著者
杉山 充啓 佐藤 広幸 松島 憲一 PAUDEL Mina Nath SHRESTHA Deepa Singh KARKEE Ajay KARKI Sanjay
出版者
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
植物遺伝資源探索導入調査報告書 = Annual Report on Exploration and Introduction of Plant Genetic Resources (ISSN:24347485)
巻号頁・発行日
no.34, pp.215-227, 2019-03

本報告は農林水産省委託プロジェクト研究「海外植物遺伝資源の収集・提供強化」の予算により実施され,国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 遺伝資源センターとネパール国立農業遺伝資源センターとの間で締結した共同研究協定に基づいて行われたネパール東部におけるトウガラシ属およびウリ科遺伝資源の探索・収集に関わる調査報告書である.調査は2018年2月15日~24日にかけて行った.ネパール東部のイラム県,パンチタール県,ダンクタ県において探索・調査を行った.その結果,キュウリ27点,セイヨウカボチャ3点,ニホンカボチャ5点,クロダネカボチャ1点,トカドヘチマ1点,トウガラシ属29点の合計66点の野菜遺伝資源を収集した.収集された遺伝資源は,ネパール国立農業遺伝資源センターで保存するとともに,我が国の遺伝資源センターに導入される予定である.
著者
伊藤 研悟 伊達 康博 川村 隆浩 大城 正孝 江口 尚 小野 裕嗣
出版者
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
農研機構研究報告 (ISSN:24349895)
巻号頁・発行日
vol.2023, no.13, pp.3-22, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
30

昨今のSociety 5.0 及びポストコロナ時代において,研究現場ではリモート環境からデータ駆動型研究を加速させる高度な機器分析と情報連携基盤の開発が求められている.そこで農研機構では,リモート核磁気共鳴分光分析,データ駆動型解析及び機器分析データの一元管理をワンストップで提供する解析パイプラインを開発した.本パイプラインに合わせて長時間連続稼働が可能な自動前処理装置を利用することで,均質かつ均一な機器分析用試料の調製を可能にし,省人化・省力化を実現した.また,試料を約500 点セットが可能なオートサンプルチェンジャーを装着した溶液核磁気共鳴分光分析装置とリモート分析制御装置も導入し,簡便かつ安定なリモート分析の自動実行を可能にした.さらに,人工知能研究用スーパーコンピュータ「紫峰」と農畜産物のゲノムや成分などが格納された大容量の農研機構統合データベースを連携させることで,機器分析データの迅速なデータ駆動型解析とメタデータを含む機器分析データの一元管理を可能にした.この新たな基盤システムを利用することで,リモート環境にいる異分野の研究者同士がデータを介して繋がり,データ駆動型農業研究の促進や発展が期待される.
著者
田中 大介 江花 薫子
出版者
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
農研機構研究報告 (ISSN:24349895)
巻号頁・発行日
vol.2023, no.13, pp.35-45, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
72

近年,農業技術や環境の急速な変化,人口増加などにより,遺伝資源の多様性が脅かされている.遺伝的な多様性保全は,貴重な資源を次の世代に伝えるための最も重要な課題のひとつである.したがって,遺伝資源を最適な条件下で長期にわたり維持・保管することが急務である.液体窒素を用いた超低温保存は,遺伝資源を維持する上で最も信頼性が高く,コスト効率とスペース効率が高く,安全な方法である.植物の茎頂分裂組織,菌糸体,胚,精子,精巣,卵巣および始原生殖細胞などの多様な生物材料に適用されているガラス化を基礎とした長期保存法について解説する.
著者
小林 暁雄 坂井 寛章 桂樹 哲雄 伊藤 研悟 稲冨 素子 江口 尚 川村 隆浩
出版者
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
農研機構研究報告 (ISSN:24349895)
巻号頁・発行日
vol.2023, no.13, pp.23-33, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
15

農研機構内のプロジェクトや研究部門・センター毎に進められているバイオ研究課題では,データ管理や解析ツール開発が一元化しておらず,データの分散や個別化が問題となっている.これを解決するため,研究課題のニーズに基づきリソースを集約・重点化することにより資源の活用を効率化し,研究成果の最大化に繋げるためのプロジェクトが機構内組織横断的に進められている.本プロジェクトでは,機構の持つ高度計算資源を連携してオミクス情報を収集・解析し,研究データの来歴保証と研究の効率化を実現する解析パイプラインシステムの構築が取り組まれている.この計算資源には,機構内のゲノム解析サーバ及びスーパーコンピュータ「紫峰」を用いるとともに,ゲノムデータと解析されたデータを保存・機構内横断で提供する基盤として,農研機構統合DB を用いる.さらに,DDBJ Sequence Read Archive に準ずるメタデータを採用し,機構内で横断的にゲノムデータを解析・検索可能な解析パイプラインシステム を実現する. 本稿では,メタデータ入出力システムの詳細について解説するとともに,パイプラインシステムの現状と課題について議論を行う.
著者
熊谷 真彦 坂井 寛章
出版者
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
農研機構研究報告 (ISSN:24349895)
巻号頁・発行日
vol.2023, no.13, pp.89-97, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
17

近年のシーケンシング技術の進展により多量のゲノムデータが得られるようになり,同時に遺伝的多型と表現型との関連を解析するGenome Wide Association Study (GWAS) も盛んに行われている.これらの情報を誰もが簡単な操作で閲覧することを可能にし,また公開することでデータの利活用を促進することを目的としてウェブブラウザTASUKE の開発を行った.TASUKE は多サンプルのゲノムリシーケンスデータから得られる多型情報やGWAS の解析結果を幅広い解像度で情報量豊かに表示する.数百サンプル以上の一塩基多型や挿入欠失といった多型情報およびそれらの遺伝子への効果情報,デプス情報,遺伝子アノテーション情報,GWAS のマンハッタンプロット等を並列的に表示し,1 塩基対の解像度から最大2,000 万塩基対までの広い範囲の情報をスムーズに閲覧することが可能である.これにより,各サンプル間の関係を遺伝子から広域なゲノム領域のレベルで理解することができ,また,GWAS 結果から表現型多型の原因遺伝子の候補を探索することが容易になる.さらに,ゲノムデータの閲覧から得られた情報を実験で活用するため,任意の多型サイトや領域に対して,多型情報を考慮したプライマーの設計や系統樹作成等のさまざまな機能が実装されている.本TASUKE システムの概要を活用例と合わせて紹介する.
著者
桂樹 哲雄 森 翔太郎 十一 浩典 石川(高野) 祐子 小林 暁雄 伊藤 研悟 山本(前田) 万里 川村 隆浩
出版者
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
農研機構研究報告 (ISSN:24349895)
巻号頁・発行日
vol.2023, no.13, pp.47-61, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
15

農研機構では,2012-2015 年度に実施した機能性農林水産物・食品開発プロジェクトの成果物を元に,農林水産物が持つ機能性成分について文献情報と共に整理し,「機能性成分・評価情報データベース」として2018 年より公開している.一方,2019 年から,農研機構は島津製作所と共同で「食品機能性成分解析共同研究ラボ(NARO 島津ラボ)」を設置し,機能性農林水産物に関する様々な分析を実施してきた.また,農研機構内には戦略的イノベーション創造プログラム第2 期「スマートバイオ産業・農業基盤技術」(SIP2)の分析データも存在する.このたび農研機構では,機構内で得られた食品機能性成分データを一か所に集める狙いから,「機能性成分・評価情報データベース」,「NARO 島津ラボ」のデータ,SIP2 の成果等を集約し,「農研機構食品機能性成分統合データベース」を開発した.収録するデータには,公開情報だけでなく閲覧者を制限すべきクローズドデータが含まれるため,柔軟なユーザ認証機能を導入し,適切なアクセス管理を行えるようにした点に特徴がある.本データベースでは,データの属性に応じて検索結果をグループ化して表示するファセット検索機能やグラフ表示機能などを実装した.
著者
十一 浩典 関山 恭代
出版者
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
農研機構研究報告 (ISSN:24349895)
巻号頁・発行日
vol.2023, no.13, pp.99-105, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
20

メタボロミクスとは生物の代謝物を網羅的に調べ,それらを解析することで生命現象を捉えようとする研究手法である.一般的には,液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィーなどの分離装置と質量分析計を組み合わせることで試料中に存在する代謝物を分離し,これらを一斉かつ網羅的に測定して代謝物の総体(メタボローム)情報を得た後,種々の解析方法を用いて得られた情報の意義を考察する.近年では,メタボロミクスの発展と共に培われた分析技術・解析技術を応用し,農産物・食品を対象とした研究が活発に行われており,本稿では農産物に含まれる機能性成分に主眼を置いて実施したメタボローム解析について述べる.まず農研機構が保有する来歴が明らかな農産物に含有される代謝物を75%エタノールで抽出し,これらをペンタフルオロフェニルプロピル(PFPP)カラムで分離後,Q-TOF/MS で各成分の保持時間,および質量情報を得た.続いて差分解析により試料間で差異が見られた成分を特定し,来歴情報に照らして差異の意義について考察した.解析結果の一部を紹介し,将来の展望について解説する.
著者
三島 慎一郎
出版者
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
農研機構研究報告 (ISSN:24349895)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.4, pp.1-9, 2020-07-15 (Released:2022-02-01)
参考文献数
60

日本の食飼料生産において,多量要素である窒素とカリウムの見かけの利用率はそれぞれ66%,69% と高いが,戦略資源になっているリンは17% しか利用されない.農地に投入されたものの作物に吸収されないで農地で余剰となるリンはOECD 加盟国内で最も多い.日本は肥料用のリンを全面的に輸入に頼っているが,元素P としてみると食飼料の形でも輸入しており,また鉄鉱石の夾雑物としても輸入している.既に営業運転に入っている下水からのリン回収事業や家畜ふん炭化物からのリン回収,実験段階であるが製鉄で出るスラグからのリン回収技術を組み合わせていくと,消費・精錬により排出されたリンの回収量は化学肥料に仕向けられるリンを賄うことができる.ただし,必要となる設備投資・メンテナンス・設備更新といった経済的事由や下水由来と言う時のネガティブな印象など普及に向けた課題もある.他方でSDGs の目標12,15 の実現に向けた資源的な裏打ちは必須であり,地産地消を基盤にした循環型社会・経済の実現に向け,リンの循環利用の取り組みは食飼料生産の持続性を担保するために必要である.
著者
原 貴洋 松井 勝弘 鈴木 達郎 手塚 隆久 森嶋 輝也
出版者
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
農研機構研究報告 (ISSN:24349895)
巻号頁・発行日
vol.2021, no.9, pp.25-36, 2021-11-30 (Released:2022-02-01)
参考文献数
21

「NARO-FE-1」は,九州沖縄農業研究センター(以下,九沖研とする)において育成された春まき栽培でき穂発芽しにくいソバ新品種である.「NARO-FE-1」は,九沖研選抜の5 系統の交配後代から集団選抜法により選抜固定して育成された.「NARO-FE-1」は春まき品種「春のいぶき」と比較し穂発芽しにくく,春まき栽培において多収で,容積重が大きい.夏まきの標準期播種栽培では,「さちいずみ」と比較し成熟が早く低収であるが,遅播栽培では同等の収量があり経済栽培が成り立つ.成熟期,草丈,倒伏程度と食味は「NARO-FE-1」と「春のいぶき」で同程度である.なお,品種名「NARO-FE-1」は,各地域等で育成したブランド名はそのままに品種を置換できる「地域農産物ブランド化における品種と商標との知財ミックス戦略」を想定し命名したものである.本品種は暖地,温暖地,北陸の春まきソバ栽培地域での普及が見込まれる.
著者
友岡 憲彦 根本 和洋 難波 成恵 KARKEE Ajay KARKI Sanjay SHRESTHA Deepa Singh GHIMIRE Krishna Hari JOSHI Bal Krishna PAUDEL Mina Nath
出版者
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
植物遺伝資源探索導入調査報告書 = Annual Report on Exploration and Introduction of Plant Genetic Resources (ISSN:24347485)
巻号頁・発行日
no.34, pp.193-214, 2019-03

本報告は農林水産省委託プロジェクト研究「海外植物遺伝資源の収集・提供強化」および国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)農業生物資源ジーンバンク事業の予算により実施され,農研機構・遺伝資源センターとネパール国立農業研究評議会との間で締結した共同研究協定に基づいて行われたネパール東部における豆類およびアマランサス遺伝資源の探索・収集に関わる調査報告書である.調査は,2018年2月14日~24日にかけてネパール東部のイラム県,パンチタール県,ダンクタ県において行った.探索は,チームA(トウガラシ属およびウリ科野菜)とチームB(豆類とアマランサス)に分かれて実施した.本報告は,チームBの報告(一部チームAの収集品を含む)である.探索の結果,10属(Amaranthus, Cariandrum, Cyclanthera, Glycine, Lablab, Macrotyloma, Perilla, Phaseolus, Solanum, Vigna),16種,91点の遺伝資源を収集し,収集品はネパール国立農業遺伝資源センターに保存した.
著者
上垣 隆一 川野 和男 大澤 玲 木村 俊之
出版者
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
農研機構研究報告 動物衛生研究部門 = Bulletin of the NARO, National Institute of Animal Health (ISSN:24327875)
巻号頁・発行日
no.124, pp.9-13, 2018-03-31

プラスチック樹脂製のパウチ袋をサイロにして飼料用米のサイレージ調製実験を行なった。破砕し水分を調整した籾米に乳酸菌を加えた後にパウチ袋に詰め,ヒートシール,ワニ口クリップ,ひもで縛る,結束バンドで縛るの4つの方法で封入口を密封した。室温で32 日間の貯蔵を行い,サイロ内の酸素濃度を非破壊で測定するとともに,サイレージの醗酵品質(pH,有機酸濃度,微生物数)を解析し,密封法との関連を検証した。サイロ内の酸素濃度は,すべてにおいて1 日後に0%になり,ヒートシール法ではサイロ内の酸素濃度は32 日間0%を維持した。その他の方法では5 日を経過する頃から酸素濃度が上昇が認められ,20 日前後には13-16%程度まで上昇した。サイレージの醗酵品質は,ヒートシール法が,低いpH の値(3.86)や乳酸濃度が高い値(1.21%)であること等から,サイレージ醗酵が良好に進行したと判断した。一方,その他の密封法の醗酵品質はpH が4-4.13,乳酸濃度が0.65-0.88%と劣質で,一部かびの発生も認められるなど,サイレージ醗酵は不良であった。以上より,ワニ口クリップ,ひもで縛る,結束バンド法の密封法はサイレージ調製には不向きで,ヒートシールのように,完全に密封させる方法が酸素の侵入を防ぎサイレージ発酵も促進させるサイロの密封法として適していると考えられる。
著者
井上 康宏 中保 一浩
出版者
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
農研機構研究報告 中央農業研究センター = Bulletin of the NARO, Agricultural Research for Central Region (ISSN:24328057)
巻号頁・発行日
no.7, pp.1-10, 2019-03-29

各種土壌消毒がどの程度の深さまで青枯病菌に対する殺菌効果を持つか調査を行った.クロルピクリンおよびダゾメットによる化学くん蒸では地下40㎝まで青枯病菌を殺菌したが,地下60 ㎝では効果が見られなかった.米ぬかを用いた還元消毒でも深い部分の青枯病菌に対する殺菌効果は低かった.一方で糖蜜やエタノールを用いた還元消毒では地下60 ㎝まで青枯病菌に対する高い殺菌効果が認められた.クロピクフローでは低温期の処理でも地下60㎝まで青枯病菌に対する殺菌効果が認められたが,深い部分ほど消毒効果が弱かった.どの消毒方法を採用するかは,土壌の汚染程度と共に,作型や経済性を考慮する必要がある.
著者
関島 建志 桐 博英 安瀬地 一作 木村 延明
出版者
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
農研機構研究報告. 農村工学研究部門 = Bulletin of the NARO (ISSN:24326674)
巻号頁・発行日
no.3, pp.119-125, 2019

既往最大雨量を記録するような豪雨が日本各地で多発する中,農業用排水機場が浸水し機能停止に陥る事例が発生している。農業用排水機場は農地排水を目的に計画されているが,都市化・混住化が進んだ地域では,排水機場の機能停止は住民の被災に直結する問題であり,耐水化による減災対策の重要性が増してきている。平成 30 年 5 月に改定された設計基準「ポンプ場」に耐水化対策が明記され,新設,更新施設では耐水化がなされることとなるが,既存の施設への対応は今後の課題である。本報では,排水機場の耐水化対策の現状及び先行した取組事例について調査を行った。農業用排水機場では,過去に浸水被害を被った地域,機場で対策が行われている。また,大規模津波で電気,水道が途絶した場合の対策を計画している事例がある。河川等類似施設では,都市部を中心に耐水化対策が進められている。
著者
甲斐 由美 境 哲文 片山 健二 熊谷 亨 石黒 浩二 中澤 芳則 山川 理 吉永 優
出版者
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
農研機構研究報告 九州沖縄農業研究センター = Bulletin of the NARO, Agricultural Research for Kyushu Okinawa Region (ISSN:24328103)
巻号頁・発行日
no.66, pp.87-119, 2017-03

「べにはるか」はいもの外観が優れる「九州121 号」を母,いもの皮色や食味が優れる「春こがね」を父とする交配組合せから選抜したサツマイモ新品種である。蒸しいもおよび焼きいもの糖度(ブリックス)が「高系14 号」より高く,食味が優れる。萌芽性は中,草型はやや匍匐型で,いもの皮色は赤紫,肉色は黄白,形状は紡錘形,いもの外観はやや上である。育成地におけるいもの収量は「高系14 号」を上回るが,試験地によっては,「高系14 号」並みあるいはやや劣る場合がある。掘取直後の蒸しいもの肉質はやや粉質であるが,貯蔵により粘質化しやすい。蒸切干(干しいも)の肉色は黄色で,食味はやや上~上と優れる。サツマイモネコブセンチュウに強く,ミナミネグサレセンチュウにやや強い。黒斑病抵抗性は中~やや弱であり,貯蔵性は易である。"Beniharuka" is a new sweetpotato cultivar for table use, developed at the KyushuOkinawa Agricultural Research Center. It was evaluated at prefectural agriculturalexperiment stations as breeding line "Kyushu No. 143" and was registered as a new variety in 2010."Beniharuka" is the progeny from a cross between "Kyushu No. 121" and "Harukogane" conducted at the Sweetpotato Breeding Laboratory in 1996. "Kyushu No. 121" is a cultivar for table use, especially suitable for baked root, while "Harukogane" is a cultivar for table use with good skin color and good taste. Starting from 278 seeds sown in the nursery, selection was carried out based on field performance, taste, and appearance of storage root."Beniharuka" exhibits moderate sprouting ability and a slightly prostrate plant type. The top leaves are light green. The mature leaves are green and cordate. The vine diameter is intermediate with a somewhat short internode length. Pigmentation by anthocyanin is pale in the veins and is very pale in the vine nodes. The storage roots are uniformly fusiform with reddish purple skin and cream flesh. The steamed root texture is slightly dry just after harvesting, but it becomes slightly moist after about one month storage and its taste becomes sweeter. Steamed and cured slices made from "Beniharuka" are yellow and taste good.The yielding ability of "Beniharuka" is comparable to that of "Kokei No. 14", a leading Japanese variety for table use. The dry matter content of "Beniharuka" is higher than that of "Kokei No. 14" ."Beniharuka" is intermediately resistant or slightly susceptible to black rot (Ceratocystis fimbriata), somewhat resistant to root lesion nematode (Pratylenchus coffeae), and resistant to root knot nematode(Meloidogyne incognita).The storage ability of the storage roots is sufficient throughout winter.
著者
松下 景 山口 誠之 三浦 清之 笹原 英樹 重宗 明子 長岡 一朗 後藤 明俊
出版者
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
農研機構研究報告 中央農業研究センター = Bulletin of the NARO, Agricultural Research for Central Region (ISSN:24328057)
巻号頁・発行日
no.3, pp.11-21, 2018-03-20

「あみちゃんまい」は「コシヒカリ」より早生で 日本型の高アミロース品種の育成を目的として「新潟79号(後の「こしのめんじまん」)」を母とし,「北陸191号」を父とする人工交配の後代から育成され,2013 年に品種登録出願された.「あみちゃんまい」は「あきたこまち」と比較し,出穂期,成熟期 は 1~2 日遅く,「コシヒカリ」よりも 1 週間以上早い収穫が可能である.その早晩性から,「あみちゃんまい」の栽培適地は東北南部以南である.稈長, 穂長は「あきたこまち」並で,穂数はより少ない. 精玄米重は「あきたこまち」並である.玄米千粒重は 22g 程度で,「あきたこまち」より 1g 程度軽く, 粒形は「あきたこまち」と同じ" 長円形" である.「あみちゃんまい」の精玄米重は「あきたこまち」並である.玄米外観品質は白未熟粒が多く「あきたこまち」より劣る.「あみちゃんまい」の炊飯米の食味は「トヨニシキ」よりも劣る.アミロース含有率が30%程度で,「ひとめぼれ」より14ポイントほど高いことから,「あみちゃんまい」は高い製麺適性をもつ.「あみちゃんまい」の葉いもち圃場抵抗性は" 中",穂いもち圃場抵抗性は" やや強" である. 白葉枯病抵抗性は" やや弱",縞葉枯病には" 罹病性",耐倒伏性は" やや強",障害型耐冷性は" 弱",穂発芽性は" 中" である.To increase rice noodle production, rice cultivars with high amylose content and a heading trait that differs from that of 'Koshihikari' are desirable. We developed an early maturing rice cultivar with high amylose content, which we named 'Amichanmai', from a cross between 'Niigata 79' (Koshinomenjiman), which produces slender grains with high amylose content, and a high-yielding line, 'Hokuriku 191'. In 2013, we applied to have this new cultivar officially registered by the Ministry of Agriculture, Forestry and Fishery. The heading and maturity dates of 'Amichanmai' are1 or 2 days later than those of 'Akitakomachi', and 'Amichanmai' rice can be harvested at least 1 week earlier than 'Koshihikari' rice. Moreover, 'Amichanmai' plants can grow in the southern region of Tohoku as well as the southern and western areas. A comparisonbetween 'Amichanmai' and 'Akitakomachi' plants revealed similar culm and panicle lengths, but fewer 'Amichanmai' panicles. The 'Amichanmai' 1000-grain weight is almost 22 g, which is approximately 1 g less than that of 'Akitakomachi', but there are no major differences in grain yields. Additionally, the semi- round 'Amichanmai' rice grain varies from the shape of the parent 'Niigata 79' grain, but is the same as the shape of the dominant Japanese cultivars. However, the appearance of 'Amichanmai' grains is considered inferior to that of 'Akitakomachi' grains. Furthermore, the amylose content of 'Amichanmai' rice is almost 30%, which is 14% higher than that of 'Akitakomachi' rice. Therefore, 'Amichanmai' rice may be suitable for producing rice noodles.
著者
進藤 久美子 八戸 真弓 濱松 潮香
出版者
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
農研機構研究報告 食品研究部門 = Bulletin of the NARO, Food Research (ISSN:24327891)
巻号頁・発行日
no.1, pp.95-103, 2017-03

天然に存在する安定Srも、人工的に生成する放射性核種90Srも、化学的性質はほぼ変わらないことから、定量操作が煩雑で時間もかかる90Srの代わりに、安定Srを定量し、90Srの挙動を推察した。日本食品標準成分表で「うどん・そうめん類」と「中華めん類」と分類されているめん類の市販品計24品のゆで調理(ゆで→湯切り→水冷→水切り)を対象としたところ,安定Srのゆでめんの残存割合Frは,うどん・そうめん類で平均0.65(0.51-0.75),中華めん類では平均0.97(0.95-1.00)であった。目的とする放射性核種と同じような挙動をする主要元素があれば,目安として代用できる可能性があるとされている点では,安定Srのゆでめんの残存割合FrはCaに近く,うどん・そうめん類および中華めん類において90Srの代わりに指標として利用する主要元素としては,Caが良いと判断された。Amount of stable strontium during noodle cooking was investigated to estimate the dynamics of radioactive strontium (90Sr) in prepared food. A total of 24 kind of Japanese noodles ("Udon", "Somen" and "Hiyamugi") and Chinese noodles (yellow alkaline noodles including Okinawa noodles) in the marketplace were boiled and water cooled, then broth, rinsing water and boiled noodles were obtained. Food processing retention factor (Fr, ratio of amount in boiled noodles to uncooked one) of stable strontium were 0.65 (0.51-0.75) for Japanese noodles and 0.97 (0.95-1.00) for Chinese noodles, respectively. Main inorganic elements were also determined to evaluate possible association between radioactive strontium and each element. Fr of stable strontium was most similar to calcium's.