著者
越後 拓也
出版者
独立行政法人国際農林水産業研究センター
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

有機鉱物全般に共通する特徴を見いだすべく、1852年から2010年までの約300編の文献を参照し、その結晶構造および生成機構を議論した。その結果、有機鉱物最大の特徴は、生成機構と構造ユニットの関係にあることが判明した。その生成機構は、(1)炭素一炭素結合の生成と解離を伴う構造ユニットの形成(2)十分に安定化した構造ユニットの濃集と結晶化、の2段階に分けられる。代表的無機鉱物である珪酸塩鉱物の生成機構においては、構造ユニットが重合する際にシリコン-シリコン結合は生成されず、必ず架橋酸素と呼ばれる酸素原子を介して重合する。また、構造ユニットの重合と、鉱物の結晶化は同時進行することからも、有機鉱物の生成の際に起きる重合反応とは根本的に異なる重合メカニズムであることを解明した。ゲータイト(Fe^<3+>OOH)やヘマタイト(Fe^<3+>_2O_3)は鉄を含む鉱物および材料の変質物として生成する一般的な二次生成鉱物である。低温(4℃)から高温(70℃)までの様々な温度で合成したゲータイトの結晶形態を原子間力顕微鏡で調べたところ、幅と厚みはほぼ同じであったが、4℃で合成したものは長さ1μm以下なのに対し、70℃で合成したものは長さ2μm以上であることが分かった。これらのゲータイトに対し、X線光電子分光分析を行ったところ、高温合成のゲータイト最表面に存在する酸素の46%がヒドロキシル基であるのに対し、低温合成のものは42%にとどまった。また、ヘマタイトについては、平均粒径7nmの板状結晶と30nmの菱面体結晶をアスコルビン酸で溶解させたところ、7nmの板状結晶が30nmの菱面体結晶の2倍以上の速度で溶解することが判明した。以上の結果は、ナノ鉱物の表面構造や化学反応性が、結晶全体の組成や構造だけでなく、粒径や形態といった外的要因にも依存していること示している。
著者
坂上 潤一 伊藤 治 生井 幸子
出版者
独立行政法人国際農林水産業研究センター
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

西アフリカのギニアをモデルに、数年間の品種比較試験を通して、天水低湿地水田の収量形成要因の特定と環境型と遺伝子型の交互作用の解析を行い、対象地域の環境に適応した品種群を明らかにしようとした。その結果、収量形成に及ぼす最も重要な形質は、環境にかかわらず登熟歩合であった。全期間、サイト、品種の登熟歩合と収量の相関係数はr=0.743(P<0.001)となり、極めて高正の相関が認められた。さらに、収量は1穂籾数とも相関があり(r=0.419(P<0.001)、1穂籾数の増加は収量向上に影響を及ぼしていると考えられることから、対象の天水低湿地水田全般においては、穂数よりも穂重の特徴のある草型がより適性が高いと言えるが、収量は環境によって変動しており品種の環境への評価を詳細に進める必要があろう。次に、環境型・遺伝子型の交互作用を解析によって、異なる環境に対する品巣の一般適応性が明らかになった。そのような品種群は環境の良否にかかわらず講習を示す品種であり、本研究においては西アフリカで伝統的に栽培されているGambiakaとアフリカライスセンターで高収量を目的に育種されたアジアイネとアフリカイネの交雑種NERICAと呼ばれる系統のWAB1159-2-12-11-2-4などが、供試品種の中ではより一般適応性が高いと考えられた。これら品種はいずれも登熟歩合が高く、収量の回帰係数が1に近く、回帰の残差分散も小さい特徴を示した。
著者
小沢 聖 桑形 恒男 藤巻 晴行 一柳 錦平 登尾 浩助 後藤 慎吉 徐 健青
出版者
独立行政法人国際農林水産業研究センター
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

この原因を解明するとともに、この地下水を有効に利用する栽培システムを開発することである。東北タイの落水水田の土壌水の同位体比(δ18O/δ16O)は、深さ50cmで0時と12時に低下し、深さ70cmでは逆に0時と12時に増加する日変化を示した。この結果は、水蒸気態で深さ30-50cmの土壌水分が0時と12時ころ増えることを示唆する。作物根を深く伸ばすことで12時ころ上昇する土壌水を有効に利用でき、この方法として、溝栽培、穴栽培が有効なことを、石垣、東北タイの圃場実験で証明した。落水水田に存在する地下水は周辺の地下水とは独立しており、雨期に凹地に蓄積されたローカルな資源であった。したがって、その場の落水水田で有効に利用することが望ましい。深さ50cm を対象に、水フラックスを計算したが、水蒸気態による移動は極めてわずかと推察され、水移動の原因、フラックスの解析法等を再検討する必要がある。
著者
鬼木 俊次 加賀爪 優 双 喜
出版者
独立行政法人国際農林水産業研究センター
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本年度は、前年度までに行ったモンゴル国および中国内モンゴルのデータの整理と計量分析を行いつつ、モンゴル国において災害(干ばつ・寒雪害)後の牧民の移住と過放牧の関係について調査を行った。本年度の調査は、モンゴル国ゴビスンベル県、トゥブ県南部、およびドルノゴビ県北部で行った。現地の牧民および行政機関での聞き取り調査の後、ランダムサンプリングで牧畜家計の調査を実施した。この地域の災害のよる被害は、1999年冬〜2000年春に最も多く、その翌年にもかなり被害が出た。しかし、その後、多くの牧民は家畜を急速に増加させている。今年度の調査により、民主化以後のモンゴルには本来的に家畜を増加させる勢いがあることが分かった。消費を抑制して家畜を増加させる牧民もいるが、大多数はもともと消費が少なく、家畜ストックを増加させる強い性向を有している。一般に貧困世帯の場合、将来の所得よりも現在の所得を優先する割合(主観的割引率)が高く、将来の所得確保のために資産を増やすことが少ないと言われる。だが、モンゴルの場合は、家畜の自然増加率が高いため、ストック増加のインセンティブが強く、家畜の消費が抑制されるようである。自然災害の後は、草地の牧養力の限界に達するまで家畜が増加し続ける。また、牧民は財産として多くの馬を持つ傾向がある。馬は飼育のために必要な労働力が少なく労働生産性が高いが、価格が低いため土地生産性は低い。競馬用の馬以外は販売も消費も少なく、実際に必要な数以上の家畜を保有している。これは、モンゴル国では草地の利用がオープンで無料であるからであり、内モンゴルの場合は馬の頭数は最小限度に留まっている。モンゴルの家畜の増加インセンティブが高いということ、および労働生産性が高く土地生産性が低い家畜が過剰に放牧されやすいということは、従来の研究で見落とされてきた問題であり、今後、実証研究の積み重ねが望まれる。