著者
野口 喜三雄 中川 良三
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化學雜誌 (ISSN:03695387)
巻号頁・発行日
vol.91, no.2, pp.127-131, 1970-02-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
7
被引用文献数
4

1966年および1967年,著者らは青森県恐山温泉の温泉水16個,温泉沈殿物12個を採取し,そのヒ繋,鉛,その他の化学成分の含量を調査し,つぎの結果を得た。水のC1-含量は温度の上昇とともに増加し,SO42-の増加にしたがってPHが減少する。ヒ素およびホウ酸はCl-との蘭に正の相関が認められた。 恐山温泉を形成する始めの熱水はほぼ中性で塩化物,ヒ素,ホウ酸に富んでいる。また黄色の温泉沈殿物は雄黄(As2S3)の化学組成ならびにX線回折像を示したが,赤榿色沈殿物は鉛を含むヒ素の硫化物で,X線回折像は無定形であり,元来考えられていた鶏冠石とはまったく異なることを明らかにした。
著者
中川 良三
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌 (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1985, no.4, pp.703-708, 1985-04-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
22
被引用文献数
8

人為的水銀汚染の実態を解明するためには,まず,自然環境から供給される水銀量を明らかにしなければならない。火山ガスは環境大気中に水銀を供給する発生源の一つである。火山ガスの水銀に関連する基礎資料を得るために,北海道地方の地熱地帯 10 箇所(知床半島羅臼,屈斜路湖畔和琴オワツコツ地獄,川湯アトサヌプリ硫黄山,阿寒湖畔ボッケ,大雪山系高原温泉,旭岳地獄谷,十勝岳安政および新々噴火口,登別温泉地獄谷,昭和新山,恵山)の噴気孔ガス中の水銀含量を調べた。 34 試料の噴気孔ガス中の水銀量は乾きガスあたりで 3.2~1828μg/m3,相乗平均値 54μg/m3 であった。これらの値は,本州および九州地方の噴気孔ガス中の水銀含量の約 6 倍であった。同時に採集した凝縮水中の水銀含量は 0.01~32μg/l の範囲であり,火山性温泉水の水銀含量と同程度か,やや高値であったが,平均して気体として揮散した水銀量の 5 % 以下であった。温泉ガス中の水銀含量は 1.2μg/m3 以下であり,噴気孔ガスにくらべて 1/100 以下の低値であつた。火山活動によつて大気中に放出される水銀量を噴気孔ガス中の水銀含量から試算した結果,北海道地方では大気に関連する水銀の約 4 % が火山ガスの寄与によると推定された。この値は本州および九州地方の噴気孔ガス中の水銀量から試算した値の約 6 倍であった。
著者
中川 良三 加藤 龍夫
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.99-108, 1991-04-15 (Released:2017-08-31)

新潟水俣病事件は,昭和39年8月ごろから新潟県阿賀野川流域住民の問に発生した有機水銀中毒事件である,「農夫症」という説があったように,原因については昭和電工鹿瀬工場の排水説と地震で流失した水銀農薬説が論争された、現在,阿賀野川流域の環境試料の水銀調査を行っても,四半世紀前の事件の痕跡は皆無であった.しかし,当時の資料を化学的に検討した結果,水銀中毒事件の発生原因は,工場排水が直接の基盤をなしたとはいえず,新潟地震とその直後の集中豪雨によって流失した水銀農薬が 関与していたと推察された。 本研究の議論はあくまでも,公表された記録の数値と,永年,水銀の研究をしてきた著者らの経験を基に,推論したものであり,決して工場排水説を否定するものではない.いずれにしても,この事件を契機に,人々が水銀の毒性,環境汚染というものを理解したことは意義のあることであった.