著者
寺尾 徹 村田 文絵 山根 悠介 木口 雅司 福島 あずさ 田上 雅浩 林 泰一 松本 淳
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2017年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100300, 2017 (Released:2017-05-03)

1. はじめにインド亜大陸北東部は,陸上における世界的な豪雨域である。とりわけメガラヤ山脈南斜面には年降水量10000mmを大きく超える地域が広がり,世界の年間雨量極値(Cherrapunjee, 26,461mm, 1860年8月~1861年7月)を持つ(木口と沖, 2010)。この領域の降水は、アジアモンスーン循環を駆動する熱源であり、当該地域に住む人々の生活に本質的な影響を与えている。われわれの研究グループは、現地の観測網の充実による降水過程の解明、過去のデータを取得、活用することによる経験的な知見の集積を進めてきた。災害や農業、公衆衛生をはじめとしたさまざまな人間活動との関係を研究してきた。 2. 観測ネットワークわれわれの研究グループは、2004年以降,当該地域に雨量計ネットワークの展開を開始しており、2007年頃までに雨量計は40台に達し、現在まで維持管理している(図1)。自動気象観測装置も活用してきた。現地気象局等との協力関係を発展させ、過去の各気象局の持つデータの収集を進めてきた。 3. データレスキューインド亜大陸北東部のうち、英領インド東ベンガルおよびアッサムの一部は、1947年にパキスタン領となり、その後バングラデシュとして独立した。そのため、現インド気象局では降水量データのデジタル化がなされていない。バングラデシュ気象局もパキスタン独立以前のデータの管理をしていない。そのため、デジタルデータは1940年代以前が空白となっている。 英領インド気象局の観測は充実しており、バングラデシュでもっとも雨の多いSylhet域の降水観測点は、現バングラデシュ気象局の観測点の数倍ある。バングラデシュ最多雨地点とされるLalakhalには現気象局の観測地点がなく、旧いデータも保管されていない。 われわれの、データレスキューで得られた1891-1942年のSylhetとLalakhalの雨量データから、この二地点の当時の降水量の差を解析した結果、Lalakhalの方が30%近く月降水量が多いことが確かめられている。 当日は、われわれの研究成果を概観し、データレスキューの現状と、われわれの雨量計の観測データやリモートセンシングデータなどを活用した、初期的な解析結果をお示しする。 図1インド亜大陸北東部に設置した雨量計観測網。雨量計は○印で表されている。参考文献木口雅司・沖大幹 2010. 世界・日本における雨量極地記録. 水文・水資源学会誌 23: 231-247.
著者
山田 利紀 藤田 凌 田上 雅浩 山崎 大 平林 由希子
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.77, no.5, pp.I_27-I_32, 2021 (Released:2021-12-23)
参考文献数
15
被引用文献数
2

近年, 気候変動に伴う洪水リスクの将来予測が様々な研究において行われているが, それらには不確実性が存在する. 既往研究では気候モデルやシナリオの違いによる洪水リスクのばらつきが指摘されているが, その他にモデルによる不確実性の評価も必要である. 本研究では河川モデルCaMa-Floodの感度実験を行い, 近年の衛星観測や数値計算法の発展による全球河川氾濫モデルの更新や標高データの改善が世界の洪水予測や全球の洪水リスクの推定にどの程度影響するか調査した. その結果, 衛星観測の誤差に起因する標高データの違いが浸水分布に大きく影響することが判明した. また, モデルの物理過程では, 洪水流が河川高水敷を一時的に流れる過程が最も浸水面積の違いに影響を与え, 多いところでは約5.5%の違いを示した. また, 全球の洪水に暴露される人口は, モデルの物理過程や入力データの違いで最大14%異なることも判明した.
著者
渡部 哲史 山田 真史 吉田 奈津妃 佐々木 織江 神谷 秀明 田中 智大 丸谷 靖幸 峠 嘉哉 木村 匡臣 田上 雅浩 木下 陽平 林 義晃 池内 寛明
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.260-265, 2017
被引用文献数
1

 平成29年2月18,19日に東京大学本郷キャンパスにおいて,合計16名の参加者により第6回目となるWACCA (Water-Associated Community toward Collaborative Achievements)meetingを開催した.第6回となる今回は各自の研究内容を理解し,多様なスケールで展開される様々な水関連研究の現状やそれぞれが抱える課題,それらを克服するために必要なブレークスルーについて考える機会を設けた.各自の研究発表を基に,様々な研究分野に共通する課題やブレークスルーなど研究に関する議論や,アウトリーチのような活動に関する情報共有,その他研究を進める上で感じていること等の意見交換を行った.本報告ではそれらの議論の概要について記す.
著者
田上 雅浩 一柳 錦平
出版者
日本水文科学会
雑誌
日本水文科学会誌 (ISSN:13429612)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.101-115, 2016-08-28 (Released:2016-09-05)
参考文献数
46
被引用文献数
1 3

d-excess(=δD-8×δ18O)は,主に水蒸気が蒸発する時の相対湿度,水温,風速によって変化し,大気水蒸気輸送過程では保存されるため,水蒸気の起源(どこで水蒸気が蒸発したか)の推定に有用である。本総説では,日本における降水のd-excessの観測研究と水蒸気の起源の推定に関するモデル研究をまとめ,大気水循環トレーサーとしての降水のd-excessの可能性について議論した。その結果,降水のd-excessが20‰以上,または冬季の値が夏季の値より高ければ,日本海側以外の地域の降水に日本海起源の水蒸気が卓越すると推定するのは妥当でないということを確認した。その一方,冬季において,観測された降水のd-excessと降水に占める日本海を起源とする水蒸気の割合との間に正の相関があることがわかった。これは,日本における降水のd-excessは,日本海起源水蒸気の寄与率を推定できる可能性を示唆している。降水の安定同位体比のマッピングと組み合わせることで,古気候や水資源管理に有用な基礎情報として提供できる可能性がある。
著者
一柳 錦平 田上 雅浩
出版者
日本水文科学会
雑誌
日本水文科学会誌 (ISSN:13429612)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.123-138, 2016-08-28 (Released:2016-09-05)
参考文献数
15
被引用文献数
4

日本全域における降水の安定同位体比の空間分布と季節変動を明らかにするため,日本水文科学会同位体マッピングワーキンググループでは,2013年に年間を通した集中観測(IOP2013)を実施した。本研究では,熊本大学で同位体比を分析した56地点のデータを用いた。その結果,各観測地点における降水のδ18Oやd-excessは短期的な変動が非常に大きく,冬型と南岸低気圧との違いや梅雨の影響などが認められた。また,日本全域を6地域に分けて平均した降水のδ18Oの月平均値について, 観測地点や期間が異なるデータを地域平均した田上ほか(2013)とIOP2013とを比較した。その結果,降水のδ18Oの月平均値は年平均値からの偏差として計算しても,観測地点が少ない地域では観測期間の違いは無視できない。しかし,d-excessの月平均値は絶対値を用いて地域平均すれば,季節変動を適切に表現できる。さらに,各観測地点における短期間の採水データから解析したδ18O の気温効果は北緯35°より北しか認められず,降水量効果は北緯37°より南の地点が多いという空間分布が,はじめて明らかとなった。今後は,2013年に他地点で観測した結果をできるだけ多く収集して,さらに空間解像度を上げて再解析を行う必要がある。
著者
田上 雅浩 一柳 錦平 嶋田 純
出版者
日本水文科学会
雑誌
日本水文科学会誌 (ISSN:13429612)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.73-91, 2013-08-31 (Released:2013-11-15)
参考文献数
59
被引用文献数
4 6

日本全国で降水の安定同位体比やd-excessの観測研究が多く行われてきたが,いまだに日本全国の時空間変動は明らかにされていない。本研究では,過去に日本全国で観測された48地点の降水の安定同位体比のデータを収集し,その季節変動と空間分布を明らかにした。その結果,降水δ18Oは,沖縄では冬季に高く,それ以外の地域では春季と秋季に高かった。降水δ18Oが高くなるのは,水蒸気フラックスの上流部で降水量/可降水量が小さく,蒸発量/可降水量が大きいためと考えられた。また,降水δ18Oは,年・春季・冬季には緯度効果が見られた。しかしながら,夏季には南西からの大きい水蒸気フラックスによって水蒸気フラックス上流部の降水量/可降水量と蒸発量/可降水量の低く,降水δ18Oは−10‰~−6‰の範囲に分布していた。また,秋季には台風によってδ18Oの低い降水が特に西日本や沖縄に供給されるため,−10‰~−4‰の範囲に分布していた。降水d-excessは日本全国で夏季は10‰より低く,冬季は15‰以上と高かった。秋季や冬季には,日本海側の降水d-excessは太平洋側より高い傾向が見られた。したがって,太平洋側・九州・沖縄地方では冬季の降水d-excessが20‰以上,または夏季より高くても日本海起源であると推定することはできない。ただし,本研究で使用したデータは観測期間が異なるため,日本全国で降水の安定同位体比の集中観測が必要である。
著者
一柳 錦平 荻田 泰永 田上 雅浩
出版者
日本水文科学会
雑誌
日本水文科学会誌 (ISSN:13429612)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.25-29, 2013 (Released:2013-04-16)
参考文献数
6

Stable isotopes in snow on sea ice were observed in the Canadian Arctic Sea. Twenty-three snowpack and four new snow samples were collected along the length of expedition on foot from March to May in 2011. Stable isotopes in snow ranged from -25 to -35‰ in δ18O and from 3 to 13‰ in d-excess, and the local meteoric water line (LMWL) is δD=8.4*δ18O+18.7. There are no relationships between δ18O in snow and surface air temperature in this study. Temporal variation of δ18O in snow is influenced by the direction of moisture flux, low (high) δ18O in snow exists when southwesterly (northerly or easterly) moisture flux dominants.