著者
三島 慎一郎
出版者
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
農研機構研究報告 (ISSN:24349895)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.4, pp.1-9, 2020-07-15 (Released:2022-02-01)
参考文献数
60

日本の食飼料生産において,多量要素である窒素とカリウムの見かけの利用率はそれぞれ66%,69% と高いが,戦略資源になっているリンは17% しか利用されない.農地に投入されたものの作物に吸収されないで農地で余剰となるリンはOECD 加盟国内で最も多い.日本は肥料用のリンを全面的に輸入に頼っているが,元素P としてみると食飼料の形でも輸入しており,また鉄鉱石の夾雑物としても輸入している.既に営業運転に入っている下水からのリン回収事業や家畜ふん炭化物からのリン回収,実験段階であるが製鉄で出るスラグからのリン回収技術を組み合わせていくと,消費・精錬により排出されたリンの回収量は化学肥料に仕向けられるリンを賄うことができる.ただし,必要となる設備投資・メンテナンス・設備更新といった経済的事由や下水由来と言う時のネガティブな印象など普及に向けた課題もある.他方でSDGs の目標12,15 の実現に向けた資源的な裏打ちは必須であり,地産地消を基盤にした循環型社会・経済の実現に向け,リンの循環利用の取り組みは食飼料生産の持続性を担保するために必要である.
著者
實示戸 雅之 池口 厚男 神山 和則 島田 和宏 荻野 暁史 三島 慎一郎 賀来 康一
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.467-474, 2003-08-05
被引用文献数
23

耕地土壌表面における窒素収支を,投入窒素量と収奪量の差から求めた土壌残存窒素が余剰降水量に全量溶けたと仮定する年間平均溶脱水窒素濃度推定値を用い,都道府県別に評価した.その結果,以下のことが示された.1.年間亜平均溶脱水窒素濃度推定値の全国平均は7.8mg NL^<-1>,北海道を除く府県平均で8.8mg NL^<-1>,北海道で2.9mg NL^<-1>である.都道府県間のばらつきが大きく,30mg NL^<-1>を超えるなど極端に高い県と,値がマイナスを示す県とに分かれた.2.溶脱水窒素濃度推定値が高い府県では家畜ふん尿窒素負荷が高い場合が多い一方で,これらを含む多くの県において化学肥料窒素施用量のみでは溶脱水窒素濃度推定値を説明できなかった.3.現状の化学肥料窒素施用量の3割を削減することで,平均溶脱水窒素濃度推定値の全国平均が7.8→5.4mg NL^<-1>(-31%)に,府県では8.8→6.3mg NL^<-1>(-38%)に低下した.4.高度処理が可能なふん尿について窒素成分を除去し系外に排出する効果はそれほど大きくないが,これは前提となる処理可能量自体の問題と思われる.5.すべての休耕地を利用することにより,溶脱水窒素濃度推定値が全国平均で7.8→5.9mg NL^<-1>(-24%),府県平均では8.8→6.6mg NL^<-1>(-25%)と大きな削減効果が,さらに化学肥料削減の併用でさらに大きな効果が推定された.6.ただし今回の試算は,都道府県単位としたこと,年間平均溶脱水窒素濃度の性格,アンモニア揮散を窒素負荷減少要因と見なしたことなど,重要な精度低下要因が内包されており,改善の余地が残されている.