著者
香川 せつ子 佐々木 啓子 中込 さやか
出版者
津田塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

昨年度から続くコロナ禍による海外渡航制限のため、当初計画していた現地調査は実施できなかった。しかし国内の大学図書館や国会図書館が所蔵する一次資料や先行研究の渉猟およびネット上で公開された海外情報へのアクセスによって実証的研究を進めた。前年度から引き続いて19世紀末から20世紀初頭にイギリスに留学し、帰国後に教育・科学分野で活躍した大江スミ、二階堂トクヨ、黒田チカの軌跡と業績を検証し(香川・中込)、他方では奨学金によるアメリカのブリンマー・カレッジ等への留学が日本の女子高等教育にもたらした貢献(佐々木)ついて検討した。本年度の新たな取り組みとして、研究代表者の香川は実践女子大学創立者の下田歌子の19世紀末におけるイギリス留学について重点的に調査・研究した。『下田歌子と近代日本ー良妻賢母論と女子教育の創出』(共著、2021年9月刊行)では、下田梅子と津田梅子がともに華族女学校在職中に英米に留学していることに着目し、両者の西洋文化受容の過程を比較考察した。また別の論文では、下田と相前後してイギリスに留学した安井てつと下田を比較し、イギリスの女子教育から受けた影響を体育の奨励に着目して比較考察した。本研究課題の特質から、研究成果の海外への発信や海外研究者との交流にも努めた。2021年5月の女性と科学に関する国際研究会(Women and Science in the Twentieth Century)では香川が黒田チカについて報告、6月の国際教育史学会(ISCHE)では香川が二階堂トクヨ、佐々木が藤田たき、中込が大江スミについて報告、11月のイギリス教育史学会(HES)では佐々木が日本女性を対象とした米国留学奨学金について報告した。いずれもオンライン開催であり、海外研究者との対面での交流はならなかったが、頂いた質問やコメントを通して考察を深めることができた。