著者
中村 登流
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.6, no.5-6, pp.424-488, 1972-12-30 (Released:2008-11-10)
参考文献数
80
被引用文献数
3 4

1.エナガ(Aegithalos caudatus)の繁殖期の番い行動圏について構造•分布•冬の群れテリトリーとの関係を研究した。調査は1964~1968年の5繁殖期に,本州中部山麓の混合林で行なった。2.番い行動,活動点の分布,移行行動,たたかい行動,手伝い行動を分析し,繁殖期の番いテリトリアリズムについて考察した。3.番いは番い群を経て冬の群れから分出して来る。春に番い形成の行動は見られない。番い群の行動圏は冬の群れのそれに入っている。そしてその範囲を共同で防衛している。番いは冬の群れの中にでき,除々に孤立していく。番い行動圏は番い行動と共に冬の群れのそれから分離して来るが,冬の群れの行動圏内に入っている。4.番いは夜には,共同ねぐらで群れと共に眠る。日中には営巣行動をするが初期には午前中のみで,悪天候には群れに戻る。次第に一日中番いで過し,営巣するようになる。5.番い行動圏は重複し,特に冬の群れ行動圏のセンターでは著しい。優位の雄の番いは早く孤立し,群れ行動圏のセンターに対立するような位置をとる。おそくまでセンターにとどまり,そこで重複した行動圏を持つものは劣位の雄のものである。6.はじめは同じ群れのメンバーと番い群をつくり,異る群れのメンバーとはたたかう。しかし,番いの孤立化が進むにつれて同じ群れのメンバーともたたかうようになる。番いが完全に孤立するのは共同のねぐらから巣の内部へ番いのねぐらを移した時からである。それは巣の外装が完成したあとである。7.たたかい行動のピークは営巣期にあり,営巣期後半に交尾が行なわれる。エナガのテリトリアリズムは営巣期に最高となって完成する。その後,たたかいはずっと減少し行動圏も小さくなる。個体群内は社会的構造において安定し,次世代の生産が行なわれる。しかし実際には抱卵期以後,巣の破壊がはげしくなり,そのために再営巣があるために混乱する。8.番いは行動圏内に高活動密度部を持ち,そこは隣接番いと決して重複しない。パトローリングはそのセンターから出てセンターへ戻る。その間隣接番いとのたたかいがある。また,隣接番いとしばしば対立する特定の数ヶ所がある。9.巣の位置は必ずしも高活動密度部に関係しない。しかしそのセンターの内部か又は近くにある。それはブッシュの濃密な場所である。巣の位置は雄が紹介して雌が決定する。その時求愛や交尾前と同じ型のディスプレイを伴なう。10.再営巣は前の巣の近くに行なうが,しばしば著しく離れ,隣接テリトリーを越えることもある。しかし前の行動圏にこだわる傾向があり,一方では,たとえ離れても冬の群れ行動圏を出ない。11.手伝いは営巣期,抱卵期には現われない。育雛行動のみの手伝いである。独身者と繁殖に失敗した番いであって,後に家族群となり,冬季群のメンバーとなる。12.番いのテリトリアリズムはルーズであるが,space outははっきりしている。番いのテリトリアリズムは冬の群れのテリトリイ内で現われ,その占有地域は冬の群れテリトリアリズムによって保証されている。
著者
中村 登流
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.155-173, 1962-12-31 (Released:2008-11-10)
参考文献数
20
被引用文献数
2 2

1.この研究はエナガ(Aegithalos caudatus trivirgatus)の蕃殖期生活の特殊性を明確にするため野外観察の結果をまとめたものである。2.1951年から1961年までの蕃殖期におけるのべ147回の野外調査により,48番,71巣を観察した。雌雄の区別は行動差,尾羽の曲り方の差,尾羽の破損状態,足環によって判別した。3.蕃殖期は比較的早期性で新葉ののびる時期に育雛期が来るように調整されている。早期営巣者は2月からはじめるが寒波によって影響されやすく,営巣期間が晩期営巣者より長い。4.番形成は営巣場所決定以前に行なわれ,番群は冬期群移行範囲の局部執着により出現する。営巣に入っても寒冷気候が戻った場合再び番群が形成される。5.営巣場所は林縁ならびに林冠部で,常緑性針葉樹に執着し10m以上の枝先にもっとも多い。落葉広葉樹の樹幹には3~10m,小灌木またはブッシュでは3m以下である。6.蕃殖期内で巣が破壊された場合営巣場所を変更する。蕃殖期末に破壊された場合再度営巣はしない。7.営巣は雌雄共同で行なう,営巣活動時間は休息時間とほぼ同じ位で,むしろ休息の方が多い。営巣期間は早期営巣者で2ヶ月もかかる場合があるが晩期営巣者は10日位である。8.塒は営巣初期の外廓ができるまでブッシュの中にとり,外廓ができて以後巣内でとる。9.抱卵活動は,巣外時間に対する巣内時間の比で示すと,前半で1に近く,後半で2に近い。10.夕刻巣へ入る時には雄が先導して雌が先に入り,後から雄が入る儀式的行動がある。11.孵化当時の給餌は抱雛している雌に雄が口うつしにし,雌が雛に与えるが数日にして雌雄が給餌行動をとるようになる。12.1羽当り1分間の給餌回数は0.03であり,初期と晩期でやや少ない。13.雌雄の給餌行動には雄が先導して先に雌が給餌し,その間雄はデスプレイ行ない,次に雄が給餌するという儀式的行動がある。14.主として雄が行なうup-right flight displayは営巣期には特定の場所で大規模に行なわれ,産卵•抱卵•育雛期には巣の周辺の一定空間で行なわれ,その活動が最高に達するのは孵化直後である。15.テリトリーははっきりせず巣の防衛が主であり,デスプレイは持ちながらテリトリーの主張をしない。
著者
石川 俊浩 中村 登流
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.159-171, 1988-08-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
9
被引用文献数
2

1985年の春と秋の渡り期に,新潟県上越地方のいわゆる頸城平野に渡来したシギ•チドリ類の採食行動を調査した.採食行動については歩く歩数とつつく回数を記録し,これを種別,環擁別に比較した.1)シギ科はほとんど停止することなく歩きながら採食していくが,チドリ科はつい球み回数と同じくらい停止をしている.2)シギ科,.チ.ドリ科ともに科内では体の小さいもの翠ど単位時間あたり高頻度についぼんでいる傾向がみられた.3)チドリ科は春,秋ともにシギ科よりついばみ回数が少ない傾向があり,ついばみ回数種間差より歩数の種間差が大きかった.4)一方,シギ科は春,秋とおして一般にチドリ科よりもついばみ回数が多く,かつその変異は非常に大きかった.5) シギ科のハマシギとキリアイは,水の中に入るとつつき採食からさぐり採食になり,その分嘱の使用時間が増えるため歩数が減る.6)以上より,シギ科の生態的分離は嘱の使い方に重点がおかれているが,チドリ科のそれは歩幅を変えることに重点がおかれていると考えられる.
著者
中村 登流
出版者
日本鳥学会
雑誌
(ISSN:00409480)
巻号頁・発行日
vol.25, no.99, pp.21-40, 1976

1.インド北西部ジャムー•カシミール州のラムナガールに1973年10月31日より12月6日まで滞在し,冬の鳥を調査した.Habitat 内の構造特性と鳥の採食形式との関係について考察した.2.調査地は人工的な農山村で,鳥の環境として,松林,広葉落葉樹林,マメ科疎林,ブッシュ地,芝生草原,水田,河原,人家に分け,各々の特定的な構造に対応する種構成,個体の相対量が見つかった.3.ツグミ亜科の種が多数越冬しており,各 habitatに対応する生活空間を分けている.その生活空間は,1)地表面でその近くに跳びついて攻撃し,特定の監視所は持たない,2)ブッシュ上の特定の監視場所から地表面をねらって飛びついて攻撃する,3)林内の特定の監視場所から樹間空間に flycatching をする,という3型に分けられる.ラムナガールの冬には,典型的なヒタキ亜科の生活空間はあいており,ツグミ亜科がその下部要素へ入っている.4.鳥の集合に,1)警戒行動による集合,2)採食群による集合,3)コーラスグループによる集合が見つかった.さわがしいムードによる集合は各種の生活空間の活用性を拡大する生物的創造空間を示している.5.冬のテリトリー行動が目立った.ツグミ亜科には単独でテリトリアルなものが多い.オープンな場にいるものと,flycatching をするものは単独テリトリーを持つ.しかし,異性間テリトリーは見られない.Plumbeus Redstart では雄間テリトリーの中に雌は単独でいて,番いにはなっていない.Blueheaded Redstart では雄間テリトリーの中に排他的な雌が共存していて,番いにはなっていない.
著者
中村 登流
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
(ISSN:00409480)
巻号頁・発行日
vol.15, no.75, pp.201-213_1, 1960

1. このエナガの個体数調査は長野県下伊那郡上郷村天滝川河岸段丘崖での1956年2月から1959年8月までの観察である。<br>2. 個体数及び集合状態の季節的変動について整理した。<br>3. 個体数の季節的変動は6月中•下旬に最高値を示し,3月下旬に最低価を示した。<br>4. エナガの特殊な変動として一時に多数個体の急増急減があり,これは群単位で調査地域に対して出入しているからである。<br>5. 蕃殖期におけるエナガは2年間の記録において全年の最大個体数の30%以下が調査地域で蕃殖した。又蕃殖の成功率は70%前後であった。増加率は約140%と180%を示している。<br>6. 個体数の季節的変動の型は,1) 1~3月の年間最低値を示しながら変動の少い時期。2) 4~5月の一家族ずつ出現するため急増する時期。3) 6•7月の年間最高値を示す時期。4) 8~12月の全量は年間最高値に及ばないが,10羽代から30羽代の間を急減急増の変動をくりかえす時期から成っている。<br>7. 個体の集合状態の季節的変動は,1) 2~4月の番を組む時期,2) 5月の家族群をなす時期,3) 6•7月の大合同群を形成している時期,4) 8~10月の中•小合同群をなしている時期。5) 11~1月の冬季群の時期,というようにくりかえされる。この変動は地域的に見ると,番では全地域に個体が散在した状態であり,家族群の行動力がついて来ると,いちじるしく集結して個体の偏在した状態を示す。この偏在は中•小合同群として分解すると共に地域的にも分散の傾向へすすみ,冬季の行動圏を形成するに至る。<br>8. 集合状態の季節的変動の循環の中で,調査地域内の個体が他の地域とつながりを持っていることがあきらかであり,夏季における大合同群により,より大きな地域とより多くの仲間との生活を経験していることは注目に値する。<br>9. 調査地域における冬季群はこの約120km<sup>2</sup>の帯状地帯に,およそ1~2群を含み,全個体数が20羽以下位であるが,他の群が他地域から時々出現する。一方早く分出した群が姿を消すことがあり,内部の代謝が認められる。
著者
中村 登流
出版者
山階鳥類研究所
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.155-173, 1962-12