- 著者
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上田 周太朗
- 出版者
- 大阪大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2012
フェニックス銀河団は2011年にSouth Pole Telescopeにより発見され、z=0.596に位置する。その後の多波長観測から、この銀河団の中心に位置する銀河の中で、800M・/yrという非常に大きな星形成率を持つことが明らかになった。これほど大きな星形成率を持つ銀河団中心銀河は存在しない。先行研究では、銀河団高温ガスがX線放射により冷え、中心銀河に降着し(cooling flowと呼称)、そのガスが星形成を引き起こしているという主張がなされている。Cooling flowは本来全ての銀河団の中心領域で起きうる現象だが、冷えている途中のガスなどはいまだ未発見で、何らかのメカニズムで抑制されていると考えられていた。もしかするとフェニックス銀河団でのみ、cooling flowが抑制されていない可能性がある。抑制源として考えられているのが、中心銀河に存在する超巨大ブラックホール(SMBH)の活動である。我々は中心銀河に存在するSNBHの観測を通して、フェニックス銀河団の特異性を明らかに知るため、新たにX線観測を行った。高い分光性能とワイドバンド観測が可能なX線天文衛星「すざく」を用いて、我々はフェニックス銀河団の観測を行った。その結果、先行研究では未発見の中性鉄K輝線を初めて検出した。中心銀河の中に存在するSMBHの周囲に中性物質が大量に存在していることを示唆する。またX線スペクトルに強い吸収成分が存在し、埋もれたSMBHであることが判った。中性物質の柱密度と中性鉄K輝線の強度には相関が、SMBHのX線光度と輝線強度には反相関の関係があることが、銀河団に付随しない銀河のX線観測から示唆されている。このフェニックス銀河団の埋もれたSMBHの場合、柱密度と輝線強度には他の銀河と同様の相関を示すが、X線光度と輝線強度の関係は、他の銀河よりも大きい値を持つことが判った。この結果は、銀河団中心銀河と他の銀河で、SMBHの周辺環境が異なっていることを示唆する。その要因の1つがcooling flowかもしれない。これらの結果をまとめ、学術論文として出版した。