮らす在日フィリピン人の肥満と生活習慣の実態を明らかにし,基礎資料を得ることを目的とした.方法:20歳以上の在日フィリピン人60名に対し,無記名の英語の自記式質問紙による集合調査を実施した.結果:回収数は53名,有効回答数は40名であった.男性は12名(30.0%),女性28名(70.0%),BMI≧25の割合は男女ともに25.0%であった.男女での2群間での比較では,男性のほうが,家族以外の者との同居,大学卒業以上,8時間以上の勤務の人の割合が有意に高かった.また,男性のほうが,毎日フィリピン料理を食べる人の割合が有意に高く,ミリエンダの回数が有意に多く,食品摂取の多様性得点が有意に低く,食事の時間が有意に短かった.肥満群と非肥満群との比較では,肥満群のほうが,腹囲≧90cmの人の割合,身体的疲労がある人の割合,日本料理を食べる頻度が少ない人の割合が有意に高かった.結語:在日フィリピン人の肥満者の割合は25.0%であった.彼らの身体的な疲労,肉体労働への従事や長時間勤務,および食生活に関する習慣が肥満に影響を及ぼしていることが明らかになった.仕事や生活状況を考慮した肥満予防と健康維持および増進のための保健指導の必要性が示唆された.
著者
多田 美由貴 岡久 玲子 岩本 里織 松下 恭子
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.13-22, 2021 (Released:2021-12-24)
参考文献数
33

目的:健康や医療に関する情報を入手,理解,評価,活用して健康に結びつくよりよい意思決定ができる力であるヘルスリテラシーが健康を決める力として注目されている.本研究では,乳幼児をもつ母親の育児に関するヘルスリテラシー(以下,育児リテラシー)を明確化することを目的とする.方法:A県の子育て支援施設を利用しており,育児リテラシーを発揮して育児ができていると推薦された乳幼児をもつ母親10人を研究参加者とした.半構成的面接調査を実施し,母親の育児リテラシーについて,質的帰納的に分析した.結果:乳幼児をもつ母親の育児リテラシーとして,【子育て情報にアンテナを張る】【複数の子育て情報源にアクセスする】【子育て情報を理解する】【子育て情報の信頼性を判断する】【自分や子どもに必要な子育て情報であるか判断する】【子育て情報を自分の子育てに取り入れる】の6つのカテゴリーが抽出された.考察:乳幼児をもつ母親の育児リテラシーの内容に特徴的な要素として【子育て情報にアンテナを張る】【自分や子どもに必要な子育て情報であるか判断する】の2カテゴリーが,ヘルスリテラシーに共通する要素として残り4カテゴリーが明確化された.保健師は,早期からの育児リテラシー教育とともに,育児相談等における環境づくりや根拠を基にしたアドバイス,また,母親に対するねぎらいの言葉をかける等の支援の必要性が示唆された.
著者
岩切 茉祐 内村 利恵 小寺 さやか
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.41-49, 2023 (Released:2023-04-26)
参考文献数
32

目的:発達障害児の家族を対象にした災害レジリエンスを高めるための災害準備指標を開発し,その信頼性と妥当性を検討することを目的とした.方法:災害レジリエンスの概念枠組みをもとに,先行研究から項目を収集および精選し,26項目の暫定版災害準備指標を作成した.全国の発達障害児の親の会21か所に所属する6歳以上18歳未満の発達障害児(疑いを含む)の保護者453人を対象に質問紙調査(郵送法)を実施し,指標の信頼性・妥当性を検討した.結果:回収数179人(回収率39.5%)のうち,172人から有効回答を得た.子どもの平均年齢は12.48±3.13歳であった.項目分析により2項目を削除し,探索的因子分析を繰り返し行った結果,3因子22項目で最適解を得た.因子は【家族・地域間のリスク共有】【暮らしのリスク低減】【必要物品の準備】と命名した.Cronbach’s α係数は,災害準備指標全体が0.923,3因子は0.814~0.900であり,内的整合性が認められた.災害準備指標と災害準備の自己評価の間には中等度の相関(ρ=0.625)があり,基準関連妥当性が確認された.考察:本研究で開発した災害準備指標が,信頼性および妥当性を有することが確認された.本災害準備指標は,発達障害児の家族にとって,災害準備性を振り返り,評価するツールとして有用であることが示唆された.
著者
畠山 典子 原田 静香 中山 久子 櫻井 しのぶ
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.13-25, 2019 (Released:2020-04-20)
参考文献数
17
被引用文献数
1

目的:自治体における産後ケア事業を利用する母親はどのような気持ちにおかれているのか,産後ケア利用後にどのような気持ちの変化をもたらしたのかを明らかにすることで効果的な産後ケア事業の展開方法への示唆を得ることを目的とした.方法:産後ケア事業を利用した母親については利用前・利用後の気持ちの変化について,直接的ケアを提供する助産師については,ケアのなかでとらえた母親の気持ちについてインタビューを行い,グラウンデッド・セオリー・アプローチに準じて質的帰納的に分析した.結果:産後ケア事業を利用した母親の利用前の気持ちについて,【漠然とした不安感を軽減したい】【自分自身を振り返るための気持ちのゆとりと空間がほしい】【初めてのことに直面する機会が多く,否定的な感情をもちやすい】【どんな自分でもまずは受け止めてほしい】【他の母親や理想の母親像と現実を比較してしまう】【早いうちから信頼して相談できる人やサービスについて知っておきたい】の6つのカテゴリーを抽出した.利用後は,【母親自身が大切にされた経験となる】【気持ちにゆとりが生まれ思考が前向きに転換する】【交流のきっかけとなる】【漠然としていた不安の内容が見えてくる】の4つのカテゴリーが抽出され,母親の気持ちのポジティブな変化がみられた.結論:産後,母親としての新しい役割を担う時期には自信の低下や葛藤が起きやすい.その時期に,自分を受け止めてくれるという安心感や,専門職からのサポート,安全な環境のなかで自らを振り返り,大切にされた経験は,自分自身や児,家族,社会に対して前向きな気持ちの変化をもたらした.よって産後ケア事業のなかにおける個別性あるエモーショナルサポートを基盤としたケアの重要性が示唆された.
著者
有本 梓 横山 由美 西垣 佳織 臺 有桂 馬場 千恵 新井 志穂 村嶋 幸代
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.43-52, 2012-03-31 (Released:2017-04-20)
被引用文献数
5

目的:訪問看護師が在宅重症心身障害児の母親を支援する際に重要と考えている点を明らかにする.方法:重症児のみを対象とするA訪問看護ステーションの訪問看護師6人を対象に,2007年9月にグループ面接を行った.質的記述的分析を参考に,訪問看護師が在宅重症心身障害児の母親を支援する際に重要と考えている点についてコード化し,類似したコードをまとめてサブカテゴリーを,類似したサブカテゴリーをまとめてカテゴリーを作成した.結果:訪問看護師が在宅重症心身障害児の母親を支援する際に重要と考えている点は,支援するうえで重要ととらえている情報と支援姿勢に二分された.重要ととらえている情報は,【母親のケア能力】【母親による子の受け止め方】【母親の性格】【母親の心理状態】【母親の身体状態】【子の身体的状況】【子の能力】【在宅療養への家族のサポート体制】【家族の訪問看護に対する気持ち】【母親と訪問看護師との関係】からなっていた.訪問看護の支援姿勢として,【母親のペースに合わせて段階的にかかわる】【子と家族の生活のなかで子育てを共有する】【長期的なケアを見込み母親と社会をつなぐ】が明らかになった.結論:在宅重症児への訪問看護では,(1)母親の心理状態や生活状態の理解,(2)子や家族の状況に応じた母親のケア能力と家族のサポート体制の強化,(3)母親のペースでの関係構築,(4)長期的視点での関係機関と母親との関係構築が重要と考えられた.
著者
成田 太一 小林 恵子
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.35-44, 2017 (Released:2018-12-20)
参考文献数
53
被引用文献数
1

目的:地域で生活する統合失調症患者のリカバリーの概念を分析し定義を明らかにするとともに,支援を行ううえでの概念の活用可能性と課題を検討することを目的とした.方法:地域で生活する統合失調症患者のリカバリーについて,具体的な記述のある国内外の研究論文を対象として検索を行った.分析方法は,Rodgersの概念分析の方法を用い,リカバリーの概念を構成する属性,概念に先立って生じる先行要件,概念に後続して生じる帰結を表す箇所を抽出し,内容の共通性と相違性に基づいて分類し,構成概念を整理した.結果:地域で生活する統合失調症患者のリカバリーの構成概念として【新たな目標や願望をみつけ,主体的に生活する】【自分自身を客観視し,肯定的なセルフイメージをもつ】【主体的に支援を活用し,病状が安定する】【地域社会で相互関係を築き承認される】の4つの属性と,8つの先行要件,4つの帰結が抽出された.考察:地域で生活する統合失調症患者のリカバリーの定義は,「統合失調症患者がQOLを向上させるために希望や目標に向かって支援を活用し,体調や服薬の主体的な管理により病状を安定させながら,地域社会のなかで相互関係を構築するプロセス」とした.リカバリーを基盤とした支援により,当事者中心のケアを展開する一助になると考えられ,当事者の思いを引き出す支援技術や,当事者の視点でリカバリープロセスに寄り添う支援が重要である.
著者
山辺 智子 田髙 悦子 臺 有桂 河原 智江 田口(袴田) 理恵 今松 友紀
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.63-69, 2013

目的:安全を推進するセーフティプロモーションは,健康を推進するヘルスプロモーションとともに地域看護において根幹をなす重要な概念である.しかしながらセーフティプロモーションに関する研究はまだ少ない.そこで本研究では,地域における事故や傷害の予防が課題である,都市部児童の視点による安心安全の構成要素を明らかにすることが目的である.方法:研究対象は,A市b区地域の公立小学校2校に所属する小学5年生の児童8人であり,研究方法はフォーカスグループインタビューによる質的研究である.結果:児童における安心安全の構成要素は,25サブカテゴリー,5カテゴリー,すなわち[いざというときに自分で身を守る行動]や[自分の命や人の命の大事さ]等からなる【児童の意識と価値観】,[危険な目に合わないための約束ごと]等からなる【児童と家族の規範】,[遊びや遊具使用中の不注意]等からなる【児童の遊具や道具】,[通学路での危険]等からなる【学校における集団生活と学習】,[顔のみえる関係][地域の人と学校の結びつき]等からなる【見守りのある地域】が抽出された.結論:児童の視点による安心安全の要素を勘案し,具体的なセーフティプロモーションの推進によって都市部におけるセーフコミュニティの実現へと発展させることが課題である.
著者
錦戸 典子 田口 敦子 麻原 きよみ 安斎 由貴子 蔭山 正子 都筑 千景 永田 智子 有本 梓 松坂 由香里 武内 奈緒子 村嶋 幸代
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.46-52, 2005-09-15 (Released:2017-04-20)
被引用文献数
3

保健師の用いる支援技術として,グループを対象とした支援は日常的に用いられており,重要な支援技術であると言える.先行研究として,いくつかの質的研究や活動報告などがみられるものの,保健師によるグループ支援に共通の枠組みや具体的な支援技術については十分に明らかにされていない.本研究では,保健師によるグループ支援技術を体系的に整理するための端緒として,保健師によるグループ支援の方向性と特徴を明らかにすることを目的に,既存文献からの知見の統合,ならびにグループ支援に関する概念枠組みの検討を試みた.システマティックレビューに基づいて17文献を選択し,それぞれの文献中に記載されている保健師によるグループ支援の具体的な働きかけを表しているフレーズを抽出した.それらを統合し,さらに抽象度を上げて分析した結果,「グループの形成支援」,「グループの主体性獲得の支援」,「グループ活動の地域への発展の支援」の3つのカテゴリーが,保健師によるグループ支援の方向性として抽出された.このうち,主体性獲得の支援,ならびに,地域への発展の支援に関しては,保健師活動におけるグループ支援に特徴的な支援の方向性であると考えられた.保健師は,グループ支援活動を地域ニーズの中で捉え,地域全体のエンパワメントの視点で関わっている可能性が示唆された.
著者
押栗 泰代 河田 志帆 金城 八津子 畑下 博世
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.16-24, 2012-08-31 (Released:2017-04-20)
被引用文献数
1

目的:日本国内で現在開業する保健師の起業動機・起業準備・現在の活動を明らかにする.方法:WEB上で把握された開業保健師のうち同意のとれた9人を対象として,開業に至った動機や開業までの準備,現在の活動等について半構成的面接を実施し,起業動機・起業準備・現在の活動に焦点を当てて質的記述的に分析した.結果:起業に関連する19の中カテゴリー,8の大カテゴリーが抽出された.起業の動機は,【利用者に応じたサービスの提供ができない組織の現状】【自分の力が生かせる働き方】【保健師としての自分の使命】があり,開業までの準備は【経営のかじ取りを行う力の習得】【自分らしいサービス提供のための事業プランの策定】があった.開業後の現在は【継続的な新しい開業保健サービスの創発と拡大】【開業保健師のサービスから波及する健康増進】が明らかとなった.また,すべてに関連するものとして,【私を支えてくれる存在】が明らかとなった.結論:開業保健師の起業動機には,組織で働くジレンマがあり,保健師としての使命感がこれを後押しした.起業準備としては,経営能力を培うための自己研鑚に励みこれを開業後も継続している.開業後は,人々の声を直接拾い上げ,迅速かつ柔軟にサービスを提供している.これらから,開業保健師のサービスは,公共性の高い活動を行う組織の保健師と双方が補完することで,多様化する健康ニーズの対応への保健師の活動モデルとしての可能性が示唆された.
著者
石原 孝子
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.7-14, 2010
被引用文献数
1

肥満の中でも腹腔内脂肪の貯留による肥満は内臓脂肪型肥満と呼ばれ,動脈硬化性疾患を惹起するリスク要因のひとつである.内臓脂肪の蓄積は生活習慣の結果であると考えられ,具体的な生活習慣を明らかにすることが重要である.そこで,腹部CT検査を含む人間ドック受診者3,659名を対象に,まず年齢・性別と内臓脂肪面積との関連を検討し,対象を40〜60代の中高年に絞って(男性1,677名,女性1,187名)内臓脂肪面積と生活習慣項目について,分散分析と多重比較を用いて関連要因を探った.その結果,内臓脂肪の蓄積には,睡眠の質や時間,満腹まで食べる,外食が多い,塩分が多い,動物性脂肪の摂取が多く植物性食品の摂取が少ない,といった食習慣,飲酒や喫煙などの嗜好習慣が影響していることが示唆された.内臓脂肪に関連するとされる運動については,男性は頻度による差がみられたが,女性は明確な差異がなかった.結論として,内臓脂肪の蓄積には,食事摂取量および飲酒量の過多,睡眠の質の低下や長時間ないし短時間の睡眠,動物性食品に偏った食事,運動不足が影響していた.