著者
中島 満大
出版者
明治大学政治経済研究所
雑誌
政經論叢 (ISSN:03873285)
巻号頁・発行日
vol.91, no.3-4, pp.63-80, 2023-03-30
著者
中島 満大
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.287-302, 2018 (Released:2019-12-31)
参考文献数
27
被引用文献数
1

本稿は, 近代以前の社会において, ‹家族›がどの程度実現していたのかを宗門改帳を用いて素描していく. この論文では‹家族›を母子関係と父子関係が維持されている状態として定義した. 史料として肥前国野母村で作成された『野母村絵踏帳』を使用し, 徳川時代の村落における‹家族›の実現性を析出した. その方法として, 人口学における生命表分析を親との死別に応用している. 本稿では, 子どもの親の生命表を作成し, ‹家族›の実現性を検討した.この研究では, 以下のことが明らかになった. ひとつは, 子どもが10歳に達した時点で, 75%の子どもは両親が生存していたが, 残りの25%の子どもは, 母親もしくは父親のどちらかがいない状態, あるいは両親が共にいない状態にあったということである. 20歳になると, 両親が生存していた子どもの割合は全体の48%にまで下がっていた. もうひとつは, 子どもが生まれた段階で, それ以降, 平均して父親が生存する期間は24年, 母親は35年, 両親が共にいなくなるまでの期間は39年であることを明らかにした.平均寿命の延伸で, 私たちの人生が変化したように, ‹家族›の実現性の高まりは私たちのライフコースや社会に大きく影響している. 歴史の中の‹家族›の実現性は, 現代社会における家族の役割や家族が抱える問題を相対化する力をもっているといえる.
著者
中島 満大
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は、近世海村における個人のライフコースの解明を目的としている。本年度は、婚外子のライフコースを検討した。まず死亡に関しては、女子において婚内子と婚外子との間に統計的有意差がみられた。より詳細にその差をみていくと、「婚内子と母親のみ特定できる子ども」と、「父親のみ特定できる子どもと両親を特定できない子ども」との間で生存率に差が生じており、前者よりも後者の生存率が低い状態にあった。次に婚外子が婚内子と同じように結婚していたのかを検証すると、ここでも婚内子と婚外子との間に差がみられた。つまり、性別を問わず、婚内子に比べて婚外子は結婚しにくい環境に置かれていた。そして死亡の比較の際にもみられた二極化が初婚に関しても確認され、婚内子と母親のみ特定できる子どもは、その他の婚外子に比べて、結婚する割合が高かった。最後に戸主経験(世帯の筆頭者)から婚内子と婚外子の違いを検討した。野母村では戸主の大半が男子であるため、ここでは男子に分析を限定した。その結果、戸主経験の割合については、婚内子と婚外子との間に明確な差はみられなかった。婚内子、婚外子を問わず、30代後半において、約半数が一度は戸主になっていた。これらの分析結果から、近世後期の野母村においては、婚内子と婚外子の歩んでいくライフコースは異なっていたことが明らかになった。しかし、一概に婚内子と婚外子のライフコースが違うとは言えない。なぜなら婚外子のなかでも母親のみ特定できる子どもは、婚内子と同じように結婚し、戸主となっていた。これは、野母村における出生が先行し、その後世帯を移すという結婚パターンを反映しており、その過程のなかで生まれた子どもたちは婚内子と同じ扱いを受けていたと言える。その一方で出生時に父親しかいない子ども、両親がいない子どもは、死亡と結婚に関しては婚内子と比べて厳しい環境に置かれていたことが明らかになった。