著者
藤井 智巳 菅原 準二 桑原 聡 萬代 弘毅 三谷 英夫 川村 仁
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:0021454X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.227-233, 1995-08
被引用文献数
15

外科的矯正治療が反対咬合者の顎口腔機能, 特に咀嚼リズムに及ぼす長期的効果について横断的に評価した.研究対象は, 初診時に外科的矯正治療を要する反対咬合者と診断され, 治療後5年以上経過した28症例(術後群)である.対照群として, 未治療反対咬合者23例(術前群)と正常咬合者22例(正常咬合群)を用いた.なお術後群については手術法による差異を知るために, 下顎単独移動術を適用した13例(One-Jaw群)と, 上・下顎同時移動術を適用した15例(Two-Jaw群)とに区分した評価も行った.咀嚼リズムは下顎運動測定装置(シロナソグラフ・アナライジングシステムII)を用いて測定した.本研究の結果は以下のとおりであった.1. 術後群の開口相時間, 閉口相時間, 咬合相時間, 咀嚼周期は, いずれも術前群および正常咬合群との間に差が認められなかった.2. 術後群の咀嚼周期の変動係数は術前群と比べ小さい値を示し, より安定した咀嚼リズムを示していた.また術後群の開口相時間, 閉口相時間, 咬合相時間, 咀嚼周期の変動係数はいずれも正常咬合群との間に差が認められなかった.3. One-Jaw群とTwo-Jaw群とも咀嚼リズムはほぼ同様の値を示し, 術式や外科的侵襲の程度による差異は認められなかった.本研究の結果から, 外科的矯正治療による顎顔面形態の改善と咬合の再構成が, 長期的術後評価において, 咀嚼リズムの安定化に寄与していることが示唆された.
著者
遠藤 教昭 菅原 準二 三谷 英夫
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
Orthodontic waves : journal of the Japanese Orthodontic Society : 日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:13440241)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.105-115, 1999
被引用文献数
3

本研究の目的は, 骨格型下顎前突症における垂直的顔面骨格パターンと脳頭蓋形態との間に関連性があるかどうか, すなわち, Short face群とLong face群の脳頭蓋形態に差異が認められるかについて検討することである.研究対象は, 未治療女子骨格型下顎前突者398名(暦齢6歳0カ月∿27歳1カ月)で, 暦齢によって, 7歳, 9歳, 11歳, 成人群の4つの年齢群に区分した.それらの側面頭部X線規格写真の透写図上で設定した変量に統計処理を適用して, 各年齢群におけるShort face群とLong face群の脳頭蓋形態の比較を行ったところ, 以下の結果が得られた.1. Long face群においては, Short face群と比較して頭蓋冠前方部の前後径が有意に小さく, 両群の差は増齢的に明確になっていた.すなわち, Long face群はShort face群よりも, 前頭部の前方成長量が少なかった.2. Long face群においては, Short face群と比較して前頭蓋底の傾斜角(FH平面に対する前頭蓋底の傾斜角)が有意に大きく, 両群の差は増齢的に明確になっていた.3. 以上のように, Long face群の脳頭蓋形態は, かつて遠藤が報告した顔面頭蓋形態と同様に, Short face群と比較して増齢的に扁平化する傾向が認められた.さらに, 脳頭蓋と顔面頭蓋のいずれについても, Short face群とLong face群の形態的な相違は経年的に明確になっていたが, 前額部がそれらの形態的調和を保つために補償的な成長を示す部位であることがわかった.
著者
坂本 恵美子 菅原 準二 梅森 美嘉子 三谷 英夫
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:0021454X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.372-386, 1996-10
被引用文献数
14

思春期性成長期における骨格性下顎前突症(Class III)の下顎骨は, 良好な顎間関係を有する者(Class I)に比べて過成長を示すか否かなど, Class IIIの顎顔面頭蓋の成長様相についていまだ解明されていないことが多い.そこで本研究では, 外科的矯正治療を要すると診断され, 成長観察下におかれていた男子・未治療Class III 16例を研究対象にして, 思春期性成長期における顎顔面頭蓋の成長変化様相を解析した.対照群としては, 男子・Class I 20例を選択した.研究資料は, 10∿15歳までの5年間にわたって経年的に収集した側面頭部X線規格写真である.両群の成長変化様相については, 顔面骨格図形分析, 座標分析, 角度および距離分析によって多面的に検討した.本研究の結果は以下の通りであった.1. Class III群の上・下顎骨は, Class I群と類似した成長量を示し, 劣成長あるいは過成長は認められなかった.2. Class III群の後頭蓋底の成長量はClass I群よりも有意に小さかった.3. Class III群の咬合平面は思春期性成長期間中に変化しなかったが, Class I群では平坦化していた.4. Wits appraisal値はClass I群では安定していたのに対して, Class III群では著しく悪化していた.結論として, 思春期性成長期におけるClass IIIの基本的骨格構成(skeletal framework)には変化が見られず, それによって前後的上下顎間関係が悪化することはなかったが, 咬合平面に対する上・下顎歯槽基底部の前後的位置関係は著しく悪化することが判明した.
著者
粟生田 佳奈子 河内 満彦 菅原 準二 梅森 美嘉子 三谷 英夫
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:0021454X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.387-396, 1996-10
被引用文献数
7

外科的矯正治療前後における成人骨格性反対咬合症患者の発音機能を評価する目的で, 発音時の舌接触パターン, 顎運動, および発声音の解析を横断的資料を用いて行った.研究対象は初診時に外科的矯正治療を要すると診断された成人骨格性反対咬合症患者38例(非開咬-術前群20例, 開咬-術前群18例)および治療後2年以上経過した患者31例(非開咬-術後群16例, 開咬-術後群15例)である.対照群には正常咬合者13例(正常咬合群)を用いた.結果は以下の通りであった.1. 術前および術後の反対咬合症患者では, 発音時における舌の口蓋への接触部位は正常咬合群より前方位を示していた.顎運動経路は, 非開咬-術前群では後方位を, 開咬-術前群では上方位を示した.一方, 術後では両群とも正常咬合群に類似したパターンを示す傾向が認められた.顎運動距離については, 各群間に有意差はみられなかった.2. 日本語としての"自然らしさ"については, 両術前群は正常咬合群に劣るといえた."自然らしさ"は術後に改善の傾向がみられたが, 依然として正常咬合群より劣っていた.3. スペクトル分析については各群間で差が認められなかった.以上の結果から, 外科的矯正治療は成人骨格性反対咬合症患者の発音機能の向上に寄与する可能性があるものと思われた.しかし, 術後群と正常咬合群とを比較した場合では, 術後群の音質は依然として劣っていた.このことは発音機能に関わる神経筋機構の恒常性は形態改善に速やかに順応するものではないことを示唆しているものと考えられた.