著者
賀来 康一
出版者
Japanese Society of Animal Science
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.61-81, 1997-01-25
被引用文献数
15 2

米国シカゴ•マーカンタイル取引所(以下CME)に上場された肉牛先物取引による,肉牛生産者•牛肉処理業者の価格リスク管理の実証分析を実施した.(1) 1984年1月4日から1994年12月31日までの,毎日の価格データにより,CMEに上場された,Live Cattle(生牛),Feeder Cattle(肥育素牛),Live Hog(生豚),Frozen Pork Bellies(冷凍豚バラ肉)相互の関係を調べた.期間11年間を通算した相関係数の高い組み合わせは,Live CattleとFeeder Cattleの0.89であり,Live HogとFrozen Pork Belliesの0.57であった.しかし,1年毎に調べると,全ての組み合わせが不安定であった.(2) 1984年から1993年までの週間データを使用して,米国の肉牛と牛肉60種類に関し,現物価格の変動の大きさとbasis(ベーシス)の価格変動の大きさを比較した.Live Cattle当限価格との相関が高いほど,現物価格の標準偏差は,basisの標準偏差よりも大きかった.当限価格との相関係数0.22以下の3種類の内臓肉を除いた残り57種類の場合,現物価格の価格変動リスクをbasisの価格変動リスクへ移転した方がリスクが小さくなった.(3) 米国商品先物取引委員会(CFTC)の報告書に基づき,米国の肉牛先物市場の主たる参加者を分類した.米国CMEの肉牛先物市場は,投機の場というよりもヘッジの場としての性格が強く,米国の肉牛生産者として大きな役割を果たしている寡占化したパッカーと大規模化した肥育業者の,価格変動リスクをヘッジする場として活用されている.(4) 1990年1月2日から1995年10月11日までの,肉牛現物と当限価格との相関係数を計算した.全期間を通じた相関係数は0.94と高く,1年毎の相関係数も各々高かった.期間中の変動係数を比較すると,現物価格の変動が最も激しく,当限価格の変動は現物価格よりも小さく,期先価格の変動は最も小さかった.1990年から1995年10月11日迄,肉牛先物価格は現物価格に対して価格平準化機能を果たしていた.(5) 東京穀物商品取引所は,オーストラリア産グラスフェッド牛肉の,先物市場への上場を研究している.そこで,日本における牛肉先物取引の可能性を検討した.
著者
賀来 康一
出版者
Japanese Society of Animal Science
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.10, pp.977-982, 1997-10-25
参考文献数
5
被引用文献数
10 2

鶏肉国内流通が国産ブロイラー正肉(もも肉とむね肉)価格(以下,価格)形成に及ぼす影響を検討した.'73年~'94年の,国内流通鶏肉に関し,流通形態別国産鶏肉と輸入鶏肉の内訳•総流通量•構成比率の変化を計算した.'88年~'94年の,価格の年間平均値と価格差を計算した.鶏肉輸入増が,価格へ及ぼす影響を検討した.(1)'87年~'94年の,国産鶏肉流通量減少の理由は,鶏肉輸入増である(P<0.01).(2)'73年~'94年に,国内流通に占める国産鶏肉屠体•中ぬき,解体品,輸入鶏肉の比率は,59.3,37.3,3.4%から8.9,59.7,31.4%へ変化した.(3)'88年から'94年に,もも肉価格は上昇,むね肉価格は下落し,価格差は拡大した.(4)価格差拡大の原因は,鶏肉輸入増(P<0.01),主に正肉の輸入増(P<0.01),タイと中国からの輸入増(P<0.05)であった.(5)鶏肉輸入増は,国産ブロイラーむね肉価格への影響が大きい.
著者
賀来 康一
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.61-81, 1997-01-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
37
被引用文献数
2 2

米国シカゴ•マーカンタイル取引所(以下CME)に上場された肉牛先物取引による,肉牛生産者•牛肉処理業者の価格リスク管理の実証分析を実施した.(1) 1984年1月4日から1994年12月31日までの,毎日の価格データにより,CMEに上場された,Live Cattle(生牛),Feeder Cattle(肥育素牛),Live Hog(生豚),Frozen Pork Bellies(冷凍豚バラ肉)相互の関係を調べた.期間11年間を通算した相関係数の高い組み合わせは,Live CattleとFeeder Cattleの0.89であり,Live HogとFrozen Pork Belliesの0.57であった.しかし,1年毎に調べると,全ての組み合わせが不安定であった.(2) 1984年から1993年までの週間データを使用して,米国の肉牛と牛肉60種類に関し,現物価格の変動の大きさとbasis(ベーシス)の価格変動の大きさを比較した.Live Cattle当限価格との相関が高いほど,現物価格の標準偏差は,basisの標準偏差よりも大きかった.当限価格との相関係数0.22以下の3種類の内臓肉を除いた残り57種類の場合,現物価格の価格変動リスクをbasisの価格変動リスクへ移転した方がリスクが小さくなった.(3) 米国商品先物取引委員会(CFTC)の報告書に基づき,米国の肉牛先物市場の主たる参加者を分類した.米国CMEの肉牛先物市場は,投機の場というよりもヘッジの場としての性格が強く,米国の肉牛生産者として大きな役割を果たしている寡占化したパッカーと大規模化した肥育業者の,価格変動リスクをヘッジする場として活用されている.(4) 1990年1月2日から1995年10月11日までの,肉牛現物と当限価格との相関係数を計算した.全期間を通じた相関係数は0.94と高く,1年毎の相関係数も各々高かった.期間中の変動係数を比較すると,現物価格の変動が最も激しく,当限価格の変動は現物価格よりも小さく,期先価格の変動は最も小さかった.1990年から1995年10月11日迄,肉牛先物価格は現物価格に対して価格平準化機能を果たしていた.(5) 東京穀物商品取引所は,オーストラリア産グラスフェッド牛肉の,先物市場への上場を研究している.そこで,日本における牛肉先物取引の可能性を検討した.
著者
賀来 康一
出版者
Japanese Society of Animal Science
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.7, pp.618-629, 1995-07-25
被引用文献数
14 2

畜産生産者の,現在設立の準備が進行している国内鶏卵•豚肉先物市場活用に関する検討を実施した.1993年現在,飼養頭羽数について採卵場の約60%,豚の約35%が農家以外の生産者によって飼養され,鶏卵•豚肉に関する生産主体は,農家から企業への移行過程にあり,生産者がヘッジャー(リスク削減の手段を取る人)として先物市場を活用する前提条件を満たしつつある.本稿ではまず,1983年から1993年までのシカゴ•マーカンタイル取引所(CME)上場畜産物先物3商品(Live Hog,Frozen Pork Bellies, Feeder Cattle)および1988年から1993年までの国内先物市場上場10商品(小豆,米国産大豆,トウモロコシ,粗糖,乾繭,生糸,金,銀,白金,ゴム),さらに「農村物価賃金統計」による国内豚肉(肥育豚生体10kg)•鶏卵(M1級,10kg)の値動きデータを使用して,期間1年,6ヵ月,1ヵ月の価格に関する変化率を比較した.その結果,鶏卵•豚肉の価格変化率は他の先物商品と比較して,ヘッジ(リスクを他へ移転すること)を必要とする水準にあることが明らかとなった.国内先物市場上場10商品の,順ザヤ(当限価格よりも期先価格が高い状態)または同ザヤ(当限価格と期先価格が等しい状態)期間の調査期間に占める比率と,発会ごとに売買最低単位である1枚を売り,納会ごとに売り契約を乗り換えるRoll hedge(生産者にとって,長期間にわたる大量の生産物の販売価格を,満期が個々に異なる一連の先物契約を利用してヘッジする方法)による損益の関係はr2=0.6200 (rは相関係数)であり,相関が有意に認められた(p<0.01).同様にCME畜産上場3商品のRoll hedgeとの関係もr2=0.9999となり有意な相関が認あられた(p<0.01).先物商品のうちStrorables(在庫可能商品)は順ザヤまたは同ザヤ期間が逆ザヤ(当限価格が期先価格よりも高い状態)期間よりも長い商品が多く,順ザヤまたは同ザヤ期間が長いほど売り方が有利であることが明らかとなった.また,国内先物市場10商品に関するRoll hedgeによる損益と実施年数から,Storablesに関する長期間のRoll hedgeは有利である傾向が示唆された.いっぽう,Nonstorables(在庫不能商品)は,逆ザヤ期間が長く,長期間のRoll hedgeは不利である傾向が示唆された.現在検討中の畜産物価格指数はNonstorablesと考えられるので,畜産生産者が先物市場を経営の安定化を目的として活用するには,売りヘッジを生産畜産物の範囲内にとどめ,ヘッジャーとして生産物の売却価格の将来的な固定を図るべきであり,オーバーヘッジ(生産者にとって,生産販売予定量以上を先物市場において売り約定すること)はリスクが大きい.いっぽう,畜産物先物市場を収益拡大の場として活用するにはストラドル(1つの先物契約を購入すると同時に,もう1つの先物契約を売却し,その価格の連関の変化から利益を得ようとする取引)等の技術が必要となる.
著者
實示戸 雅之 池口 厚男 神山 和則 島田 和宏 荻野 暁史 三島 慎一郎 賀来 康一
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.467-474, 2003-08-05
被引用文献数
23

耕地土壌表面における窒素収支を,投入窒素量と収奪量の差から求めた土壌残存窒素が余剰降水量に全量溶けたと仮定する年間平均溶脱水窒素濃度推定値を用い,都道府県別に評価した.その結果,以下のことが示された.1.年間亜平均溶脱水窒素濃度推定値の全国平均は7.8mg NL^<-1>,北海道を除く府県平均で8.8mg NL^<-1>,北海道で2.9mg NL^<-1>である.都道府県間のばらつきが大きく,30mg NL^<-1>を超えるなど極端に高い県と,値がマイナスを示す県とに分かれた.2.溶脱水窒素濃度推定値が高い府県では家畜ふん尿窒素負荷が高い場合が多い一方で,これらを含む多くの県において化学肥料窒素施用量のみでは溶脱水窒素濃度推定値を説明できなかった.3.現状の化学肥料窒素施用量の3割を削減することで,平均溶脱水窒素濃度推定値の全国平均が7.8→5.4mg NL^<-1>(-31%)に,府県では8.8→6.3mg NL^<-1>(-38%)に低下した.4.高度処理が可能なふん尿について窒素成分を除去し系外に排出する効果はそれほど大きくないが,これは前提となる処理可能量自体の問題と思われる.5.すべての休耕地を利用することにより,溶脱水窒素濃度推定値が全国平均で7.8→5.9mg NL^<-1>(-24%),府県平均では8.8→6.6mg NL^<-1>(-25%)と大きな削減効果が,さらに化学肥料削減の併用でさらに大きな効果が推定された.6.ただし今回の試算は,都道府県単位としたこと,年間平均溶脱水窒素濃度の性格,アンモニア揮散を窒素負荷減少要因と見なしたことなど,重要な精度低下要因が内包されており,改善の余地が残されている.