著者
住田 正幸 倉林 敦 井川 武 ISLAM Md.Mafizul 中島 圭介
出版者
広島大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

1.ニホンアカガエルの灰色眼と黒色眼の2つの色彩突然変異を用いて、皮膚が透明で内臓が透けて見える透明ガエルを効率的に作製し、その遺伝様式を明らかにした。透明ガエルの作製には灰色眼♀×野生型(ヘテロ)♂の交配が最も効率的であった。また、透明ガエルの皮膚の微細構造を調べるため、真皮色素細胞を電子顕微鏡で観察した。その結果、野生型では黄色、虹色、黒色の色素細胞が層状に観察されたが、透明ガエルでは色素細胞の数が少なく、未熟な黄色素胞様の細胞だけが見られた。2.I-SceI を用いたツメガエルの遺伝子導入法をニホンアカガエルに適用するため、顕微注入法の条件検討を行った。インジェクション効率および遺伝子導入効率の評価には赤色蛍光タンパク質mCherry mRNAとEF1αプロモーター連結EGFP/I-SceIベクターを用いた。その結果、受精卵に顕微注入した2日後に mCherry を発現した胞胚が得られた。3.透明ガエルについて色素細胞の変異をもたらす責任遺伝子を同定するため、次世代シークエンサを用いて皮膚から抽出したmRNAの塩基配列を決定し、得られた配列群を利用して皮膚の遺伝子発現プロファイルを構築するとともに、それぞれの遺伝子発現量の比較を行った。実験には野生型、黒色眼、灰色眼および透明ガエルを用いた。これらの皮膚RNAを抽出し、cDNAライブラリ作成、シークエンスを行った。その結果、合計約30Gbpの塩基配列を得た。これらについてアセンブラを用いてコンティグ配列を構築したところ、約23万の遺伝子配列が出力された。このコンティグ配列に各サンプルのリードをマッピングし、各遺伝子にマップされたリード数を統計的手法により群間比較したところ、黒色眼と透明ガエルでは1238、灰色眼と透明ガエルでは387の発現変動遺伝子が検出された。遺伝子ネットワーク解析の結果、前者ではアミノ酸生合成経路、後者ではホルモン刺激などに関わる遺伝子群との関連性が示唆された。
著者
矢尾板 芳郎 中島 圭介
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

発生過程には様々な器官が形成されると同時に不要な器宮は退縮、縮小する。両生類幼生の変態では尾や鰓が甲状腺ホルモンの血中増加に伴い退縮する。本研究によって以下の結果を得た。1.ドミナント・ネガティブTH受容体(DNTR)をマーカー遺伝子と共に生きた幼生の尾の一部の筋細胞に発現させ、THのシグナル伝達を阻害することにより、幼生尾の筋細胞死はst62までは自殺的なものであることを示した。また、st62以降の急激な尾の退縮に伴って他殺的な機構(細胞外基質分解酵素の増加により、細胞外基質が分解され細胞が足場を失い"他殺的"に起きると考えられる細胞死)も複合的に作用しているということを明らかにした。2.退縮する尾において他殺的機構の主な担い手と考えられている細胞外基質分解酵素の阻害剤は、細胞外基質で構成されている脊索の崩壊を防ぐが、尾の退縮を部分的にしか抑制しない。このことは筋細胞等は甲状腺ホルモンにより直接、自殺で死ぬことを支持する。3.尾の筋細胞死に関連するとしてsubtraction library、differential hybridizationで単離された2クローンの全長cDNAをクローニングし、解析した。どちらも、アクチン結合性の蛋白質であった。しかし、尾由来の筋芽細胞株でこれらの遺伝子を強制発現させても、細胞の生存率に変化が観察されなかったことから、自殺遺伝子とは考えられなかった。4.テトラサイクリン誘導体で発現が増加するプロモーターの下流にcDNAを挿入することによって、cDNAライブラリーを作製し、幼生の尾の筋細胞に注入してリポーター遺伝子とともに発現させ、テトラサイクリン誘導体の存在下で飼育している。リポーター遺伝子の発現が処理後の細胞死により減少することを指標としてスクリーニングを行なっている。