著者
山田 雅子 勝山 奈々美 中川 映里 花村 真梨子 諸星 浩美 玉内 登志雄
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.448, 2011

(緒言)近年、身体拘束を廃止しようと医療機関では拘束廃止の取り組みが増加してきている。抑制には紐で縛る抑制「フィジカルロック」、薬物による抑制「ドラッグロック」、言葉による抑制「スピーチロック」があることを知った。私たちは「動かないで!」等の言葉を、言葉による抑制であるという意識なく患者に使用していることに気付いた。そこで、医療現場で勤務する看護師を対象に言葉による抑制「スピーチロック」について意識調査を行った。(方法)看護師174名に独自で作成したアンケート用紙を用いて実施した。1)看護師の背景、2)スピーチロックの認知度、3)例題の言葉に対する認識の程度、等5項目に対し記入を求めた。(結果) スピーチロックを「知っている」と回答した者は26.6%であった。言い方の変化としてスピーチロックと認識されるのは「ちょっと待って!!」が43.2%であることに対し、「ちょっとお待ちください」が1.9%と、差がみられた。スピーチロックと捉える言葉を「毎日聞く」と回答した者は50%を占めた。(考察)言葉は目に見えないもので、抑制であるという定義づけが難しく、他の身体抑制よりも看護師の認識が薄い。そのため不必要な抑制は行わないように心がけていても、言葉で相手を抑制している現状があることを知った。同じ意味でも言葉を変えるだけで抑制に対しての感じ方も変わってくることがわかり、接遇とスピーチロックは関係が深く、接遇の改善でスピーチロックを減らすことができると考える。看護は人と人とのつながりであり、良い接遇は不必要な抑制を減らし、良い看護につながると、多くの看護師が感じていた。看護の現場ではスピーチロックという言葉に対する認識は薄いが、スピーチロックにならないための対策を考えていく必要がある。
著者
中川 映里
出版者
東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻
雑誌
言語情報科学 (ISSN:13478931)
巻号頁・発行日
no.15, pp.179-195, 2017

本稿は,森鷗外の翻訳業績のなかで看過されがちな短篇小説の翻訳に注目し,記述的翻訳研究の枠組みを用いてその実態を分析することを目的とする.分析対象とする作品は,日本での短篇小説形式の成立において重要な役割を果たしたと考えられる翻訳短篇小説集『諸国物語』に収録された「病院横丁の殺人犯」(原作はEdgar Allan Poe の "TheMurders in the Rue Morgue")である.鷗外が短篇小説というジャンルの固有性を理解し,翻訳を通じてその形式を日本に紹介,移入しようとしていたこと,また翻訳に関しては,日本人読者にとっての読みやすさを追求し,原作の味わいを極力残しながら日本語の作品としての完成度を高める意識を持っていたことから,翻訳実践において短篇小説という形式を再現すること,文学性の高い日本語を用いることといった規範が働いていたという仮説を立て,テクスト分析を行った.原文および他翻訳者による同作品の翻訳との比較検討の結果,日本語らしい表現への置き換え,文章のつながりやリズムへの配慮,自然な口調の演出による巧みな人物造形といった特徴が明らかになり,仮説は支持された.こうした鷗外の短篇翻訳の意義は改めて評価されるべきである.