著者
中村 長史
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.2_234-2_256, 2021 (Released:2022-12-15)
参考文献数
42

領域国内の平和定着を領域国外からの派兵によって実現しようとする「武力を用いた平和活動」 からの撤退決定が可能となるのは、いつか。活動の一参加国に着目する先行研究は、派遣部隊の犠牲者数増加を有権者から批判されそうなときだと論じてきた。しかし、活動の主導国については、このような 「目前の非難」 回避のための撤退決定は、論理的にも経験的にも考えにくい。そこで、本稿では、主導国は 「将来の非難」 回避をも図ると捉える。また、介入時には対内正当化が最重要であるが撤退時には対外正当化が最重要になる 「重要度の逆転」 が起こるという形で、二層ゲーム論を発展させる。この 「将来の非難」 回避と 「重要度の逆転」 を踏まえれば、以下のような仮説が得られる。すなわち、撤退後に治安が悪化した場合に生じる不満を他の主体に逸らすことができるとき、撤退決定が可能になる。その責任転嫁の対象については、国内主体として前政権、国外主体として国際機関や被介入国などが考えられるが、撤退を正当化する際には対外正当化が最重要となるため、国外主体への責任転嫁こそが必要になるのではないか。この点につき、米国主導のソマリア、イラクへの介入を事例として分析を加える。
著者
中村 長史
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2023-04-01

本研究は、「平和活動や国際刑事法廷は、いつ終了が可能となるのか」という問いへの回答を通じて、対外政策終了論の体系化を目指すものである。まず、これまでの平和活動に関する研究を通して明らかになった《介入正当化と撤退正当化のディレンマ》や《責任転嫁可能な状況》という概念について、理論仮説に修正を施したうえで、ソマリア、ボスニア、アフガニスタン、イラク等を事例とした分析によって精緻化を図る。次に、平和活動終了についての分析を踏まえて、刑事法廷の終了について分析する。具体的には、上記の二つの概念が旧ユーゴ国際刑事法廷(ICTY)やルワンダ国際刑事法廷(ICTR)の終了決定過程を説明できるかを検証する。