- 著者
-
三浦 郁夫
- 出版者
- 広島大学
- 雑誌
- 新学術領域研究(研究領域提案型)
- 巻号頁・発行日
- 2011-04-01
生殖腺の性差構築の遺伝的仕組みには、動物間で著しい多様性が存在する。本研究は、性決定様式(XY型とZW型)、性染色体の分化、性ホルモンに対する感受性において、地域集団で多様性を示すツチガエルを用いて、生殖腺における性分化関連遺伝子の時間・空間的発現プロフィールを比較解析し、生殖腺の性差構築における多様性と普遍性の分子基盤の解明を目的として行った。昨年度、ZW雌の生殖腺では、Cyp19遺伝子の発現が性ホルモン処理でも変化しないことから、その高発現の維持が性転換に抵抗性を示す仕組みの一つと予想された。そこで、本年度は、Cyp19遺伝子の制御遺伝子候補として、未分化生殖腺でCyp19の雌雄差発現開始より早い時期に雌雄差発現を示す性連鎖遺伝子Sox3遺伝子の機能解析を行った。Sox3コンストラクトを受精卵に導入したF0の2個体からF1を作成して、生殖腺の表現型と遺伝子発現を調べた。その結果、Sox3が導入されたZZ幼生(受精後30日)の生殖腺は精巣構造を維持していたが、本来、卵巣で高い発現を示すFoxl2遺伝子の発現が有意に上昇した。さらに、変態後にはZZ個体においてCyp19の発現の上昇と精母細胞の欠如が観察された。同様の実験について、XY幼生(30日)で調べたところ、Foxl2に加え、Cyp19も有意に上昇し、20個体中1個体では卵巣様の構造も観察された。一方、Sox3遺伝子の翻訳を阻害するMorpholinoを作成し、受精卵に導入したところ、13個体のZW幼生(30日)のうち、5個体では精巣構造が観察された。ただし、生殖腺特異的遺伝子の発現に変化は見られたなかった。以上の結果は、ZW集団では性連鎖遺伝子Sox3がCyp19やFoxl2遺伝子の発現制御を通じて卵巣分化を誘導しており、その構成的発現が性ホルモンに対する生殖腺性分化の感受性に影響していることが示唆された。