著者
野村 淳 内匠 透
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.48-52, 2022 (Released:2022-06-25)
参考文献数
14

生物学における一細胞レゾリューションの解析は「single‐cell RNA‐sequence(scRNA‐seq)」によるゲノムワイドな転写産物解析に始まり,「ATAC‐seq」によるクロマチン構造(アクセシビリティー)解析,「CITE‐seq」による細胞膜(表面)タンパク質の解析,組織切片を対象とした空間情報を保持した遺伝子発現解析,さらにこれらを応用した技術にまで拡がりをみせている。現在,3D脳オルガノイド等を組み合わせることにより多面的な解析が可能となり,導出された出力データの統合により生物学的理解は急速に進んでいる。実際,神経精神疾患分野においても複雑な疾患表現型を説明しうる細胞種特異的メカニズムが次々と提案されている。本稿では,神経精神系疾患におけるシングルセル解析の見地から,社会性の喪失をコアドメインとする自閉スペクトラム症(自閉症),そして呼吸器系疾患でありながら一部患者に神経精神疾患表現型が認められる新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)について,最新の知見を紹介する。
著者
内匠 透
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.91-94, 2011 (Released:2014-12-25)
参考文献数
14

ヒト染色体15q11-13重複は自閉症の細胞遺伝的異常として最も頻度の高いものである. 染色体工学的手法を用いて, 我々は同相同領域を重複させたマウスを作製することに成功した. 本マウスは, 社会的相互作用の障害, 超音波啼鳴数の発達異常, 固執的常同様行動等, 自閉症様行動を示した. また, 発達期には脳内セロトニン異常を呈した. 本マウスは, 表現型妥当性だけでなく, 自閉症の原因である染色体異常をヒトと同じ型で有する構成的妥当性をも充たすヒト型モデルマウスである. 本マウスにより, 自閉症を含む発達障害の分子病態解明だけでなく, 新たな診断, 治療, 予防法の確立にも有効なマウスとして, 小児神経学領域における発展が期待される.
著者
新本 啓人 野村 淳 内匠 透
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.81-85, 2015 (Released:2017-02-16)
参考文献数
15
被引用文献数
1

自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)は社会性の異常を呈する小児の精神疾患である。ASD は精神疾患の中ではもっとも遺伝的関与の高い疾患と考えられている。昨今のゲノム科学の進歩により,ASD を含む精神疾患の原因としてコピー数多型(copy number variation:CNV)が注目されている。ヒト染色体 15q11─ q13 重複モデルマウスは,CNV を有する ASD のマウスモデルとして開発された自閉症ヒト型モデルマウスである。今日さまざまな自閉症モデルマウスが存在しており,複数のモデルマウスを同じプラットフォームで解析することは重要なアプローチである。またCRISPR/Cas9 に代表されるゲノム編集技術の進歩により,さらなるモデル動物の開発が期待される。
著者
山中 宏二 小峯 起 高橋 英機 三澤 日出巳 内匠 透 錫村 明生 竹内 英之 高橋 良輔 山下 博史 遠藤 史人 渡邊 征爾
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

筋萎縮性側索硬化症(ALS)のモデルマウスを用いて、グリア細胞の一種であるアストロサイトの異常に着目して研究を行った。ALS患者・マウスのアストロサイトでは、サイトカインTGF-β1が異常に増加し、グリア細胞による神経保護環境を阻害することにより、病態を加速していることが判明した。TGF-β1の阻害剤投与により、ALSマウスの生存期間が延長したことから、TGF-β1はALSの治療標的として有望であると考えられた。また、ALSマウスの病巣では異常に活性化したアストロサイトが見られ、その除去機構として、自然免疫分子であるTRIFが関与するアポトーシスが関与していることを見出した。