著者
河田 志帆 畑下 博世 金城 八津子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.186-196, 2014 (Released:2014-05-29)
参考文献数
33
被引用文献数
1

目的 ヘルスリテラシーの概念分析の結果を基に独自の尺度を作成し,性成熟期女性のヘルスリテラシー尺度の開発を試みた。20~39歳の女性労働者を対象に項目の選定,信頼性と妥当性を検討した。方法 先行研究の概念分析より抽出された要素を基に,内容妥当性および表面妥当性の検討を経て30項目の尺度を作成した。近畿圏および東海圏在住の20~30歳代の女性労働者を対象に,本調査として1,030人,追加調査として424人に自記式質問紙調査を行った。なお,追加調査で実施した再テストは,同意書に署名を得た協力者により実施した。尺度の信頼性の検討は,クロンバック α 係数,再テストにおける相関係数の有意性の検定により行った。一方,妥当性の検討は日本語版健康増進ライフスタイルプロフィール(JLV–HPLPII),成人用ソーシャルスキル評定尺度の下位尺度との相関,子宮頸がん検診受診行動別の尺度得点の比較により行った。結果 本調査の対象者は1,030人で,回収数632人(回収率61.4%),有効回答数622人(有効回答率98.4%)であった。追加調査の対象者は424人で,回収数は86人(回収率20.3%)で,有効回答数86人(有効回答数100%)であった。項目分析および主因子法プロマックス回転による因子分析を行った結果,4 因子,21項目が抽出され,累積寄与率は53.7%であった。4 因子は【女性の健康情報の選択と実践】,【月経セルフケア】,【女性の体に関する知識】,【パートナーとの性相談】と命名した。各因子におけるクロンバック α 係数は α=0.72~0.83,全体は α=0.88であり,再テストでの相関係数は尺度全体で r=0.85(P<0.01)であった。また,開発した尺度と JLV–HPLPII,成人用ソーシャルスキル評定尺度は,有意な正の相関(P<0.01)を示し,子宮頸がん検診受診行動別の尺度得点の比較では,子宮頸がん検診受診群の得点が有意に高かった(P<0.001)。結論 今回開発したヘルスリテラシー尺度の信頼性および妥当性は概ね確保されていた。子宮頸がん検診受診行動と尺度得点との間に有意な関連がみられたことから,女性特有の疾患の予防および早期発見・治療に向けたヘルスリテラシー教育への実用可能性が示唆された。
著者
保田 ひとみ 柳原 真知子 畑下 博世 西条 旨子
出版者
金沢医科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

里帰り分娩は、親からの支援を受けることができる一方、夫の家事育児の減少、夫婦関係や父子関係への影響が懸念されている。そこで、妻が里帰り分娩から自宅へ戻った後1か月における、夫婦の3人の家族作りの体験を、質的記述的研究法を用いて分析した。結果、夫婦は、里帰り分娩をして良かったと捉えており、実家の支援を受けながら、里帰り中は、「頻繁な連絡により夫婦関係・父親の意識を高める」、自宅へ帰って1か月後の頃では、「夫婦が互いに気遣い、初めての子どもを育てていく」という体験をしていた。
著者
マルティネス 真喜子 畑下 博世 鈴木 ひとみ Denise M. Saint Arnault 西出 りつ子 谷村 晋 石本 恭子
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.69-81, 2017-06-20 (Released:2017-07-14)
参考文献数
27

本研究では、ブラジル人妊産褥婦がデカセギ移民として生活する中で、どのような心身の健康状態を体験しているのか、それに相互に影響を及ぼす社会文化的要因を明らかにすることを目的とした。研究対象は、ブラジル人人口が多い2県に在住するブラジル人妊産褥婦18名であった。日本人研究者と、ポルトガル語通訳者が2人1組となり、対象者の自宅で、半構成的インタビューを行った。研究期間は2013年~2014年であった。インタビューは「ヘルプシーキングの文化的要因理論」を用いて実施した。データのコーディングとテーマ抽出は分析的エスノグラフィーを用い、コア・テーマを抽出した。  その結果、心身の症状は、「心配」と「背・肩の痛み」が最も多く、続いて「頭痛」、「いらいらする・怒りっぽい」、「不眠症・眠れない」、「不安」が多かった。それらの原因の説明として、妊娠・子育てによるもの、仕事や収入の不安、外国人であるがゆえのわずらわしさ、頼れる人がいないということを挙げていた。それらに影響を及ぼす社会文化的要因として、【対等で深く結びつく家族の存在】、【労働力でありつづける逞しさ】、【条件の良さを選んで定住】、【保健医療制度への低い満足度】、【宗教によりもたらされる恵み】の5つのコアカテゴリーが抽出された。  日本で生活するブラジル人妊産褥婦は様々な心身症状を体験しており、日本とは異なる家族のあり方や宗教が大きく影響していると考えられた。これらのことが健康に影響するということを理解し、ブラジル人妊産褥婦の適切な保健行動に導けるよう介入しなければならない。
著者
押栗 泰代 河田 志帆 金城 八津子 畑下 博世
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.16-24, 2012-08-31 (Released:2017-04-20)
被引用文献数
1

目的:日本国内で現在開業する保健師の起業動機・起業準備・現在の活動を明らかにする.方法:WEB上で把握された開業保健師のうち同意のとれた9人を対象として,開業に至った動機や開業までの準備,現在の活動等について半構成的面接を実施し,起業動機・起業準備・現在の活動に焦点を当てて質的記述的に分析した.結果:起業に関連する19の中カテゴリー,8の大カテゴリーが抽出された.起業の動機は,【利用者に応じたサービスの提供ができない組織の現状】【自分の力が生かせる働き方】【保健師としての自分の使命】があり,開業までの準備は【経営のかじ取りを行う力の習得】【自分らしいサービス提供のための事業プランの策定】があった.開業後の現在は【継続的な新しい開業保健サービスの創発と拡大】【開業保健師のサービスから波及する健康増進】が明らかとなった.また,すべてに関連するものとして,【私を支えてくれる存在】が明らかとなった.結論:開業保健師の起業動機には,組織で働くジレンマがあり,保健師としての使命感がこれを後押しした.起業準備としては,経営能力を培うための自己研鑚に励みこれを開業後も継続している.開業後は,人々の声を直接拾い上げ,迅速かつ柔軟にサービスを提供している.これらから,開業保健師のサービスは,公共性の高い活動を行う組織の保健師と双方が補完することで,多様化する健康ニーズの対応への保健師の活動モデルとしての可能性が示唆された.
著者
畑下 博世 鈴木 ひとみ 辻本 哲士 金城 八津子 植村 直子 河田 志帆 藤井 広美 橋爪 聖子
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.43-51, 2013
参考文献数
15

A県断酒連盟会員143人に自記式質問紙調査を実施し,107人(有効回答率74.8%)から回答を得た。その結果,研究参加者は男性が9割以上で40〜70歳代が中心であった。人生で基も自殺を考えるようになった時期に半数以上が消えてしまいたいと考え,死にたいと考えた者は約4割,自殺の計画を立てたり行動を起こした者は全体の約2割強であった。自殺の年代,場所,方法などは警察庁の統計と同様であり,その当時の心身の状態および経済状態,家族や友人関係が悪化していたことが伺えた。これからの自殺対策には,家族を含む地域のネットワークが専門家と連携できる環境が作られ,自殺のサインに気づき,当事者から逃げずに国民1人1人が自身の問題として自殺予防に向き合うことが求められる。
著者
マルティネス 真喜子 畑下 博世 河田 志帆 金城 八津子 植村 直子
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.97-106, 2012

目的:A県に在住する労働目的で来日した在日ペルー人女性が,異なる文化,制度を背景にもち,外国人労働者としての境遇の下で行う日本での生活および育児とはどのようなものであるかを明らかにすることを目的とする.方法:A県在住の乳幼児をもつ在日ペルー人女性7人を研究対象に8か月間のフィールドワークを行い,フィールドノートに記録したデータをもとに民族誌を記述した.フィールドワークは自宅訪問を中心に,医療機関,保健センター,スーパーなどの生活の場で行い,インフィーマルインタビューはすべてスペイン語で行った.結果:7の大カテゴリー,25の中カテゴリー,73の小カテゴリーにまとめられた.在日ペルー人女性は,『波乱に満ちたデカセギ労働独身時代』を経て,『豊かで安全だが労働に縛られた環境』『殻に閉じこもっての在日生活』を『国境や距離を超えてつながる家族の結束力』をもって乗り越えながら,『ペルーの母親役割遂行と葛藤』『日本の母子保健制度利用への戸惑い』といった課題を抱えつつ『日本の要素を取り入れたペルー文化中心の育児』を行っていた.結論:在日ペルー人女性の育児環境は,デカセギ労働者という境遇文化・制度の相違による戸惑いがあり,それを家族の結束で乗り越えていた.地域の一住民として,文化を越えて人間としての結びつきを重要視した看護職のかかわり,外国人母子に関する調査研究を発展させていく重要性が示唆された.
著者
畑下 博世 川井 八重 坪倉 繁美 河田 志帆 笠松 隆洋 鈴木 ひとみ 西出 りつ子
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.287-293, 2014-01-31

精神障害者が入院医療中心の生活から地域生活中心へ転換を図るために,保健所が現在の取組みから考える課題や,今後の保健所の役割について検討することを目的に,全国518保健所を対象に精神保健福祉活動の実態調査を行い,238保健所から回答を得た(回収率45.9%)。地域生活中心への転換に向けた保健所の取り組みとしては,関係機関との調整や連絡会などが行われていた。しかし,長期入院中の患者にアプローチし,退院促進を図る活動実践は約3割に過ぎなかった。都道府県保健所は地域の実態を把握することが容易でないことが予測されるが,これまでの活動で得た経験を生かし,市町村と協同して活動を展開していくことが重要である。また,地域生活を支える保健所の課題として,住民への啓蒙,住宅整備,相談支援体制,就労支援があげられた。これらの充実に向けて,保健所が今後どのような役割を果たしていくのかを検討していく必要のあることが明らかになった。
著者
植村 直子 マルティネス 真喜子 畑下 博世
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.762-770, 2012-10-15

<b>目的</b> 在日ブラジル人妊婦が,妊娠から出産までの日常生活をどのように過ごしているのか,日本の保健医療システムの中で,どのような点に戸惑いや困難を感じているのかを調査し,在日ブラジル人妊産婦の保健医療ニーズを考察した。<br/><b>方法</b> 対象者は A 県在住で,日本語理解が不十分で,日本での出産が初めてであるブラジル人妊婦10人とした。2007年 8 月から2009年 7 月に,研究者と通訳者が対象者の妊婦健診への同行,および家庭訪問によるフィールドワークを実施した。分析は,フィールドノートより各対象者の妊娠•出産についての思いや考え,日常生活の様子,保健医療の場面での戸惑いや困りごとに関する記述からラベルを作成し,意味の共通するものをグループ化する作業を繰り返しカテゴリー化した。<br/><b>結果</b> 対象者の年齢は20歳代が 8 人,30歳代が 2 人で,在日期間は 3 年未満が 8 人,10年未満が 2 人であった。出産経験は「なし」が 8 人,「あり」が 2 人であった。労働状況は10人とも妊娠後期までに退職し,経済状況は夫の収入のみでは生活は厳しい状況であった。同居家族は「夫」が 6 人,「夫,子ども」が 2 人,「夫,親」が 2 人であった。家族の支援状況は,実際に身近に手伝ってくれる者がいるのは 6 人で,友人等の交流状況は,退職後は10人とも「なし」であった。<br/>  日常生活の様子や保健医療場面での困難では,4 つの大カテゴリー:I. 身内との支えあいは強いが,友人や近所との日常的なつきあいはあまりない,II. 過酷な仕事により,不規則な生活を送らざるを得ず,体に負担がかかっている,III. 日本での出産に関する情報が十分得られておらず,理解できていないことによる不安がある,IV. 母国と違うシステム,習慣に戸惑う,に整理された。<br/><b>結論</b> 在日ブラジル人妊婦の日常生活は孤立しがちで,不規則な生活状況であった。保健医療の場面では,日本での妊娠•出産に関する情報を十分に得られておらず,体重増加など日本とブラジルの基準の違いに戸惑っていた。こうした在日ブラジル人妊婦の生活状況を理解し,産後孤立させないことを見越した妊娠期からの関係の形成や,ブラジルの情報を踏まえた対応が求められる。また,市町村や保健所,産科•小児科医療施設,国際協会や民間支援団体,雇用者(企業)などが協力し,通訳の配置,対訳表•異文化理解のためのマニュアル普及やセミナー実施,相談日を実施するなどの支援体制づくりが望まれる。
著者
保田 ひとみ 畑下 博世
出版者
愛知県立看護大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

昨年度は、妊娠初期から産後1ヶ月までの夫の役割変換における縦断研究のうち、2組の夫婦を対象にし、それぞれの夫について妊娠初期と中期における夫の役割変換の過程を明らかにすることに取り組んだ。その結果、妊娠初期では、「妊娠への関心」、「妻・胎児へ関心を向け始める」、「漠然とした家族像の描写」の3つのカテゴリーが抽出され、妊娠中期では、「妻の身体・心理・社会的変化への関心」、「妻・胎児へ関心の上昇」、「妻・胎児へ関心の低下」、「漠然とした家族像の描写」の4つのカテゴリーが抽出された。そして、これらのカテゴリーは、両時期ともにそれぞれが関連し合っていることが明らかになった。本年度は、昨年度の対象に2組を加えて引き続き、妊娠初期から産後1ヶ月までの夫の役割変換の過程について明らかにした。研究方法は、本年度加えた2組の対象のそれぞれの夫に対しては、1.妊娠確定後妻の状態が安定した時期(1回目)、2.胎動知覚の時期(2回目)、3.分娩前の時期(3回目)、4.産後早期の時期(4回目)、5.産後1ヶ月頃の時期(5回目)に5回の面接を行った。昨年度からの対象の2人の夫には、それぞれ3回目から5回目の面接を行った。4人の夫の面接内容は昨年と同様に質的に分析した。その結果、妊娠確定後妻の状態が安定した時期(1回目)、2.胎動知覚の時期(2回目)においては、新しいカテゴリーの抽出はなかったが、1回日の面接で抽出された、「妊娠への関心」のカテゴリー名を「子どもを持つことへの関心」に、「妻・胎児へ関心を向け始める」のカテゴリー名を「妻・胎児へ関心」に変更した。分娩前の時期(3回目)では、「妻の身体・心理・社会的変化への関心」、「妻・胎児への関心の上昇」、「人間としての成長発達」、「漠然とした家族像の描写」の4つのカテゴリーが、産後早期の時期(4回目)と産後1ヶ月頃の時期(5回目)では、「第1子を迎える」、「妻・第1子への関心の上昇」、「人間としての成長発達」、「漠然とした家族像の描写」の4つのカテゴリーが抽出され、1回目から3回目と同様にそれぞれが関連し合っていた。以上の結果より、妻と第1子に関心を持ち続けることが夫の人間としての成長発達を促していると考えられた。