著者
高倉 祐樹 大槻 美佳 中川 賀嗣
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.38-44, 2018-03-25 (Released:2018-04-28)
参考文献数
31
被引用文献数
1

純粋失構音における病巣部位と発話症状との関係,定量的指標からみた発話特徴,脳血管疾患と変性疾患による症状の差異について解説した.脳血管疾患による失構音は,1)構音の歪み優位,2)音の途切れ優位,3)構音の歪みと音の途切れが同程度,4)音の途切れなし,の4タイプに分類できる可能性を指摘した.さらに,変性疾患による失構音においては,音の途切れが目立たないにも関わらず,発話所要時間の著明な延長が認められるタイプが存在する可能性が示唆された.最後に,失構音の評価・分類にあたっては,構音の歪み,音の途切れ,発話所要時間といった発話特徴に着目し,そのコントラストを検証することが有用である可能性を述べた.
著者
高倉 祐樹 大槻 美佳 中川 賀嗣 大澤 朋史 谷川 緑野
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.411-421, 2011-12-31 (Released:2013-01-04)
参考文献数
31
被引用文献数
1

発症時から失語症を認めず, 言語性短期記憶 (Short-Term Memory : STM) に選択的な障害を呈した 1 例を報告した。本例の知見から, 言語性 STM の解剖学的基盤は優位半球の側頭弁蓋~横側頭回近傍と示唆された。本例は数唱に比べ, 明確な意味を伴い, かつ同じ音韻系列を持つ文の復唱が良好 (例 : “8-2-3-1”の数唱は困難だが, “蜂に刺されて散々な一日だ”という文の復唱は可能) , 桁数付き数字の復唱が良好 (例 : “7-2-3”の数唱は困難だが, “ななひゃくにじゅうさん”の復唱は可能) , 無意味語系列に比べ有意味語系列の再生が良好であった。以上から言語性 STM における「容量」は必ずしも音韻情報量に依存せず, 意味の付与や情報のチャンク化の効率により決定されると考えられ, 既報告を支持した。さらに, 刺激提示の時間間隔や素材の変化により把持成績には差異が生じており, 援用されるストラテジーもそれぞれ異なる可能性が示唆された。

2 0 0 0 OA 臨床失行症学

著者
中川 賀嗣
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.10-18, 2010-03-31 (Released:2011-05-11)
参考文献数
18
被引用文献数
3 1

失行の (広義の) 定義では,非失行性要因による行為・動作障害を除外する必要性が示されている。そのため,まずどのような非失行性要因が,どのような形で行為・動作に影響するかを紹介した。さらに道具使用動作も含めて,対象操作に関連する行為・動作を 2 つの系に大別した。第 1 の系は,到達・把持動作を含み,どんな道具かによらず,非特異的に対象物を扱う動作の系である。また到達・把持後においても,「各道具に特異的な使用動作」以外の,非特異的な扱い動作もこの系に含めた。この系は使用手の対側半球が担っていると考えられる。第 2 の系は,道具を把持した後の,「各道具に特異的な使用動作」からなる系である。たとえばハサミの場合には,ハサミで「紙を切る動作」がこれにあたる。この系は左優位半球が両手に対して担うと考えられる。本稿では第 1 の系が選択的に障害され,第 2 の系は保たれていると見なし得た 1 例を示し,これを新たな失行型と位置づけ,暫定的に「到達・把持失行」と呼んだ。一方第 2 の系が選択的に障害され,第 1 の系が保たれた病態は,使用失行がこれにあたると見なしうる。
著者
小森 憲治郎 池田 学 中川 賀嗣 田辺 敬貴
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.107-118, 2003 (Released:2006-04-21)
参考文献数
21
被引用文献数
6 3

側頭葉の限局性萎縮により生じる意味痴呆と呼ばれる病態では,言語・相貌・物品など広範な対象についての意味理解が選択的に障害される。意味痴呆における葉性萎縮のパターンには,通常左右差が認められるが,萎縮の優位側に特異的な認知機能障害については,いまだ十分な合意的見解が得られていない。そこでまずわれわれは,左優位の萎縮例と右優位例の神経心理学的比較検討から,左右側頭葉の役割分化に関する手がかりを得ようと試みた。その結果,典型的な語義失語像を呈した左優位例では,呼称,語産生と,理解に関する項目で右優位例を下回り,知能検査についても言語性検査の成績低下が著明であった。一方右優位例では,総じて語義失語の程度はやや軽度で,代わって熟知相貌の認知障害,物品の認知ならびに使用障害を呈したが,言語の諸機能はまんがの理解を除き左優位例に比べ成績低下が軽度であった。また知能検査では言語性,動作性ともに低下し,何らかの視覚性知能の障害も併存している可能性が示唆された。さらに諺と物品という,それぞれ言語性・視覚性と異なる表象の保存状態を調べる補完課題を用いた比較では,どの意味痴呆患者も何らかの補完課題の障害を認めたが,諺の補完課題での成績低下が著明で物品の補完は比較的保たれる左優位例に対し,おもに物品の補完課題に著しい困難を呈し,諺では補完が比較的保たれる右優位例,という二重乖離が認められた。これらの結果は,左側頭葉前方部が言語性の,また右側頭葉前方部は視覚性の表象を司る神経基盤として重要であることを示唆している。
著者
高倉 祐樹 大槻 美佳 中川 賀嗣 大澤 朋史 谷川 緑野
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 : 日本高次脳機能障害学会誌 = Higher brain function research (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.411-421, 2011-12-31
参考文献数
30

発症時から失語症を認めず, 言語性短期記憶 (Short-Term Memory : STM) に選択的な障害を呈した 1 例を報告した。本例の知見から, 言語性 STM の解剖学的基盤は優位半球の側頭弁蓋~横側頭回近傍と示唆された。本例は数唱に比べ, 明確な意味を伴い, かつ同じ音韻系列を持つ文の復唱が良好 (例 : "8-2-3-1"の数唱は困難だが, "蜂に刺されて散々な一日だ"という文の復唱は可能) , 桁数付き数字の復唱が良好 (例 : "7-2-3"の数唱は困難だが, "ななひゃくにじゅうさん"の復唱は可能) , 無意味語系列に比べ有意味語系列の再生が良好であった。以上から言語性 STM における「容量」は必ずしも音韻情報量に依存せず, 意味の付与や情報のチャンク化の効率により決定されると考えられ, 既報告を支持した。さらに, 刺激提示の時間間隔や素材の変化により把持成績には差異が生じており, 援用されるストラテジーもそれぞれ異なる可能性が示唆された。