著者
田上 雅浩 一柳 錦平
出版者
日本水文科学会
雑誌
日本水文科学会誌 (ISSN:13429612)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.101-115, 2016-08-28 (Released:2016-09-05)
参考文献数
46
被引用文献数
1 3

d-excess(=δD-8×δ18O)は,主に水蒸気が蒸発する時の相対湿度,水温,風速によって変化し,大気水蒸気輸送過程では保存されるため,水蒸気の起源(どこで水蒸気が蒸発したか)の推定に有用である。本総説では,日本における降水のd-excessの観測研究と水蒸気の起源の推定に関するモデル研究をまとめ,大気水循環トレーサーとしての降水のd-excessの可能性について議論した。その結果,降水のd-excessが20‰以上,または冬季の値が夏季の値より高ければ,日本海側以外の地域の降水に日本海起源の水蒸気が卓越すると推定するのは妥当でないということを確認した。その一方,冬季において,観測された降水のd-excessと降水に占める日本海を起源とする水蒸気の割合との間に正の相関があることがわかった。これは,日本における降水のd-excessは,日本海起源水蒸気の寄与率を推定できる可能性を示唆している。降水の安定同位体比のマッピングと組み合わせることで,古気候や水資源管理に有用な基礎情報として提供できる可能性がある。
著者
一柳 錦平 田上 雅浩
出版者
日本水文科学会
雑誌
日本水文科学会誌 (ISSN:13429612)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.123-138, 2016-08-28 (Released:2016-09-05)
参考文献数
15
被引用文献数
4

日本全域における降水の安定同位体比の空間分布と季節変動を明らかにするため,日本水文科学会同位体マッピングワーキンググループでは,2013年に年間を通した集中観測(IOP2013)を実施した。本研究では,熊本大学で同位体比を分析した56地点のデータを用いた。その結果,各観測地点における降水のδ18Oやd-excessは短期的な変動が非常に大きく,冬型と南岸低気圧との違いや梅雨の影響などが認められた。また,日本全域を6地域に分けて平均した降水のδ18Oの月平均値について, 観測地点や期間が異なるデータを地域平均した田上ほか(2013)とIOP2013とを比較した。その結果,降水のδ18Oの月平均値は年平均値からの偏差として計算しても,観測地点が少ない地域では観測期間の違いは無視できない。しかし,d-excessの月平均値は絶対値を用いて地域平均すれば,季節変動を適切に表現できる。さらに,各観測地点における短期間の採水データから解析したδ18O の気温効果は北緯35°より北しか認められず,降水量効果は北緯37°より南の地点が多いという空間分布が,はじめて明らかとなった。今後は,2013年に他地点で観測した結果をできるだけ多く収集して,さらに空間解像度を上げて再解析を行う必要がある。
著者
田上 雅浩 一柳 錦平 嶋田 純
出版者
日本水文科学会
雑誌
日本水文科学会誌 (ISSN:13429612)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.73-91, 2013-08-31 (Released:2013-11-15)
参考文献数
59
被引用文献数
4 6

日本全国で降水の安定同位体比やd-excessの観測研究が多く行われてきたが,いまだに日本全国の時空間変動は明らかにされていない。本研究では,過去に日本全国で観測された48地点の降水の安定同位体比のデータを収集し,その季節変動と空間分布を明らかにした。その結果,降水δ18Oは,沖縄では冬季に高く,それ以外の地域では春季と秋季に高かった。降水δ18Oが高くなるのは,水蒸気フラックスの上流部で降水量/可降水量が小さく,蒸発量/可降水量が大きいためと考えられた。また,降水δ18Oは,年・春季・冬季には緯度効果が見られた。しかしながら,夏季には南西からの大きい水蒸気フラックスによって水蒸気フラックス上流部の降水量/可降水量と蒸発量/可降水量の低く,降水δ18Oは−10‰~−6‰の範囲に分布していた。また,秋季には台風によってδ18Oの低い降水が特に西日本や沖縄に供給されるため,−10‰~−4‰の範囲に分布していた。降水d-excessは日本全国で夏季は10‰より低く,冬季は15‰以上と高かった。秋季や冬季には,日本海側の降水d-excessは太平洋側より高い傾向が見られた。したがって,太平洋側・九州・沖縄地方では冬季の降水d-excessが20‰以上,または夏季より高くても日本海起源であると推定することはできない。ただし,本研究で使用したデータは観測期間が異なるため,日本全国で降水の安定同位体比の集中観測が必要である。
著者
一柳 錦平 荻田 泰永 田上 雅浩
出版者
日本水文科学会
雑誌
日本水文科学会誌 (ISSN:13429612)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.25-29, 2013 (Released:2013-04-16)
参考文献数
6

Stable isotopes in snow on sea ice were observed in the Canadian Arctic Sea. Twenty-three snowpack and four new snow samples were collected along the length of expedition on foot from March to May in 2011. Stable isotopes in snow ranged from -25 to -35‰ in δ18O and from 3 to 13‰ in d-excess, and the local meteoric water line (LMWL) is δD=8.4*δ18O+18.7. There are no relationships between δ18O in snow and surface air temperature in this study. Temporal variation of δ18O in snow is influenced by the direction of moisture flux, low (high) δ18O in snow exists when southwesterly (northerly or easterly) moisture flux dominants.
著者
小沢 聖 桑形 恒男 藤巻 晴行 一柳 錦平 登尾 浩助 後藤 慎吉 徐 健青
出版者
独立行政法人国際農林水産業研究センター
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

この原因を解明するとともに、この地下水を有効に利用する栽培システムを開発することである。東北タイの落水水田の土壌水の同位体比(δ18O/δ16O)は、深さ50cmで0時と12時に低下し、深さ70cmでは逆に0時と12時に増加する日変化を示した。この結果は、水蒸気態で深さ30-50cmの土壌水分が0時と12時ころ増えることを示唆する。作物根を深く伸ばすことで12時ころ上昇する土壌水を有効に利用でき、この方法として、溝栽培、穴栽培が有効なことを、石垣、東北タイの圃場実験で証明した。落水水田に存在する地下水は周辺の地下水とは独立しており、雨期に凹地に蓄積されたローカルな資源であった。したがって、その場の落水水田で有効に利用することが望ましい。深さ50cm を対象に、水フラックスを計算したが、水蒸気態による移動は極めてわずかと推察され、水移動の原因、フラックスの解析法等を再検討する必要がある。