著者
三浦 哲司 Satoshi Miura
出版者
同志社大学政策学会
雑誌
同志社政策科学研究 = Doshisha University policy & management review (ISSN:18808336)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.63-76, 2011-09-10

本稿では東京都中野区の「地域センター及び住区協議会構想」に焦点を当て、主に「構想の概要の確認」「構想の実践の把握」「構想廃止過程・要因の整理」という3つの作業に取り組む。というのも、平成の大合併が終息した今日では、大都市で都市内分権や地域自治組織のしくみが要請されている状況にあり、先行事例である中野区について分析することで、他都市で何らかのしくみを導入し運営するうえでの留意点が導き出されると考えるからである。もっとも、本稿のねらいは、先の3つの作業によって今後の研究の足がかりを確立することにあり、独自の視座からの分析ができているわけではない。ともあれ、本稿が扱う中野区の「地域センター及び住区協議会構想」とは、区内に15住区を設定し、それぞれに「地域センター」と「住区協議会」を置いて、双方が連携して地域自治の活性化を進めるという内容であった。そして、この枠組みを通じ、なかには熱心に活動する住区協議会もみられた。しかし、その後に区行政当局の対応や協議会委員の固定化などで問題が生じ、構想自体が2006年1月に廃止されてしまったのである。こうした動向をふまえつつ、今後の研究においては特定の住区を対象として、時系列的な分析や最新の実態分析を行う必要がある。あるいは、住区協議会が廃止された住区と、廃止されずに継続している住区とを取り上げて、双方を比較するといった作業も欠くことができない。このように中野区の「地域センター及び住区協議会構想」についてさらなる研究を進めることにより、都市内分権や地域自治組織を導入し運営する他の大都市にとっての留意点が提示できよう。
著者
三浦 哲司
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.1-18, 2014-07-31

わが国の大都市では現在、小学校区や中学校区において、地縁団体関係者とともに市民活動団体関係者が参加する地域住民協議会の設立が進んでいる。大阪市でも2012年度から、本格的に市内全域で大阪市版の地域住民協議会である「地域活動協議会」の設立を進めてきた。しかし、性急な協議会設立のうごきに対して地域の側の理解が深まっておらず、大半の協議会が試行錯誤している状況にある。そのようななかで、鶴見区の緑地域活動協議会は自主財源を確保しながら多面的な活動を実践している。そこで、この協議会について検証したところ、1)協議会設立以前からの地域活動の蓄積が協議会活動のあり方を左右する、2)活動の持続性向上には自主財源の確保が求められる、3)必要に応じた外部主体との連携が地域住民協議会にとって有効となる場合もある、という示唆を抽出することができた。今後の研究では、他事例との一致比較や差異比較を視野に入れながら、引き続き協議会活動の活性化要因の解明を進めていきたい。
著者
三浦 哲司
出版者
同志社大学
雑誌
同志社政策科学研究 (ISSN:18808336)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.33-46, 2010-09

研究ノート(Note)大阪市でも全国的なながれと同様に、1935年から選挙粛正運動が展開された。端的にいうと、この運動は1935年から1942年までの7年間に、全国各地で展開された一連の選挙浄化運動のことである。そして、本稿は大阪市のなかでも北区を事例として取り上げ、1937年6月の市議会議員選挙の際の運動展開について検討する。そこで、本稿ではとりわけ、従来の先行研究が選挙粛正運動の際の部落懇談会の重要性を説いてきた点をかんがみ、大阪市における町内懇談会(大阪市では部落懇談会に相当する会合がこのように呼ばれた)に着目して検討を進めていく。そして、北区都島第一学区の都島本通1丁目および2丁目で開催された町内懇談会の検証により、全国各地で開かれた部落懇談会の開催方式とは異なる大阪市の特徴を把握することができるのである。すなわち、一般的な事例と比較すると、大阪市の場合には町内懇談会に参加する有権者の割合が極端に低いことに加えて、有権者にまでその成果が浸透するまでには多くの階層を経なければならないという「間接型懇談会方式」を採用せざるを得なかったのだった。これは、当時の大阪市内の有権者数の多さをかんがみるならば彼らすべてを町内懇談会に参加させるのは非現実的であり、自ずと参加対象者が限定されていたことに由来する。もっとも、本稿における検討では、地域社会のアクターとして中心的に取り上げたのは町内会であり、また当時の大都市のなかでも大阪市のみを扱っているにすぎない。そのため、今後は地域社会のなかで選挙粛正運動の展開を支えた他の団体のうごきを検証するとともに、他の大都市でも「間接型懇談会方式」が採られていたのか否かを検証していきたい。