著者
三澤 日出巳 森﨑 祐太
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.152, no.2, pp.64-69, 2018 (Released:2018-08-10)
参考文献数
16
被引用文献数
1

筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)は,大脳皮質運動野の上位運動ニューロンおよび脳幹と脊髄の下位運動ニューロンが選択的かつ系統的に障害される進行性の神経変性疾患である.ALSで障害されるα運動ニューロンは,構成する運動単位からFF(fast-twitch fatigable),FR(fast-twitch fatigue-resistant),S(slow-twitch)と3つのサブタイプに分類され,FF,FR,S型α運動ニューロンの順番で変性が生じる.近年,マトリクスメタロプロテアーゼ9(MMP9)がFF型α運動ニューロンに発現し,変性誘導に関与することが報告された.我々は,細胞外マトリクス(ECM)タンパク質であるオステオポンチン(OPN)が,MMP9とは異なるFR及びS型α運動ニューロンに発現することを発見し,OPNがALSの運動ニューロン変性に与える影響について検討した.ALSモデルマウス(SOD1G93Aマウス)脊髄中のOPNの局在を検討したところ,OPNは病態進行に伴い細胞外に放出され,ECMで粒子状構造物として観察された.またALS発症期の前後において,野生型マウスでは殆ど認められないOPN/MMP9共陽性の運動ニューロンが認められた.この共陽性の運動ニューロンは,FF型α運動ニューロンの変性(変性第1波)の後に代償的にリモデリングしたFR/S型α運動ニューロンであることを発見し,小胞体ストレスマーカーやOPN受容体であるαvβ3インテグリンの発現が認められたことから,ALS病態進行における運動ニューロン変性第2波の機序に,OPNによるインテグリンを介したMMP9活性化の関与が示唆された.またOPN欠損SOD1G93Aマウスは発症の遅延及び寿命の短縮を示し,OPNはALSの病態進行に対して2面性の性質を持つ可能性が示唆された.すなわち,OPNはALSの発症を規定する運動ニューロンに対しては障害的に,ALSの進行を規定するグリア細胞には保護的に作用する可能性が考えられた.以上より,我々はALSの第2波の運動ニューロン変性の機序としてOPN-インテグリン-MMP9系を新たに見出した.
著者
山中 宏二 小峯 起 高橋 英機 三澤 日出巳 内匠 透 錫村 明生 竹内 英之 高橋 良輔 山下 博史 遠藤 史人 渡邊 征爾
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

筋萎縮性側索硬化症(ALS)のモデルマウスを用いて、グリア細胞の一種であるアストロサイトの異常に着目して研究を行った。ALS患者・マウスのアストロサイトでは、サイトカインTGF-β1が異常に増加し、グリア細胞による神経保護環境を阻害することにより、病態を加速していることが判明した。TGF-β1の阻害剤投与により、ALSマウスの生存期間が延長したことから、TGF-β1はALSの治療標的として有望であると考えられた。また、ALSマウスの病巣では異常に活性化したアストロサイトが見られ、その除去機構として、自然免疫分子であるTRIFが関与するアポトーシスが関与していることを見出した。