著者
志磨 裕彦 中内 伸光 井上 透 内藤 博夫
出版者
山口大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1993

甘利は確率分布族の空間が不変な幾何学構造として双対接続を持つことを発見し、情報幾何学の必要性を提唱した。これは双対接続を持った多様体上での情報理論の研究である。一方、この双対接続の概念はBlaschke流のアフィン微分幾何学においても見出されていた。また、志磨は、Kahlerian多様体との関連においてHessiann多様体の概念を得ていたが、これはまさに平担な双対接続を持った多様体のことである。このように双対接続は純粋数学上、また応用上も重要な概念であり、これを共通のキーワードにして、微分幾何学と情報幾何学の境界領域を総合的に研究することを目的とした「幾何学シンポジウム」を開催した。会期は4日間で、18件の招待講演の他、参加者全員による自由な討論と情報交換が行われた。その結果は「幾何学シンポジウム講演記録」として印刷され冊子にまとめられた。甘利は情報幾何学の統計学、システム理論、ニューラルネットワーク、統計物理学、量子観測、可積分力学系等への応用の可能性を示唆し、江口はコントラスト関数を定義し、それから双対接続が得られることを示したが、松本は逆に双対接続からコントラスト関数を構成した。黒瀬は双対接続が定曲率のとき自然なコントラスト関数(ダイバージェンス)を定め、Pythagoras型の定理を証明した。志磨はHessian曲率が一定のHessian多様体を構成し、これらが、確率分布族として実現されることを示した。野口は双対接続とLevi-Civita接続が一致するための条件を考察し、長岡は古典・量子Cramer-Rao不等式の微分幾何学を展開し、江口は相対エントロピーと数理進化について論じた。その他、長野、金行等による対称空間論や、いくつかの興味あるトピックスに関して研究発表が行われた。
著者
志磨 裕彦 中内 伸光 吉村 浩 牧野 哲 北本 卓也 小宮 克弘 内藤 博夫 菊政 勲 幡谷 泰史
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

多様体M上に平坦接続DとRiemann計量gが与えられて,gがDに関するHesse形式で表せるとき,その組(D,g)をHesse構造といい,Hesse構造が与えられた多様体MをHesse多様体というHesse幾何学とはHesse多様体に関する幾何学のことである.Hesse幾何学は情報幾何学,アファイン微分幾何学,Kahler幾何学等と密接に関連する.甘利と長岡は確率分布族に双対接続という微分幾何学的構造が本来的に備わっていることを発見し,数理情報をこの双対接続の見地から研究するべく情報幾何学を提唱した.双対接続が平坦な場合がHesse構造で,正規分布族や多項分布族など多くの重要な確率分布族が双対平坦接続,すなわちHesse構造を有していることが知られている.また双対接続の概念はアファイン微分幾何学においても非退化アファイン超曲面はめ込みとその余法線はめ込みの組を考えることにより得られていた.更にはHesse多様体の接ベクトル束がKahler多様体になることから,Hesse幾何学はKahler幾何学とも親戚関係にある.本研究ではHesse幾何学をこれら3つの幾何学との関連を踏まえながら総合的に研究した.1.情報幾何学の方法を用いて,新しいHesse計量を構成し,逆に微分幾何学的手法を用いて,新しい確率分布族を構成した.2.Hesse構造のポテンシャルの等位曲面のアファイン微分幾何学を展開し,勾配写像のラプラシアンを考察することにより,アファインBernstein問題の類似が解決した.3.Kahler幾何学との関連でいえば,Kahler幾何学における消滅定理や双対定理に類似する結果が,Hesse幾何学でも成り立つことが示された.4.Hesse構造の自然な拡張であるCodazzi構造が定義できるが,これが定曲率で等質ならばそれは1次元高い等質Hesse構造から導かれることが分った.これらの諸結果は"Geometry of Hessian structures"として,World Scientific社より出版予定である.