著者
日浦 美智代 一ノ瀬 孝恵 柴 静子 高橋 美与子 高田 宏 三根 和浪
出版者
広島大学学部・附属学校共同研究機構
雑誌
学部・附属学校共同研究紀要 = The Annals of educational research (ISSN:13465104)
巻号頁・発行日
no.44, pp.75-84, 2015

昨年度は,附属福山高等学校において,明治期に輸出されたキモノの実物観察を通して日本の衣装文化を理解する学習プログラムを開発した。生徒は,実物衣装の観察と布の厚み測定を通して輸出用キモノの特徴を明確に理解し,また明治の絹物商人のものづくりの精神に対して感動を得た。本研究の目的は,横浜の絹物商椎野正兵衛や京都の飯田高島屋の活動を取り上げて,キモノについてより多角的に探究させるとともに,1904年に開催されたセントルイス万国博覧会でキモノが大量に販売されたことがアメリカでのブームを引き起こしたことを理解させる学習を開発することであった。さらには,この学習を通してキモノ文化のちからを再発見し,未来へと継承して行く意識と態度を育成することを目的とした。開発したプログラムを附属高等学校において実践し,学習効果を検証した。アンケート等から,生徒は,明治期に輸出された刺繍のキモノが欧米を魅了した背景に椎野庄兵衛たちの優れたものづくりの心と技があったことを理解するとともに,キモノの文化を継承し発展させるためには歴史的理解を踏まえてグローバルな視点から考えなければならないことを認識した,という効果が確認された。Last year, we developed a home economics program for teaching Japanese kimono culture through the observation of kimonos exported during the Meiji era. The Attached Fukuyama High School students learned kimono characteristics from the thickness of the cloth. In this study a new learning program about the activities of silk dress dealers, S. Shobey in Yokohama and Iida Takashimaya in Kyoto, was developed for the Attached High School clothing education. In the lessons, students learned that kimonos were sold in large quantities at the St. Louis World Exposition held in the United States in 1904. From questionnaires, it was recognized that the students understood the heart and the manufacturing skill of S. Shobey and Takashimaya in the embroidery of exported kimonos. The new learning program helped students to understand the value of kimonos from a global perspective, based on historical understanding and had a thought to succeed to kimono culture in the future.
著者
柴 静子 日浦 美智代 一ノ瀬 孝恵 高橋 美与子 佐藤 敦子 木下 瑞穂 高田 宏
出版者
広島大学学部・附属学校共同研究機構
雑誌
学部・附属学校共同研究紀要 (ISSN:13465104)
巻号頁・発行日
no.38, pp.155-160, 2009

高等学校家庭科新学習指導要領(2009年告示)においては, 共生社会の実現の視点から「生涯を通して家族や家庭の生活を支える福祉や社会支援について理解させ, 家庭や地域及び社会の一員としての自覚をもって共に支え合って生活することの重要性を認識させる」という内容が新たに組み込まれた. 国際的視点で共生社会の実現を考えた場合, その取り組みの一つとして, 発展途上国への支援及び発展途上国から得る学びがある. 本研究では発展途上国の民として, 東南アジアの高地に住む「モン族」を取り上げる. モン族は「針と糸の民」といわれるほど刺繍の技術に優れており, 現在でも自らの民族衣装を作るに際し, 繊維を取り出すところから始めて, 全て伝統的な手作業で行っている. 一方日本では, 近年, 衣生活の中で化学繊維が台頭し, 伝統的な繊維を使用した衣類の割合は低下し, また手織りの技術は衰退している. そのような中で, モン族の伝統的な衣生活を学ぶことは, 日本の伝統的な衣生活文化の重要性を再認識し, これからの生活に役立たせる力を養うきっかけとなると考えた. 広島大学附属中・高等学校の高校生を対象として実験授業を実施した結果, 生徒の興味と学びにおいて, 高い効果を上げた.
著者
一ノ瀬 孝恵 日浦 美智代
出版者
広島大学附属中・高等学校
雑誌
研究紀要 /広島大学附属中・高等学校 (ISSN:13444441)
巻号頁・発行日
no.50, pp.37-44, 2004-03-01

中学校選択教科「家庭」では, 昨年度から「植物に親しむ」ことをテーマに「梅シロップ作り」「ハーブの栽培」「染色」「そば作り」「みそ作り」の授業を展開し, それらの中から「そば作り」に関する教材開発を図った。ゲストティーチャーの大久保氏から教わった30分でできるそば打ちの授業で, 生徒はそばについて興味を持ち, 家庭で積極的にそば打ちを行うようになった。今年度は, 生徒に家庭で気軽に実践できるそば打ちを体験させながら, そばアレルギーの生徒に対応すべく新たなメニューの開発を試みたので報告する。
著者
一ノ瀬 孝恵
出版者
広島大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

生物多様性条約第10回締約国会議(2010年10月名古屋)が開催され,SATOYAMAイニシアティブを含む持続可能な利用,バイオ燃料,農業,森林,海洋など各生態系における生物多様性の保全及び持続可能な利用に関わる決定の採択などがなされた。人と自然との共生を考える取組みが今こそ社会レベルでも生活レベルでも実践されなければならない。そこで本研究では,世界最古の薬学書「神農本草経」に記述され薬効のある食材「小豆」を切り口に,家庭科からESDへのアプローチを試みた。具体的には,コスタリカを訪問し,多様な自然環境を体験するとともに,豆を使用したコスタリカの代表料理ガジョピントの調理方法を現地の方から学ぶなど,環境に配慮した生活や食生活についての資料収集を行った。また,有志生徒と本校グランド横にある広い荒地を開墾し,小規模ではあるが有機の畑を作った後,小豆や十六ささげ,じゃがいも,だいこんなどの栽培を行なったり,農家に出向いて作物の収穫体験をすることで,都市部での生活において自然を上手に利用する方法や自給食材を使用したバリアフリーな料理を考えさせた。さらに「豆食文化と未来の食卓」と題し,切り口の小豆をはじめ,コスタリカで取材したフリーホール豆やガジョピントなどの資料を組み込み,マメ科植物に共生する根粒菌の力について荒地開墾を熱心に行う生徒に調査発表させたり,家庭とも連携を取りながら,豆を知り,豆を極め,豆を活かす授業実践を試みた。豆は乾燥することで長期の保存ができるため,世界中で利用されており,多くの個性豊かな豆料理や加工食品がある。豆を中心にした栽培を体験させ,世界のさまざまな国の人々が培ってきた豆食文化を理解させることにより,人と自然との共生とは,未来の食卓のあり方とはどうあるべきかを考えさせることができた。