著者
一二三 朋子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.146, pp.76-89, 2010 (Released:2017-03-21)
参考文献数
24

多言語・多文化社会では,異文化接触場面によりさまざまな心理的変容が起こり,そうした変容は共生のための学習と捉え得る。本稿では,接触場面でのコミュニケーションで行われる異なる意識的配慮に焦点を当て,意識的配慮がどのような要因で学習されるかを明らかにすることを試みる。アジア系留学生150名を対象に質問紙調査を行い,因子分析によって共生的学習に関わる要因と意識的配慮を特定し,次に,パス解析によって共生的学習の過程を考察した。その結果,意識的配慮の学習には自他の行動に関する信念が複雑に関与していること,その信念には日本での留学生活の質や日本人の態度などが影響を与えていることが明らかになった。
著者
一二三 朋子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.490-500, 1999-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
20
被引用文献数
2 1

本稿の目的は, 日本語非母語話者との会話における, 母語話者の言語的処理及び内的処理の特徴を明らかにし, その関連を検討することである。母語話者同士, 母語話者・非母語話者を, 2人1組とし, 2つの話題で行わせた会話の録音資料と母語話者に対し行った質問紙調査を分析する。録音資料をカテゴリーに分類し, 出現頻度を換算, 対話者×目的の2要因分散分析を行った結果, 対話者が非母語話者のとき'情報要求と意味交渉, 母語話者のとき情報提供, 意見, 評価が, 有意に出現頻度が高かった。質問紙調査結果を分散分析した結果, 対話者が非母語話者のとき主導的役割の必要性, 母語話者のとき会話を楽しむ気持ちが, 有意に高く認知されていた。また, 会話中の配慮に関する因子の因子得点を分散分析した結果, 対話者が非母語話者のとき会話を円滑に進める配慮, 母語話者のとき自己表現を積極的に行う配慮が, 有意に高かった。最後に, 相手及び自己の発話カテゴリー, 質問紙評定値, 因子得点を用い重回帰分析を行った結果, 相手の情報要求, 評価, 相槌と内的処理, 相手の日本語レベル, 親密度と自己の発話との関連が明らかになった。
著者
岡崎 敏雄 嶺井 明子 一二三 朋子
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は、持続可能性の内容重視日本語教育における学習者意識の変容を分析する。持続可能性とは、グローバル化のもとで加速化する環境危機、開発、貧困、雇用・社会保障不安等の諸困難により持続不可能な、個人・社会の転換を目指すライフスタイル、社会経済のあり方を指す。従来の内容重視の言語教育は、専門学習の準備として行われてきた。国内外でグローバル化への対応に向け、教育の専門化・細分化による産業界即戦力養成が急である。このような専門化・細分化に対して個人のライフスタイル、社会経済の転換など人としての生き方に関わるジェネラルな教育を横断的カリキュラムで行う教育システムの形成が必要である。本研究の対象となる日本語教育は、そのようなリベラルアーツ教育を目指す場として実現する点に独創的な価値がある。本研究では、従来取り上げられなかった学習者が持続可能性と自分との関連(レラヴァンス)を見出す切り口を多面的に設定する日本語教育により促される意識の変容を取り上げる一例(グローバル化に対応するための構造改革による雇用・社会保障上の不安等)持続可能性の社会レベルでの揺らぎに対する(「就職・子育ての選択」「就職と直結する専門学習など」学習者が迫られる切実な問題に対する「問い」(自分はどんな生き方をしていくのか(行動基準)など)の切り口。その問いを考える手がかりとして、日本語による資料・文献の読み、ビデオ視聴、タスク活動、内省レボート記録を実施し、分析結果を公刊した。