著者
中西 眞知子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.224-239, 2013 (Released:2014-09-30)
参考文献数
65

再帰性 (reflexivity) については社会学では多様な議論が展開されてきた. 再帰性論を社会学の主要テーマにしたのは, アンソニー・ギデンズであった. 彼は, 再帰的近代化論において, 自己再帰性や制度的再帰性など認知的再帰性を論じた. それを批判的に継承し, 独自の再帰性論を提示したのがスコット・ラッシュである. 本稿ではラッシュの再帰性論を基軸に, 再帰性の変化と新たな展開を明らかにする.ラッシュは, ウルリッヒ・ベックやギデンズの再帰性を, 認知的, 制度的な再帰性で, 単純な近代化に結びつくと批判する. 脱組織化した社会において, 非認知的で模倣的な象徴やイメージに媒介された美的再帰性や, 実践の解釈を反映した共有の意味や慣習に媒介された解釈学的再帰性を提唱する. またグローバル情報社会では, 他者との相互反映性において知を行動に結びつける現象学的再帰性の働きに注目する. ラッシュによれば, 社会の変化を反映して再帰性は, 啓蒙思想を源とする合理的な認知的再帰性や制度的再帰性から, 芸術の近代化を源として美意識や共感を重視する美的再帰性や解釈学的再帰性へ, さらにグローバル情報社会で相互反映性において知と行動を結びつける現象学的再帰性へと変化する.情報化や市場化の進展によって再帰性は変化し, 新しい再帰性も生まれつつある. そのなかで筆者は, ラッシュやジョン・アーリらの再帰性論から導かれる新しい市場再帰性に注目した.