著者
工藤 祐亮 登尾 浩助 加藤 孝 下大園 直人
出版者
公益社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会論文集 (ISSN:18822789)
巻号頁・発行日
vol.80, no.6, pp.507-514, 2012-12-25 (Released:2013-12-25)
参考文献数
52

水田での間断灌漑における間断日数の違いが温室効果ガス放出量と水稲収量に及ぼす影響を調査した.水管理は中干し期間を除いて常時湛水(湛水区),落水日数を2日とした間断灌漑(2日落水区),落水日数を4日とした間断灌漑(4日落水区)の3条件とした.調査の結果,間断灌漑における落水日数の延長がCH4放出量の削減に対して効果的である一方,N2Oの放出に対しては促進効果があることを明らかにした.また,地球温暖化係数(GWP)を用いたCO2換算量では,CH4とN2Oの積算フラックスの総和は2日落水区が最も小さく,間断サイクルの短縮が温室効果ガス放出量の削減に対して有効であることが示された.玄米収量は湛水区が最も高く,湛水区に対する2日落水区と4日落水区の減収量率は,それぞれ13%と18%であった.2日落水区は,単位玄米収量当たりの温室効果ガス放出量(CO2換算)が最小となり,大幅な収量低下をもたらさずにCH4とN2Oの放出を抑制することが可能な水管理であった.
著者
落合 博之 登尾 浩助 太田 和宏 北浦 健生 北 宜裕 加藤 高寛
出版者
土壌物理学会
雑誌
土壌の物理性 (ISSN:03876012)
巻号頁・発行日
vol.118, pp.13-17, 2011 (Released:2021-08-30)
参考文献数
8

土壌への熱水の浸透が均一でない圃場における研究では,温度分布の状況把握が行われていない.本研究ではサーモグラフィーを用いて熱水土壌消毒後のハウス内での熱水散布時における地表面温度分布について調べた.同時にセンサー埋設での埋め戻しによる土壌状態の変化によって起こる土壌中の水分移動の影響を温度変化を指標として評価した.熱水散布後,ハウス内全域で地表面温度分布がほぼ一様であることがわかり,これまで行ってきた 1 点での温度測定がハウス内全体の代表値となりうることがわかった.また,センサー埋設のために掘った穴の埋め戻し部表面では,熱水の浸透の影響と耕盤層破壊の影響で他の場所より温度が高くなった.このことより,埋め戻し部から選択的に熱水が浸透して深層土壌で不均一になることがわかり,不適切な埋め戻しが土壌水分量や地温の測定値に大きく影響する可能性があることがわかった.
著者
落合 博之 登尾 浩助 北 宜裕 加藤 高寛
出版者
土壌物理学会
雑誌
土壌の物理性 (ISSN:03876012)
巻号頁・発行日
vol.112, pp.9-12, 2009 (Released:2021-09-05)
参考文献数
14

土壌消毒の中心であった臭化メチルの使用が全面禁止され,それにより低負荷消毒法として熱水土壌消毒法が脚光を浴び始めた.しかし,熱水土壌消毒法は,新しい消毒法のため研究例が少ない.そこで本研究では,硝酸態窒素と塩素,亜硝酸態窒素,アンモニウム態窒素の濃度変化を調べた.実験は,温度90 ◦C の熱水を土壌に 204 L m−2 供給し,熱水消毒前と熱水投入 9 日後,熱水投入 3 ヶ月後の溶質濃度を,地表面から深さ 40 cm まで 5 cm 毎に採土後,土壌溶液を抽出し,土壌溶液中の溶質濃度変化について調べた.その結果,熱水消毒により溶脱が促進された.また,熱水投下から 3 ヶ月後に,硝酸態窒素,塩素,亜硝酸態窒素は,30 cm 以深で溶質濃度の増加が見られた.一方アンモニウム態窒素は,熱水により硝酸化成菌が死滅したためにはじめはほとんど変化がなく,時間経過と共に硝酸化成菌の復活 により深層で減少したと考えられた.
著者
小島 悠揮 登尾 浩助 溝口 勝
出版者
明治大学農学部
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.47-65, 2008 (Released:2011-12-19)

水資源の有効利用のために、様々な蒸散量・蒸発散量推定法の中から、代表的な(1)土壌水分減少法、 (2)茎熱収支法、(3)熱収支バルク法の3手法の精度、適応条件を調査した。また、土壌をかく乱することなく土壌水分量が測定可能な、鉛直挿入式のTDRプローブ(マルチプローブ)を開発した。(1)土壌水分減少法では深さ0.55mのポット内にダイズを栽培し、その土壌水分変動を従来のTDR法とマルチプローブを用いて観測し、その減少量と重量法による結果を比較した。マルチプローブはその構造の影響を受け、ロッド長が短い場合に大きな誤差を示した。波形解析ソフト等により、構造の影響を解決できればフィールドヘの適用も可能になる。土壌水分減少法は、ダイズ1個体の蒸散量が微小であったため、本研究では精度は検討できなかった。しかし、根圏の水吸収を観測することができ、長期間の測定を対象とすれば非常に有効な手法であると考えられる。(2)茎熱収支法ではダイズの蒸散量を測定し、重量法と比較した。茎熱収支法はダイズの微小な蒸散量を7〜14%の精度で測定可能であった。しかし、蒸散量が少ない日や、反対に非常に大きな蒸散量を示した日に大きな誤差を示した。センサが非常に脆弱であり、慎重な扱いが必要な点と加熱により植物細胞を破壊してしまう点から、長期の測定には不向きであると考えられる。(3)熱収支バルク法ではキャベツ畑での気象データを用いて蒸発散量を計算し、ライシメータ法と比較した。本報では、計算に必要なアルベドを0.1、地中熱流量を純放射量の10%と仮定した。熱収支バルク法は、ライシメータ法に対して、20〜24%の誤差で蒸発散量の安定した推定が可能であった。感度解析の結果、アルベドと地中熱流量は蒸発散量の推定に大きな影響を及ぼし、実測が望ましいことが明らかになった。土壌水分減少法と熱収支バルク法を組み合わせると圃場における水分消費がより明らかになるので、高水準な水資源の有効利用が可能になると思われる。
著者
登尾 浩助 溝口 勝 佐藤 直人 丸尾 裕一 ホートン ロバート
出版者
明治大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

微小重力下での多孔質中の水分挙動は未だに明らかになっていない。放物線飛行による疑似μG場において毛管上昇実験と土壌中への水分浸潤実験を行い、微小重力下での水分移動を解明することを目的とした。航空機による放物線飛行と落下塔による自由落下によってμG環境を作り出し、毛管上昇と多孔質体中への水分浸潤が受ける微小重力の影響に関する実験を実施した。一連の実験から、毛管上昇理論の微小重力への適用性を確認した。しかし、細い内径の毛管の上に太い内径の毛管をつないだ場合には水分移動が阻害されることが明らかになった。多孔質体中への水分浸潤は、微小重力下では著しく阻害されることがわかった。
著者
溝口 勝 荒木 徹也 山路 永司 木村 園子ドロテア 登尾 浩助
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

(1)間断灌漑周期とイネ収量の関係の定量的解明日本で初めてSRI農法を導入した愛知県新城市の農家の水田にモニタリング機器を設置し、平成21年6月から10月までのイネの生長と気象、土壌水分量の変化をリモートで観測した。その結果、間断灌漑の周期に応じて5cm深さの土壌水分量が応答すること、梅雨時には排水条件にするのが難しいことが確認された。(2)現地農民の水管理方法に関する聞き取り調査上記の農家に、SRI導入に至った経緯や慣行法との違いについて聞き取り調査を行った。また、インドネシアで学会に参加し、その現地見学の際にSRI普及指導員からSRIのノウハウを教えてもらった。日本の農家から、排水時に有機物(藻や水生生物)が田面水と共に水田の外に除去されてしまうことが指摘されたが、インドネシアでは灌漑時の湛水深をほぼゼロにすることで有機物を有効に土に還元していることがわかった。(3)局所的な排水の違いによるイネ収量調査千葉県柏市の水田でSRI実験を実施し、局所的な排水がイネ収量に及ぼす影響を明らかにした。(4)メタンおよび亜酸化窒素ガスフラックスの測定昨年度実施したSRI方式の水田および慣行水田からのメタンおよび亜酸化窒素ガスフラックスの測定結果を解析し、栽培方式の違いが温室効果ガス放出量に与える影響について考察した。(5)SRI実施水田と慣行栽培水田における水収支・エネルギー収支観測結果に基づき、水田における水収支・エネルギー収支を気象データから計算する方法を提案した。その他、J-SRI研究会を年6回開催し、SRIに関心を持つ研究者との意見交換を行った。こうした議論はホームページに公開されている。特に、最終年度の今年度は「SRI用語集」のWikiページを開設した。
著者
森 也寸志 林 匡紘 稲生 栄子 登尾 浩助
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

東日本大震災によって,福島第一原子力発電所から放射性物質が漏れ・拡散が起こった。事故から数年経った現在では,環境中に放出された放射性物質が土壌中を降下し,根から植物に吸収される事が危惧されている。土壌に降下した放射性セシウムは粘土鉱物に強く吸着されているが,有機物含量の多い土壌では,粘土鉱物を多く含む土壌に比べて放射性セシウムとの吸着が弱く,植物へ吸収されやすいと考えられる。根群域にある放射性セシウムは農作物に吸収される可能性があるため,もし,迅速に根群域を超えて下方に浸透させ,鉱物層に吸着させられるのであれば有利である。そこで,本研究では有機質土壌であるピートモスを植栽とするブルーベリーを対象とし,ポットでの放射性セシウムの移動実験を行った。特に,下方浸透に効果があるとわかってきた疑似間隙構造である人工マクロポアを使って表層に存在する放射性セシウムを根群域下まで輸送する可能性を検証した。ポットの底から黒ボク土5cm,ピートモス10cm,汚染土壌(1925 Bq/kg)5cmを詰めたものを6個準備し,「無施肥区・人工マクロポアなし」,「無施肥区・人工マクロポアあり」,「硫酸アンモニウム施肥区・人工マクロポアなし」,「硫酸アンモニウム施肥区・人工マクロポアあり」,「塩化カリウム施肥区・人工マクロポアなし」,「塩化カリウム施肥区・人工マクロポアあり」とした。土壌に吸着した放射性セシウムを溶出させることを目的に硫酸アンモニウム(15g/ポット)を,また,ブルーベリーによる放射性セシウムの吸収抑制を目的に塩化カリウム(30g/ポット)施肥した。毎日0.76L/dayの灌水をおこない,実験開始から1年4ヶ月後に実験を終了とし,ポットを分解し,放射性セシウムを計測した。「無施肥区・人工マクロポアなし」「無施肥区・人工マクロポアあり」では放射性セシウムは汚染土層から僅かに下方に移動した。人工マクロポアの周辺でも放射性セシウムの移動は5-10cm層までであり,人工マクロポア周辺と周辺以外での深度別放射能濃度の分布の違いはみられなかった。「硫酸アンモニウム施肥区・人工マクロポアなし」では,わずかに下方移動が見られたが,一方でブルーベリーの葉から放射能が検出され,下方に移動した放射性セシウムがブルーベリーに吸収された可能性が考えられた。「硫酸アンモニウム施肥区・人工マクロポアあり」では5-7.5cm層での放射能濃度が1000Bq/kgを超えており,無施肥区や「硫安区・人工マクロポアなし」に比べて高い値となっている。また,0-5cm層よりも5-7.5cm層のほうが放射能濃度が高い値となっており,人工マクロポアの効果によって放射性セシウムの下方移動が促進されたと考えられる。ただし,同様に植物体から放射能が検出された.また,人工マクロポア周辺の結果を見ると10-15cm層で200Bq/kg を超え,15-20cm層でも87.2Bq/kg放射性セシウムが検出された。他の区に比べて高い放射能濃度が下層で計測されており,すなわち,人工マクロポア周辺では下方浸透促進効果が大きいと判断できる。硫酸アンモニウムの施肥だけでは下方浸透促進効果がみられなかったが,人工マクロポアと組み合わせることで下方促進効果が大きくなったと考えられる。なお,塩化カリウム施肥は移動にはあまり効果がなかったが,植物体から放射性セシウムの検出はなく,植物体への吸収抑制をすることがわかった。ここから放射性セシウムの効果的な移動には,溶出・移動・吸収抑制のプロセスが必要であると推察できる。しかし,根群域下(黒ボク土層)への移動はあまりみられず,今後は硫酸アンモニウムと塩化カリウムを同時施用して,より効果的な移動と吸収抑制を同時に行うことを検討していきたい。
著者
溝口 勝 山路 永司 小林 和彦 登尾 浩助 荒木 徹也 吉田 貢士 土居 良一 鳥山 和伸 横山 繁樹 富田 晋介
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

SRI 農法が東南アジアの国々で爆発的に普及しつつあるが、その方法は国や農家ごとに異なり、適切な栽培管理技術は未だ確立できていないのが現状である。そこで本研究では、日本で気象や土壌・地下水位等の科学的なパラメータを測定するための最新のモニタリング技術を開発しつつ、主としてインドネシア、カンボジア、タイ、ラオスの東南アジア4 カ国にこのモニタリング技術を導入して、農業土木学的視点からSRI 農法の特徴を整理し、SRI栽培の標準的な方法について検討した。加えて、現在懸念されている気候変動に対する適応策として、各国の農家が取り得る最善策を水資源・農地管理に焦点を当てながら考察した。
著者
小沢 聖 桑形 恒男 藤巻 晴行 一柳 錦平 登尾 浩助 後藤 慎吉 徐 健青
出版者
独立行政法人国際農林水産業研究センター
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

この原因を解明するとともに、この地下水を有効に利用する栽培システムを開発することである。東北タイの落水水田の土壌水の同位体比(δ18O/δ16O)は、深さ50cmで0時と12時に低下し、深さ70cmでは逆に0時と12時に増加する日変化を示した。この結果は、水蒸気態で深さ30-50cmの土壌水分が0時と12時ころ増えることを示唆する。作物根を深く伸ばすことで12時ころ上昇する土壌水を有効に利用でき、この方法として、溝栽培、穴栽培が有効なことを、石垣、東北タイの圃場実験で証明した。落水水田に存在する地下水は周辺の地下水とは独立しており、雨期に凹地に蓄積されたローカルな資源であった。したがって、その場の落水水田で有効に利用することが望ましい。深さ50cm を対象に、水フラックスを計算したが、水蒸気態による移動は極めてわずかと推察され、水移動の原因、フラックスの解析法等を再検討する必要がある。