著者
三浦 光彦
出版者
北海道大学大学院文学院
雑誌
研究論集 (ISSN:24352799)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.179-195, 2022-01-31

ロベール・ブレッソンは,自身の映画に素人俳優のみを起用し,一切の感情移入を廃した独特な演技指導を行ったことで知られている。ブレッソンは自身の演技への理念を『シネマトグラフ覚書』と題される書物に纏めている。本稿では,ブレッソンの演技論を,ジャンセニスムとシュルレアリスムという宗教的,美学的なコンテクストから考究することによって,ブレッソンの演技論において作動しているメカニズムを解明することを目標とする。まず,第一節では,ブレッソンとジャンセニスム,及び,シュルレアリスムの関係を論じた先行研究を概観していく。第二節では,映画研究者レイモン・ベルールが『映画の身体:催眠,情動,動物性』と題された書物の中で論じた,催眠と映画の歴史的な関わり合いに関する議論を参照しつつ,ジャンセニスムとシュルレアリスムにおける「痙攣」という概念を追っていく。続く,第三節では,ベルールが引用する神経学者ダニエル・スターンによる「生気情動」という概念と,それを軸にジャン・ルノワールの映画における演技を論じた角井誠の研究を参照しつつ,この「痙攣」というものがどのように生み出されるのかを考究していく。そして,第四節では,「痙攣」に纏わる膨大な歴史がどのようにブレッソンの演技論へと集約されていき,それがブレッソンの映画においてどのようなメカニズムで作動しているのかを確認する。第五節では,第四節まで論じてきたものを土台としながら,男性のモデルと女性のモデルとでは,演技表現に差異が見られることを確認したうえで,幾つかの作品に即して,そのような差異が何故生じるのかを探っていく。ブレッソンは長らく作家主義的な映画監督,つまり,作品に対して強いコントロールを有する作家だと考えられてきたが,本稿では,モデルの身体へと焦点を当てることによって,そこに刻印された作家性の揺らぎを読み取っていく。
著者
三浦 光彦
出版者
日本映像学会
雑誌
映像学 (ISSN:02860279)
巻号頁・発行日
vol.109, pp.27-48, 2023-02-25 (Released:2023-03-25)
参考文献数
25

本稿では、ロベール・ブレッソンの1951年の作品『田舎司祭の日記』に関して、物語論と演技論の観点から分析を行う。『田舎司祭の日記』において物語がどのように語られているか、物語と演技がいかに結びついているかを精査した上で、テクスト外の現実の作者であるブレッソンとテクスト内の語り手とがどのような関係を結んでいるのかを明らかにすることが本稿の目的である。まず、テクスト外の現実がテクスト内のフィクションに作用する次元を物語論的観点から論じているエドワード・ブラニガンの理論の有用性を示した上で、映画公開当時、ブレッソンがどのような社会的・歴史的状況に置かれていたかを概観し、それが物語理解にいかに作用するかを考究する。次いで、一見、司祭の一人称による語りに見えるこの映画が実際には、司祭とは別のもう一人の語り手を想定する必要があること、そして、司祭による語りと別の語り手による語りが混同していることを、テクスト分析を通じて明らかにする。その上で、こうした語りの構造が映画における役者たちの発声の仕方と結びついていること、さらに、演技指導を通じてブレッソンという現実の作者がテクスト内の語り手に限りなく接近していることを詳らかにする。最終的に、ブレッソンという現実の作者が『田舎司祭の日記』において、「不可視の語り手」としてあたかも映画全体を語っているかのようにテクスト全体を構造化していると結論づける。
著者
鈴木 庄亮 ROBERTS R.E. LEE Eun Sul. ORLANDAR Phi 町山 幸輝 BLACK Thomas 小林 功 山中 英寿 BUJA Maximil SHERWOOD Gue 倉茂 達徳 土屋 純 BURKS T.F. 伊藤 漸 BUTLER Patri 中島 孝 石川 春律 SHERWOOD Gwendolyn BURKS F.thomas THOMAS Burks 森下 靖雄 ROBERTS R. E 鈴木 守 LEE Eun Sul 古屋 健 JUDITH Crave RONALD C. Me GUENDOLYN Sh 大野 絢子 GEORGE Stanc 城所 良明 近藤 洋一 PAUL Darling 三浦 光彦 村田 和彦
出版者
群馬大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

平成5年度に、医学教育全般、基礎医学、看護教育、大学院教育及び病院管理を中心に相互の調査研究を実施した。これをうけて平成6年度は臨床医学教育、臨床病理・検査医学、教育技法を中心に相互訪問し、資料作成提供、説明とヒアリング、見学と討論及びセミナー開催を行なった。(1)日本側大学: 群馬大学及びその医学部、生体調節研究所(前内分泌研究所)、及び医療短期大学部。研究分担者は各部局の長および医学部教務担当教授、内科、外科、臨床病理の教授。(2)相手校: 州立サキサス大学健康科学センターヒューストン校(H校と略す)およびその医学部、公衆衛生学部、看護学部、医療技術学部、及び生物医学大学院。研究分担者は教務担当副医学部長を代表として各部局の教務関係教官。(3)渡米した教官: 中島孝(医学部教務担当、病理学)、小林功(内科学、臨床検査医学、団長)、山中英寿(外科学)、及び倉茂達徳(医短、臨床病理学)の4教授。(4)訪日した教官: 教務担当副医学部長PMバトラ-女史(医、小児精神医学、団長)、Mブヤ(医、病理学主任教授兼医療技術学部教授教授)、PMオルランダー(内科学)、及びCTブラック(外科学)の4教官。(5)研究分担者会議を日米7回開催し、研究の概要説明、研究計画実施手順、資料収集、研究討論、などを行った。(6)前年度のサキサス大学訪日団の報告書の修正、入力、整理、翻訳を行い学内関係者に回覧し、意見を求めた。(7)渡米・訪日期日: それぞれ、6月6-13日と10月22-29日。(8)渡米団の活動: 前年度訪日したH校副学長、医学部長から歓迎の意を表された。目的とする卒前卒後の臨床医学教育訓練を中心テーマとして、予定されたプログラムにそって、資料提供、説明、見学、討論が行われた。すなわち、ヒューストン校の概要、医学部カリキュラム、医学部卒後教育、臨床病理学教育及び施設、学習資源センター、医学総合図書館、教育関連病院、学生相談システム、学生評価、教官採用評価昇進等について見学と討論が行われた。(9)訪日団の活動: 日本の医学教育及び群馬大学医学部における卒前卒後の医学教育訓練について、内科外科臨床教育を中心に各研究分担者が用意した資料にもとづいて説明し、討論した。附属病院内科外科外来病室及び臨床病理中央検査部で詳細な現地見学聴取討論をし、卒後臨床教育の観点から学外の大学関連病院および開業医2ヵ所を見学した。医学教育セミナーを開催し、H校の4教官がそれぞれの立場から具体的な医学教育の方法、内科診断学教育、一般外科の実習、臨床病理学の教育、問題解決型学習および標準患者による臨床実習の方法について説明と話題提供をした。(10)報告会と報告書: 渡米した4教授による調査研究の公開報告会を7月12日に開催し、報告書の提出を得た。今年度訪日した4教官の報告書入手中。(11)本事業の意義について: 双方の教官は、相互訪問し各自の医学教育システムを最大限わかってもらえるよう努めた。相互訪問で視察と討論を行うことにより相互の文化的背景にまで及ぶほど理解が深まった。とくに西欧社会はこれまでわざわざアジアを理解しようとすることは少なかったので、テキサス大学教官にとっては国際理解のいい機会になった。米教官の一人はこのような試みに研究費を出す日本政府は米政府より将来優位に立つかもしれないと述べた。(12)日本にない米医学教育システムの特色: 入学者選抜は約15倍の学士である志願者に対して1.5時間におよぶ面接口頭試問を含む、PhD教官による基礎科学と医師による臨床医学の接続がうまくいかない、カリでは行動科学・プライマリケアが重視されている、問題解決型学習が定着している、カリにゆとりがあり積極的な自己学習を期待している、標準患者による具体的で実際的な診断学教育が行われている、学生当たりの教官の数が5割程度多い、卒後医学教育が「医局」でなく一定のプログラムの下に行われ専門医等の資格に至るようになっている、臨床検査技師教育はより専門分化している、等である。