著者
中尾 敏彦 ガメール アブシイ 大沢 健司 中田 健 森好 政晴 河田 啓一郎
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.9, pp.791-794, 1997-09-25
参考文献数
10

乳牛の難産および胎盤停滞例 (異常例) の胎子娩出後の子宮修復における内因性のPGF_<2α>の関与の有無を明らかにするとともに, 活性持続型のPGF_<2α>類似体であるフェンプロスタレンの投与が子宮修復と繁殖成績の向上に有効かどうかを明らかにするために試験を行なった. 異常例では分娩正常例に比べ血中PGF_<2α>代謝産物 (PGFM) 濃度の著しい上昇が認められたが, 高濃度の持続期間は短かった. 異常例ではPGFMの高濃度持続日数と子宮修復日数との間に明らかな相関は認められなかったが, 正常例では, PGFM高濃度持続期間が長いもののほうが短いものよりも子宮修復日数が短かった (P<0.01). フェンプロスタレンを異常例では胎子娩出後7-10日, 分娩後子宮内膜炎例では14-28日に投与することにより, 子宮修復と卵巣機能の回復が促され, 繁殖成績が向上することがわかった. このように, 異常例においては短期間に大量のPGF_<2α>が分泌されるものの, これは子宮修復にはあまり関与しておらず, 外因性のPGF_<2α>の投与がこれらの例の子宮修復の促進と繁殖成績の向上に有効であることが示唆された.
著者
中尾 敏彦
出版者
山口県獣医学会
雑誌
山口獣医学雑誌 (ISSN:03889335)
巻号頁・発行日
no.32, pp.13-20, 2005-12

近年、乳牛の受胎率が世界的に低下してきており、その原因の解明と対策が求められている。わが国もその例外ではなく、受胎率の低下に伴って、分娩間隔の延長が認められている。このような、乳牛の受胎率低下の主な原因として、(1)乳牛の泌乳能力向上に伴って牛そのものが受胎しづらくなってきている可能性があること、(2)牛群規模の拡大に伴って飼育者自らが人工授精を行うことが多くなり、その結果として、人工授精技術上の問題が生じている可能性があること、(3)雄牛の生殖機能の低下などとの関連で人工授精に用いる凍結精液の精子の受精能が低下している可能性があること、などがあげられる。まず、授精技術上の問題が原因であるとすれば、受胎率の低下は、経産牛だけでなく、未経産牛にも見られるはずである。しかしながら、カナダのケベックでの大規模な調査成績では、未経産牛の初回および2回目受胎率は、1993年に比べて、2002年で低下しておらず、むしろ、やや高くなっていることが分かる。本稿では、特に経産牛でみられる受胎率低下の原因を、近年の経産牛で認められる生殖機能の変化との関係で解説するとともに、その対策にも言及してみたい。