著者
佐瀬 勘紀 石井 雅久 池口 厚男 蔵田 憲次 兼子 敬子
出版者
独立行政法人農業技術研究機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

半乾燥地域に位置するアリゾナ大学環境調節農業センター(CEAC)のポリエチレン二重被覆温室を用いて環境測定を行った結果、自然換気と組み合わせた細霧冷房において、一定の設定気温の下で、換気量を減少させると湿度が増加し、細霧冷房のための水消費量が減少することを明らかにした。これは熱収支に基づく予測と一致した。また、気温と湿度を同時に制御する簡易な制御アルゴリズムを考案し、トマト栽培下で動作させた結果、目標の気温24〜25℃、相対湿度65〜75%にほぼ制御できることを明らかにした。水消費量の抑制は、湿度が高まることによる蒸散量の減少が大きく寄与した。一方、細霧冷房時の環境の分布特性も明らかとなり、特に、気流について、温室中央では上方に、周囲では内側あるいは下方に向かう気流が発生していることが明らかとなった。光質については、赤色/遠赤色比が、畝間では下方にいくに従って徐々に減少し、群落内では中央高さで最小となった。対象温室は天窓の開口部が屋根自体が開閉するという特徴があり、自然換気の基本的特性を解明するため、縮尺1/15の模型を用いて風洞実験を行った。その結果、天窓の開口部が風下に面し、両側窓が開放されている場合、温室内平均気流速やその分布が優れることを明らかにした。天窓の開口部が風上に面している場合は、外気が天窓上端から巻き込むように流入し、温室内に逆流を伴う循環流が形成された。天窓開口部の向きは平均気温には影響しなかったが、開口部が風下に面している場合、温室の中央から風下にかけて高温域が発生した。換気窓開口部への防虫スクリーンの設置の影響は大きく、温室内気流速は設置しない場合の40〜68%まで減少した。これらの結果は、半乾燥地において水使用量を抑制しつつ効率的な生物生産が可能であることを示している。
著者
實示戸 雅之 池口 厚男 神山 和則 島田 和宏 荻野 暁史 三島 慎一郎 賀来 康一
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.467-474, 2003-08-05
被引用文献数
23

耕地土壌表面における窒素収支を,投入窒素量と収奪量の差から求めた土壌残存窒素が余剰降水量に全量溶けたと仮定する年間平均溶脱水窒素濃度推定値を用い,都道府県別に評価した.その結果,以下のことが示された.1.年間亜平均溶脱水窒素濃度推定値の全国平均は7.8mg NL^<-1>,北海道を除く府県平均で8.8mg NL^<-1>,北海道で2.9mg NL^<-1>である.都道府県間のばらつきが大きく,30mg NL^<-1>を超えるなど極端に高い県と,値がマイナスを示す県とに分かれた.2.溶脱水窒素濃度推定値が高い府県では家畜ふん尿窒素負荷が高い場合が多い一方で,これらを含む多くの県において化学肥料窒素施用量のみでは溶脱水窒素濃度推定値を説明できなかった.3.現状の化学肥料窒素施用量の3割を削減することで,平均溶脱水窒素濃度推定値の全国平均が7.8→5.4mg NL^<-1>(-31%)に,府県では8.8→6.3mg NL^<-1>(-38%)に低下した.4.高度処理が可能なふん尿について窒素成分を除去し系外に排出する効果はそれほど大きくないが,これは前提となる処理可能量自体の問題と思われる.5.すべての休耕地を利用することにより,溶脱水窒素濃度推定値が全国平均で7.8→5.9mg NL^<-1>(-24%),府県平均では8.8→6.6mg NL^<-1>(-25%)と大きな削減効果が,さらに化学肥料削減の併用でさらに大きな効果が推定された.6.ただし今回の試算は,都道府県単位としたこと,年間平均溶脱水窒素濃度の性格,アンモニア揮散を窒素負荷減少要因と見なしたことなど,重要な精度低下要因が内包されており,改善の余地が残されている.