著者
岡崎 敏雄
出版者
筑波大学一般・応用言語学研究室
雑誌
言語学論叢 オンライン版 (ISSN:18826601)
巻号頁・発行日
no.第3号 (通巻29号), pp.1-17, 2010-12-31

海外年少者日本語教育のあり方について、第一に、その理念となる「意味の生態系の育成としての言語教育」の骨格である生態学的リテラシーの育成として、「世界人口67億のうち10億の人口が飢餓の下にあることをも明示的に捉えた構造的理解に至る世界の能動的認識」に基づく意味・「人間生態系と自然生態系の相互作用、相互交渉的性格をなす実践」に基づく意味・「生きるための意味、及び意志の形成の下における実存」に基づいて捉えられた事象の意味の、生態系の育成、第二に、その基礎となる言語生態学と言語教育の関係、及び第三に、海外年少者日本語習得の習得論上の基盤をなす「言語生態学における言語習得の捉え方」について論ずる。
著者
岡崎 敏雄 Toshio OKAZAKI
出版者
国立国語研究所
雑誌
日本語科学
巻号頁・発行日
no.4, pp.74-98, 1998-10

筑波大学外国人年少者に対する日本語教育への本格的取り組みは近年開始されたばかりである。現場の教師は手探りでこれに当たり,その中で言語教育観が形成されつつある。本研究は,形成されつつある教師の言語教育観に焦点を当て,日本語教育が必要な金国の外国人年少者の在籍する公立小・中学校の日本語教育に関わる全教師に対して質問紙による言語教育観の調査を行った。クラスター分析,分散分析の結果,全体として(日本語教育と共に)母語保持を重視する言語教育観が教師によって高く支持され,カナダのイマージョン・プログラムに典型的に見られる継続的二言語併用型の言語教育観が形成されつつあることが示された。しかしながら他方,日本の諸条件を反映して,同時に「少数散在型」「受容型」「滞在エンジョイ型」「短期滞在者への注目型」「現行制度枠内型」という性格を備えたものであることが示され,教育制度の異なるカナダのイマージョン・プログラムでの継続的二言語併行型言語教育との相違も明らかにされた。
著者
岡崎 敏雄
出版者
国書刊行会
雑誌
日本語科学
巻号頁・発行日
no.4, pp.74-98, 1998-10
著者
岡崎 敏雄
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

平成7年度より9年度にわたる資料・先行研究・茨城県下の面接調査の結果、当研究の目的「海外における年少者言語教育研究・日本における帰国子女教育研究の蓄積の結果提出されたCumminsの相互依存の仮説および小野の小学校時代1言語の仮説が、日本的条件下で学習する外国人年少者の諸ケースでどのように妥当しているか、また妥当していない部分についてどのような新たな検討すべき要因があるかを明らかにすること」に関して、両仮説が前提として取り上げた要因群の中に含まれていない(従って海外言語教育研究・帰国子女教育研究では取り上げられて来なかった)「1.日本人教師の外国人年少者の受け入れ観、日本語・母国語教育観」および「2.外国人年少者の父母の日本語・日本社会に対する姿勢、母国。日本語の必要観」の2要因が日本の条件下における年少者言語習得・保持に高い影響度を持つことが示された。以上に基づき、本研究では前者の要因に焦点を当て、これらの教師の持つ言語教育観、またそれらに影響を与える教師・学校の属性それぞれの特色に関わる調査を当研究の一環としてなされた諸ケーススタディを踏まえ、日本語教育を必要とする外国人小中学生の日本語教育担当教師及びクラス担任に対し質問紙調査を実施し、重回帰、クラスター、分散の各分析により分析。考察した。その結果、日本的条件下の教師の言語教育観は、全体として「継続的二言語併行型」を示し、同時に「少数散在型」、「受容型」、「短期滞在注目型」、「滞在エンジョイ型」、「現行制度枠内型」の特徴を示し、属性では「指導した外国人年少者数」、「父母との懇談経験」、「外国人年少者指導研修経験」が大きな影響力を持つことが明らかにされた。
著者
田中 望 斎藤 里美 岡崎 敏雄 山田 泉 林 さとこ 上野 田鶴子 大橋 敦夫 大谷 晋也 古川 ちかし
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

今回の3年間の研究の結果として概略つぎのようなことが判明した.1. アジアからの外国人女性たちに対する日本語教育は,多くの場合,抑圧的な構造をもち,彼女たちを日本人につごうのよい「疑似日本人」にしたてるために機能する,同化的なものであること.2. それに対して,日本人による支援活動のなかに,アジアからの外国人女性たちにコミュニティでの声をもたせることに成功している少数の例があること.3. 地域社会では,抑圧的な日本語教育と声をもたせるための支援活動のあいだで,どちらをとるかの議論がおこっており,外国人に日本語を教えるというパラダイムに変更を迫る動きがあること.なお,3年間の調査を通じて,もつとも重要な成果といえるのは,調査研究そのものに対する見直しを被調査者から突きつけられたことである.このことは,エスノグラフィ的調査といえども,調査のもつ搾取的構造から逃れられないことを意味しており,調査のあり方に根本的な反省を加えなければならないことになった.今後は,調査研究という枠組みをはなれて,研究者といえどもたんなる「異者のかかわり」として地域社会と関係をもつというあり方を追求する必要があると思われる.
著者
岡崎 敏雄 嶺井 明子 一二三 朋子
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は、持続可能性の内容重視日本語教育における学習者意識の変容を分析する。持続可能性とは、グローバル化のもとで加速化する環境危機、開発、貧困、雇用・社会保障不安等の諸困難により持続不可能な、個人・社会の転換を目指すライフスタイル、社会経済のあり方を指す。従来の内容重視の言語教育は、専門学習の準備として行われてきた。国内外でグローバル化への対応に向け、教育の専門化・細分化による産業界即戦力養成が急である。このような専門化・細分化に対して個人のライフスタイル、社会経済の転換など人としての生き方に関わるジェネラルな教育を横断的カリキュラムで行う教育システムの形成が必要である。本研究の対象となる日本語教育は、そのようなリベラルアーツ教育を目指す場として実現する点に独創的な価値がある。本研究では、従来取り上げられなかった学習者が持続可能性と自分との関連(レラヴァンス)を見出す切り口を多面的に設定する日本語教育により促される意識の変容を取り上げる一例(グローバル化に対応するための構造改革による雇用・社会保障上の不安等)持続可能性の社会レベルでの揺らぎに対する(「就職・子育ての選択」「就職と直結する専門学習など」学習者が迫られる切実な問題に対する「問い」(自分はどんな生き方をしていくのか(行動基準)など)の切り口。その問いを考える手がかりとして、日本語による資料・文献の読み、ビデオ視聴、タスク活動、内省レボート記録を実施し、分析結果を公刊した。