著者
高山 真 中澤 徹 劉 孟林 檜森 紀子 門馬 靖武 菊地 章子 志賀 由己浩
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究の目的は、健常者を対象に、漢方薬当帰芍薬散、桂枝茯苓丸を単回投与した際の眼底血流促進効果をレーザースペックルフローグラフィ(LSFG)検査等により評価し、その効果を検討する(研究①)、正常眼圧緑内障患者を対象に、通常の眼科的治療に漢方薬を追加内服した際の効果を検討する(研究②)ことにより、正常眼圧緑内障に対する漢方薬による治療の有効性を明らかにすることである。研究実績の概要:研究①については、前年度までで研究が終了し、学会や論文等による発表を行った。研究②については、本年度も対象者に漢方薬による治療追加を行うデータ収集を行った。平成30年3月31日時点で、正常眼圧緑内障の女性12名がエントリーされた。1名が除外基準により該当した。11名に対し6ヶ月間当帰芍薬散の投薬を行い、全11例がこれを完了した。中間解析では、9名17眼について、母集団の解析、および当帰芍薬散単回投与前後の眼底血流の検討を行った。その結果、母集団の検討では漢方医学的に「血虚」(末梢血流障害、冷え症)と診断された症例が多く、正常眼圧緑内障の病態である眼底血流低下と合致すると考察された。また、眼底血流の解析では、当帰芍薬散服用後に、7眼で眼底血流の上昇を認めた。血流が上昇した症例は、漢方医学的に血虚のスコアが高い傾向がみられ、正常眼圧緑内障と漢方医学的「血虚」の病態との関連、そして当帰芍薬散がそうした症例の眼底血流を上昇させる可能性が示唆された。有害事象の検討では、1名に軽微な腹部違和感が出現したが、服薬を継続し症状は軽快した。本研究に関連し、眼底血流が著明に改善した症例の発表、論文発表を行った。
著者
石井 学 阪本 亘 東郷 香苗 中澤 徹 島﨑 聡立 田中 真衣 大手 辰哉 松澤 寛
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.27-41, 2021 (Released:2021-01-31)
参考文献数
59

医薬品開発におけるリアルワールドデータ (RWD) およびリアルワールドエビデンス (RWE) の活用は, 開発の効率化, 患者の新薬へのアクセス向上, 二次利用データの活用による医療機関側のデータ収集の負担軽減など, さまざまな立場でのメリットが期待される. 一方で, RWD/RWEの承認申請での受け入れ可能性は日米を含むいずれの国においても不明確な点が多い. そこで, 日米の規制当局におけるRWD/RWEに関する規制と基盤整備プロジェクトおよび承認申請でのRWE活用事例について調査した. 規制や基盤整備プロジェクトは, 日本では未承認薬や適応外使用に関するもの, 市販後の安全対策を目的としたものおよびレジストリデータ活用に関連する取り組みがみられた. 一方, 米国では, FDAから承認申請へのRWD/RWE活用を評価するための枠組みが示されていた. また, FDAは製薬や医療データベース分野の民間企業やアカデミアと協業して, RWD/RWEの活用の可能性や懸念点を検討するプロジェクトを実行していた. FDAへの承認申請でRWEがエビデンスとして採用・不採用となった事例からは, エビデンスとしての適切性や信頼性が問われる点が明らかになった. また, 米国ではレジストリデータ, もしくは電子健康記録 (EHR) データにもとづく事例が認められたが, 日本ではレジストリデータが主に活用されていた. わが国において承認申請へのRWD/RWE活用を促進するためには, 多様なデータソースを利用できる環境整備や, 信頼性のあり方の共通目線をもつことが重要である.
著者
中澤 徹 西田 幸二
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会総会抄録集 第35回日本臨床免疫学会総会抄録集 (ISSN:18803296)
巻号頁・発行日
pp.60, 2007 (Released:2007-10-12)

[目的] 網膜剥離は罹患率の高い眼疾患で、視細胞のアポトーシスが視力障害の原因となる。しかし、その機序は殆ど分かっていない。一方、網膜剥離患者の眼内で炎症性サイトカイン、ケモカインが増加していると報告されている。本研究では、視細胞変性と炎症性サイトカイン、ケモカインの因果関係を調べた。 [方法] 成体マウスに網膜剥離を誘導し、サイトカインの発現変化をRT-PCR、ELISA、免疫染色にて調べた。MCP-1中和抗体とノックアウトマウスを使用し、TUNEL法でMCP-1抑制の細胞死に対する効果を評価した。 [結果] 網膜剥離によりIL-1beta、TNFalpha、MCP-1、bFGFが増加し、特にMCP-1は100倍近い増加を示した。MCP-1を抑制すると著明に網膜剥離による視細胞死が抑制された。MCP-1は網膜グリア細胞の一つである、ミューラー細胞に発現し、CD11b陽性白血球(マクロファージやマイクログリア)を眼内に遊走させ、活性化されたCD11b陽性白血球が、活性酸素を介して視細胞を障害していることが明らかとなった。 [結論] マウスの網膜剥離による視細胞変性には、グリア細胞と白血球の相互作用が重要であることが示唆された。また、白血球の遊走に関わるケモカインMCP-1や活性酸素の抑制は、網膜剥離の視細胞変性に新規の神経保護治療となる可能性がある。
著者
常盤 純子 石川 奈津美 山本 莉奈 竹下 孝之 中澤 徹
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.257-262, 2014 (Released:2015-03-19)
参考文献数
11

調節痙攣は毛様体筋の不随意的な持続的収縮により過剰な近視を呈する病態であり、その多くは心因性である。調節は通常両眼対称性に生じる反応であることから、心因性の調節痙攣も一般的には両眼性で生じ、片眼性での報告は希である。今回我々は、片眼性の調節痙攣と心因性視覚障害が合併した特異な症例を経験したので報告する。 症例は14歳女性。左眼の視力低下を自覚し近医を受診、他覚的にあきらかな異常が認められなかったため精査目的で当院を紹介され受診した。左眼は通常の視力検査では視力が出ず、トリック法を用いると良好な矯正視力が得られた。また視野検査では求心性視野狭窄を認めた。細隙灯検査や眼底検査などの他覚的検査で異常は見られなかったことなどから、心因性視覚障害と診断された。また、右眼に比べ左眼のみ過度の近視化が認められたが、調節麻痺下では屈折値に左右差はなく、眼軸長も左右差がなかったことから、左眼の片眼性調節痙攣が疑われた。 その後、経過観察中に矯正視力の変動を繰り返し、トリック法を用いても良好な視力が得られなくなり、自覚的視力は無光覚まで低下するようになった。それと同時期に輻輳痙攣も見られるようになった。 調節痙攣に対する治療として、累進屈折力レンズや調節麻痺剤の点眼を使用したが、十分な改善は得られず、輻輳痙攣が若干軽減した程度であった。片眼性の調節痙攣と心因性視覚障害という特異な所見を呈し、各種治療にも抵抗性であったが、その後の生活環境の変化で心理的ストレスが軽減された様子があり、発症1年後には自覚症状は改善し、調節痙攣などの所見は自然消失した。